表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/86

第82話 悪役貴族、自覚する ③

 リサの表情は険しい。怒っているというより、困惑と警戒が入り混じったような顔だ。


「自覚はあるよ。自分でも、ちょっと感覚ズレてるなって思う」

「ちょっとどころではありません」


 即答したエリシアに、マルスは苦笑する。


《薬草生える》

《エリシアちゃんってマルスには当たり強いよな》

《仲いいんでしょ》


 コメント欄が楽しそうに流れていくのを横目に、マルスは床に腰を下ろした。

 背中を壁に預け、天井を仰ぐ。


(ゲームだと、何度死んでもやり直せた。でも、現実はそうじゃない。この世界に生きる人達は、命が一つしかない現実を生きてるんだ)


 彼にとってもここは現実だ。だが、マルスに憑依してしばらく経った今も、ゲームをプレイしているような感覚を拭えない。

 〝俺〟とそれ以外とでは、生きるという行為そのものが根本的に違っている。


「俺のやり方が掃討じゃないってのはわかった。でも、今回はそれでいいんだ」


 黄金病に侵された少女の顔が脳裏をよぎる。

 猶予はない。慎重にやって間に合わなかった、では済まされない。


「それに、俺にとっちゃこのやり方が一番安全だしね」

「そんなわけないでしょう」

「マジマジ。こっちの方が慣れてるもんで」


 スミレ色の瞳がじっとマルスを射抜く。無茶をするなと言ったばかりなのに、と言いたげな目つきだ。

 マルスは唇を尖らせて目を逸らす。


「だが、後ろから見ていても危なっかしさはなかった。存外、マルスの言う通りかもしれんな」


《そうなんですか?》

《だんちょーから見てもそう思う?》


「ああ。戦場においては慎重すぎるのも考えものだ。時には勢いで押し切ることも立派な兵法だろう」

「なー? やっぱ鈴音の騎士様はわかってるー」


 ふふん、としたり顔を浮かべるブリジット。

 彼女がマルスに全幅を信頼を置くのは理解できる。それでもエリシアは、一抹の不安を拭えなかった。


 マルスの能力は常軌を逸しているが、無敵というわけではない。ほんの数日前に、エリシアは目の前で彼が死にかけるのを見た。

 何かの拍子に、またあのようなことが起こらないとも限らない。

 そうでなくとも、背中の傷は塞がったばかり。今だって痛みを我慢しているはず。


「……あなたがそれでいいなら、もう何も言いません。でも、これだけは約束してください。必ず生きて帰ると」


 マルスは一瞬だけ言葉に詰まり、それから真剣な顔で頷いた。


「ああ、約束する。無事に帰って、みんなでスージーの完治を見届けよう」

「信じます」


 それまで淡々としていたエリシアが、ふわりと微笑みを浮かべる。

 思わぬ変化に、マルスはなぜか目を逸らしてしまう。


《尊い。てぇてぇじゃなくて尊い》

《なんだかんだ信頼してるんだよなぁ》

《わたくしも! わたくしもマルス様を心から信じておりますわ!》


 フォローカムが賑やかに映し続ける中、第七層へと続く巨大な扉が重々しい存在感を放っていた。

 休息は、もうすぐ終わる。

 古塔アルヴェリス攻略は、最終段階へと進もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ