第3話 パパ、ママ、ごめん
私、御門あすか、1歳。
あ、違う、ルナだった。ひょっとしたらルーナかもしれない。
赤ちゃんの成長過程とか知らないから、私の前世の知識を用いたチートを、いつ披露しようかと思ってたけど、全然気にしてもしょうがなかった。
まず、言葉。
全然何言ってるかわかんないし!
英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語、韓国語どれとも違う。いや、どれも喋れないけど。
多言語系ユーチューバーもびっくりだろうよ。
結局、口真似するところから始めた。
それで最初に憶えてしゃべったのが、自分の名前。パパ、がっかりしてたよ。ごめん。
ママは引くほど喜んでた。
泣いてたし。
泣きも笑いもしない、反応も薄い私を、ひょっとしたら、重い障害を持ってるんじゃないかって思ってたようだ。
ごめんね、ママ。なるべくなんか反応するよ。
だから、表情は保って。
次に歩行。
早々に立ち上がって歩いてやろう、くらい思ってたのに。全然歩けない。
プールの中にいるより動かない感じ。結果、起き上がろうとして転げ回って、ベッドから転がり落ちてしまった。
ママ大騒ぎ、パパ、ちゃんとみてろってめっちゃ叱られてた。ごめんよ、パパ、ママ。
しゅんとなった、推しの姿はご褒美だ。
何とか頭の回転と身体の反応とに折合いをつけて、歩けるようになったのは、1歳になってしばらく後だった。
他の子に比べて遅いほうらしい。
チート披露失敗。
動き回れるようになると、家のいろんな物に目がいく。そんなに裕福な家ではないようだ。一度少し扉が開いている部屋に入ったら、剣だの弓矢だのがあって、驚いた。
パパ、兵士か狩人なのかな、と興味深く見てたら、ママが悲鳴を上げてとんできた。
その後、パパ、めっちゃ叱ら(略)
一番興味深かったのは、文字だ。
ちゃんと紙に書かれた文字!印刷ではなく手書き。この世界にも恋愛小説とかあるのかな。あったら、読みたい。読みまくりたい。
無いなら創作してやる。
そんなふうに文字を見てる私を見て、ママはとても嬉しそうだ。それぞれの文字の読み方を教えてくれる。
ごめんよ、ママ。パパ(推し)とあすかのTL小説のプロットを考えてたよ……
言葉を覚えるにはこの走馬灯チートは役に立つ。なんたって発音を聴き取る細かさの解像度が高いのだ。
だから、喋る言葉はとても綺麗らしい。
私には間延びした間抜けな発音にしか思えないのだが。
こんな生活も3歳まで(仮説)だ。
チュートリアルあすかとして、ルナの能力を引き上げておいてあげよう。




