第81話 悪役貴族、自覚する ②
「あ、でもさ。一応ギルドのやり方を参考にしてるよ? なんだっけ? ああ。ほら、この掃討ってやつ」
マルスはプレートを操作して、ダンジョン・ギルドのページを開く。
《なんそれ?》
《見たことあります。何年か前に話題になってましたね》
《ギルドが主導してたやつだよな?》
ブリジットが顎に手を当てる。
「ふむ。作戦会議の時に言っていたな。階層ごとに安全を確保し、物資や素材を回収する方法……だったか?」
「そうそう。モンスターやらトラップやらを全部片付けてから、地形をマッピングすんの」
マルスはカメラに映るようプレートを掲げる。
《ギルドの公式情報じゃん》
《あー、キャンプ張るやつか。見たことあるわ》
「そうそう。先に危険を潰しておけば、探索が楽になるって寸法ね」
どや顔で胸を張るマルスに、エリシアはまたもや呆れていた。
「掃討を参考にしたとのことですが、私には甚だ疑問です」
「え? なんかダメだった?」
「ダメというより……あなたのやり方は、ギルドの掃討とあまりにもかけ離れていて」
「ほぼおんなじだと思うけど」
「ちょっと貸してください」
エリシアはマルスからプレートを受け取ると、掲載された掃討の概要を読み上げた。
「掃討は以下の手順で行う。先発隊が階層内のモンスターを排除し、すべての罠を処理。安全を確保した後、後発隊による前哨基地の設営を経て、物資の回収を速やかに行う」
「ほら。やっぱり一緒じゃん」
「節穴なのは目ですか? それとも耳ですか?」
「ひどい」
小さな溜息。
「掃討の本質は、安全第一で最大の成果を得ること。先発隊は決して急ぎません。あらゆる情報を記録し、想定外が起きないよう徹底的にリスクを管理します。時間がかかっても、犠牲者を出さないことが最優先です」
《そりゃそうだ》
《誰だって死にたくないもんな》
「セーフゾーンを拠点化し、怪我人が出た場合すぐに治療ないし撤退できる体制を整える。補給線を伸ばしながら、少しずつ探索範囲を広げていくんです」
彼女はかつて視聴した掃討作戦の映像を思い返していた。何百人もの人員が組織的に動くドキュメンタリー。リアルタイムでの配信ではなかったが、記録として今もギルドのアーカイブに残っている。
「おのずと作戦は大規模になります。探索者だけじゃなく、様々な分野の専門家が動員される」
「ほう」
ブリジットが腕を組んで感心する。
「さながら軍事作戦だな」
「その通りです。そこまでやって、初めて最低限の安全が保証されますから」
エリシアはプレートから視線を外し、マルスを見上げた。
「ここまで言えば、わかりますか?」
「……まぁ」
要するに、目的が違う。
掃討は可能な限りリスクを減らす為の手段。
一方で、マルスのやり方は攻略速度に特化している。死のリスクを無視し、最速で成果を得る。
手順は似ているが、思想は真逆だった。
「そう言われると、確かに掃討っぽくないね……これじゃただの百パーセントRTAだ」
百パーセントRTAとは、全てのアイテム収集、全てのイベント達成など『完全なコンプリート』を前提としたタイムアタックを指す。
「おかしいのよ。あんたは」
ぼそっと漏れたリサの言葉は、確かにマルスの耳に届いた。
(おかしい、か)
マルスはその言葉を、自分でも思った以上に重く受け止めてしまった。




