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トゥパンダクティルス

 空を飾るその頭は、日光を赤く透かす。

 コレクターから人気を集めるそのヨットの帆のような頭飾りは、発情期特有の鮮やかさを魅せる。剥製にすれば、高値で売れるだろう。

 だから、できるだけ胴体を狙う。


 トラックの車載機関銃をトゥパンダクティルスの胸に向ける。

 比較的近くを飛んでいて助かる。できるだけ少ない弾数で仕留めたいし、弾痕が目立たなければそれだけ剥製として価値が上がる。

 特に翼の皮膜が破れると、かなり目立つ。市場価格が下がってしまうのだ。


 トゥパンダクティルスはこのトラックと並行に飛んでいるが、横からじゃ撃ちにくい。


シュトローマー(Stromer)君、あの子にもっと近づいて!」

「翼竜が逃げるだろ!?」

「いいから!!」


 トラックを運転する相棒に、大声を張り上げて指示をする。シュトローマー君はトゥパンダクティルスが怯えて逃げることを気にしたみたいだけど、もっと挑戦的にやってみたい。真下から撃てば、もっと的が広くなる。


「逃したら承知しねえからな、アイリーン(Irene)!!」

「ええ、その時は分け前をくれてやるから!」


 シュトローマー君がハンドルを切る。砂が荷台にまで吹き込んでくる。

 ゴーグルはしていたけど、口元を覆っていなかったのは失敗だった。


 塩が混じった砂は、湿っぽくて肌に打ち付けるのが痛い。

 水溜まりが干上がったらしい窪みを通過すると、粉状の塵が舞うからもう最悪だ。トラックもマシンガンも入念に掃除しないといけなくなった。


「もうそろそろ撃ち落としてくれ! この先は林だ!!」


 分かってるってば!

 でも、せめて的が大きくなれば――。


 砂煙を上げながら大地を駆け、距離を詰めてくる鉄の塊に驚いたらしく、この子は反対側に旋回しようと翼を傾け、わたしに腹を向けた。


 今だ!!




 墜落したその子のもとに駆け寄り、暴れるその身体にのしかかる。首を抑え、すぐに屠殺用のスタンガンを当てる。


「痛くしてごめんね。すぐ楽にするから」



 動かなくなったトゥパンダクティルスの血抜きをしていると、近くを別の翼竜が飛び交う。


「友達だろうと関係ないんだな」

「死肉食の子たちからしたら、もうこの子は食べ物なのよね」

「温血動物とはいえ、爬虫類だしな」


 近くのマングローブ林に、翼竜が三々五々と集まり始める。わたしたちから死体を横取りできないか見張っているのだろう。


「タペジャラって、駆除対象だったよな?」

「そうね、確かに駆除依頼が出ていたわ」


 タペジャラはトゥパンダクティルスの近縁種だけど、もう少し新しく、体格も小さい。あの子たちも派手な鶏冠(とさか)を持っているけど、トゥパンダクティルス・インペラトルほど人気がない。コレクターが勝手に付けた値打ちだけど。

 そして、タペジャラのほうが繁殖力があり、人間のコロニーにまで入ってきてしまうのだ。だから、人間は天敵だと覚えさせるためにも、時々駆除しないといけないのだ。

 人間が外来種なのだから、あの子たちには溜まったものじゃないわね。


 駆除の報酬として、そのタペジャラの頭部を恐竜狩猟組合に持っていけば、報奨金が貰える。

 胴体は、コロニー内に棄てなければ好きに処理していいことになっている。恐竜の餌にしてもいいし、自分で食べても規則上問題はない。


 でも翼竜って、見た目の割に肉が少ないのよ。


「んじゃ、アイリーンは血抜きしている間ここで番をしてくれないか? 何頭か獲ってくるよ」

「いいけど、ちゃんと鉄砲は手入れしている? 不発だったら逃げられちゃうわよ?」


 この前は鉄砲の不発があり、オウラノサウルスを取り逃がしたことがある。その詰めの甘さが心配でならない。


「大丈夫だって、ちゃんとフルに弾を込めているし、駄目ならハルバードがあるさ」


 空飛ぶ生き物相手に、飛び道具ではない武器を使おうとしているのがすごく心配。


「3頭くらいでいいから、さっさと戻ってきなさいよ?」

「分かってるって。乱獲してやる!!」


 すごく心配。


 宣言通りハルバードとショットガンを携え、マングローブ林に向かっていくシュトローマー君。彼の金髪が、日光を鮮やかに反射している。

 いいわね、何も考えていなさそうな足取りで。



 トラックの上空をタペジャラが旋回し始めた。近くにあるトゥパンダクティルスの血の臭いで集まってきたのだろう。


 いくら小柄な翼竜でも、あの数のタペジャラが襲ってきたら丸腰では敵わない。トラックの荷台に積んでいたクレイモアを、手が届くところに置いておくことにする。



 ふと、悪い予感がして、マングローブ林のほうを見てみる。

 さっきの発砲で、シュトローマー君は1頭タペジャラを撃ち落としたみたいだ。

 でも、彼のもっと向こう側、マングローブの間から、視線を感じた。

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