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苛立たせる奴

「38番の方、3番窓口へどうぞ」


 あれから、一旦病院に行ったはいいが、面倒なことになった。


 シュトローマー君が持っている狩猟免許証が、更新期限を過ぎていたのだ。恐竜狩猟組合の組合員としての資格を表すカードでもあるため、組合員が恩恵を受けている医療保険も使えなかった。

 高額な治療費を全額払ったけど、また組合員資格が復活すれば何割か帰ってくる、という説明だった。



 膝を痛めているシュトローマー君には待ち合いで座っていてもらい、わたしが受け付け窓口で対応することにした。彼には、サインだけしてもらう。後はわたしが書く訳だが、事務手数料を取りたいくらいね。


 受け付けのおじさんは、白髪が混じり始めた黒髪で、髪型も眼鏡もカクカク。わたしを見ることなく書類を捌きながら話しかけてきた。

 なんだか、融通が利かなさそう。


「本日はどうされましたか?」

「わたしの連れの免許証が期限切れになっちゃって、その更新に来たの」

「ではB区画の狩猟免許更新窓口へお進みください。そこで書類を書いて、青い印字の紙をここに持ってきてください」

「ええ。……」

「…………。

 ――どうされました?」

「えっ?」


 もう説明終わり!?

 何のための受け付け!?



 ロムアルド恐竜狩猟組合本館の、正面から入ってすぐに受け付けがあるのだが、右側にはわざわざカウンターで区切られた事務スペースがある。

 そのカウンターには窓口が数箇所あるが、そのうち免許更新窓口は比較的手前だった。


「こんにちは、免許の更新?」

「ええ。わたしじゃなくて、あそこのソファーに座っている彼なんだけど、彼、今松葉杖だから、わたしが代理で書類を書くわ」


 わたしが異性を相棒にしていることに、この窓口のおばさんは目を輝かせた。


「まあっ! あなた彼のためにいろいろ頑張っているのね!」

「ほんと頑張ってるわよ」


 免許更新のハガキを無視するような男だし、世話が焼けるわ。


「あなた、いいお嫁さんになれるわよ」

「結構! あいつの身の回りまで構っていられないから」

「でも、世話の焼ける人って、案外放っておけないのよねぇ」

「そうね、あいつは放っておいたらゴミ屋敷で孤独死しているタイプね」


 おばさんは知らないかもしれないけど、シュトローマー君はかなりだらしない。

 小さな恐竜ならサクサク狩ってくれるから、手際はいいのだけど、それ以外に相棒にしているメリットはない。


「それで、免許の更新なんだけど――」

「あらいけない、そうだったそうだった。

 ――こことここ、後時刻と、組合員番号を記入してあげて。彼氏さんに書いてもらうのは、ここのサインだけでいいわ」


 もう、相棒との関係を訂正する気も失せる。


 免許証すらデジタル化しているのに、なんで申請書が紙なのか、理解に苦しむ。

 人新世(じんしんせい)地球連盟なら、データベースにすぐ称号してくれるんだけど。


 さすが1億1000万年前。


「組合員番号は……、合ってる。日付もオッケー……。うん、大丈夫よ」


 紙だからこそこうして事務員のダブルチェックが入る。本当に手書きじゃないと駄目なのかな。


「あなた、彼の住所も暗記しているのね! いつかここに住むの?」


 誰があんなガラクタだらけの家に!

 それに、役所の手続きを全部わたしがしていたら、いつの間にか個人番号も覚えてしまっただけだし。


 ……あいつを殺せばわたしの仕事は減るのかしら。

 助けずにあの子に喰わせればよかった。


「あっ、そうそう、受け付けの人、よく言い忘れているのだけど、多分会計の時に収入印紙がいるわよ」

「……収入印紙?」


 未だに存在価値が理解できないあの紙切れ?


「ええ、ほら、地球連盟政府への書類申請だから、500エイジ以上の支払いには収入印紙がいるのよ。免許更新なら、2エイジの印紙でいいはずだけど」

「そう、じゃあどこで買えるの?」

「外に売店があるから、そこね。『2エイジ印紙をください』って言えば、あそこの店員さんもよく分かっているから、すぐ用意してくれるわ」


 売店の店員が無駄に仕事を増やされているということが分かった。なんだこのシステム。


「こういうのって、どうして窓口を統一しないのかしら。印紙くらいここで売っちゃえばいいのに」

「そうなんだけど、収入印紙を売ることができる店って限られているのよ。収入印紙って切手みたいな紙でしょ? だから本来郵便局しか売っちゃいけないみたいなの。それで、うちも役所であって郵便局じゃないし、委託も受けられないから、委託業者に収入印紙を売ってもらっているの」


 あんなの、売店で売らなくてもその都度その都度コピー機で印刷したらいいような気がする。別に金がいるのなら払うし。


「ほんと、役所の仕事ってよく分からないわ」


 役所で働いているおばさんがそう言うのだから、まず理解できないものだろう。

 あのイリタトルのほうが聞き分けがよかった気がする。


「それじゃ、彼の世話を頑張ってね!」

「もう勘弁して……」



 売店で収入印紙を買い、受け付け窓口に戻りで順番を待っていた。そして、運悪くさっきの眼鏡のおっさんのところに当たってしまった。


「本日はどう――」

「免許更新窓口に行ってきたわ。これがそこで書いた紙」


 このおっさん、さっき会ったこと忘れていたな。


「ああこれね。拝見させてもらいます」


 ふむふむと書類を眺めた後、大きなハンコを押して、おっさんが電卓を取り出した。


 なぜ電卓なの? 絶対パソコンでできる仕事だし、計算式とかプログラムしておいたら勝手に請求額が出ると思うんだけど。


「520エイジです」


 計算しないのなら電卓を出さなくていいじゃん! 数字を伝えたいだけなら電卓じゃなくてもいいでしょ!

 液晶画面のほうが数字が見やすいとか? せめてプラスキーを1回押すのかと思った!


「この紙を持ってC区画の会計課までお願いします」


 ここに! レジを! 設置しろ!


「免許証のほうは、また2週間後に届きますので、その際にこの青い印字の紙を持ってここにお越しください」

「……郵送できない?」

「できません」


 少しは悩んで。素振りでいいから少しは気を使っている感じは見せて。狩猟組合員として組合費も払ってるんだから。

 即答しやがったおっさんの名前と顔は覚えたから、いつか出世したらこいつをクビにしてやる。



「そういえば、タペジャラって害獣駆除依頼が出ていましたよね」

「ええっとですね、確かに依頼は出ていたと思うのですが、そちらは害獣対策課の窓口に問い合わせください」


 お願いだから、窓口を一つにまとめて!

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