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第77話 悪役貴族、格の違いを見せる

「あ」


 それはまさに、マルスが制止する直前だった。

 リサの『スティンガー』が、アイアン・ゴーレムの足首に炸裂する。


 膂力、魔力、気力。その全てを総動員させ、爆発的な威力を生み出す刺突。

 どれひとつ欠けても成立しない渾身の一撃。

 金属と金属が高速でぶつかり、一瞬の閃光が走った。


《うおっ》

《まぶしっ》

《やったか!》


 コメント欄が期待に傾く。

 ところが、リサの表情はみるみる強張っていった。

 装甲に刻まれた傷はごく浅い。削れたのはせいぜい数ミリ程度。

 分厚い鋼板の向こう側に、まるで届いていない。


「そんな」


 赤い単眼が、遥か高みからリサを見下ろす。

 背中を嫌な汗が伝った。


(効いてない……? ううん、そんなわけ)


 リサは必死に記憶を掘り起こす。

 大型モンスター討伐の基本。足元に潜り込み、死角に張り付いて攻め続ける。

 いつか耳にした断片的な知識が、頭の中で最適解として形を成す。


(そうよ。なにも間違ってない)


 敵が仕掛けてくる前に、次の手を打つ。


「一回でダメなら、何度だって!」


 狙うは足首の関節部。

 装甲の隙間を縫うように、あらゆる角度から怒涛の連撃を叩き込む。

 濁った金属音が連続し、火花が飛び散った。


《はえぇ》

《めっちゃ斬るやん》

《いやこれ無理だろ……》


 巨大な鉄塊を剣一本でどうにかする。それが無謀であることは、素人の視聴者にすら明らかだった。

 アイアン・ゴーレムはリサの連撃を歯牙にもかけず、巨大な脚部をゆっくりと持ち上げる。


「……え?」


 標的を失ったリサの喉が、ひくりと鳴った。

 見上げた視界いっぱいに迫る黒鉄の足裏。


「バカ! 離れろ!」


 マルスが叫んだ直後、鼓膜を打ち抜くような轟音が鳴った。

 床を踏み潰すだけの一撃。黒鉄のプレートがひしゃげ、衝撃波が円状に爆ぜる。


《うわああ!》

《死んだ?》

《何も見えん》


 すさまじい余波でフォローカムが揺さぶられ、映像が乱れる。


「くっ……!」


 リサは後方に跳び、床を転がるようにして距離を取っていた。

 自動で姿勢制御を取り戻したフォローカムが、その姿を捉える。


《ふぅ。避けてたか》

《あんなの俺でも避けられる》

《コメント欄に達人あらわるwww》


 リサのこめかみを汗が伝う。


(あんなやつ、どうやって倒せば……)


 斬れる気がしない。傷つけることはできても、壊せない。

 理屈ではないのだ。巨大であるというただその一点が、アイアン・ゴーレムの圧倒的な強さを物語っている。

 リサは委縮し、動きを止めてしまった。


 だが、敵は待ってくれない。

 アイアン・ゴーレムの肩部装甲が軋み、巨大な腕がゆっくりと持ち上がる。

 可動域を確かめるような、重々しくも滑らかな予備動作。


「くるぞ」


 隣に来たマルスが短く告げると、それが合図であったかのように、鋼鉄の巨腕が地面すれすれの低空を薙ぎ払う。


(遅い?)


 否。それは巨大ゆえの錯覚だ。

 実際は猛スピードで振り抜かれている。押しつぶされた空気が壁となり、衝撃波となって迫ってくるほどに。


(うそでしょ)


 このままでは二人まとめて吹き飛ばされる。


(くぐり抜ける隙間はない。跳び越えられる大きさでもないし……っ)


 黒鉄の巨腕が影を落とす。アイアン・ゴーレムの薙ぎ払いは、常人の判断や反射を許さない圧力そのもの。

 リサの脳裏をよぎる死の予感。


(こんなところで……?)


 この時、リサの思考はほとんど止まっていた。

 人は危機に直面した時、往々にして凍り付く。混乱に陥った生物の、生存にかけた最後の手段だろうか。


「はは。すげー迫力」


 隣からは、場違いなほど軽い声。

 マルスはエリマルくんを肩に担いだまま、てくてくとリサの前に歩み出た。


(え? なに――)


 刹那。


 ――ガキィンッ!


 甲高い衝突音と共に、巨腕とエリマルくんが接触した。

 あろうことか弾き飛ばされたのは巨腕の方。四十メートル超の鉄塊が、吊り上げられたかのように大きくのけ反った。


「は?」


 リサは自身の目を疑った。

 目の前で起きた現象に、理解が追いつかない。


《おっほ。マジかこいつ……》

《なんか今おかしな動きしたよな?》

《それ弾くのかよ!》


 床を削りながら一歩二歩と後退するアイアン・ゴーレム。完全にバランスを崩し、地団駄を踏んでいた。


「今の……どうやって」


 リサの声が震える。

 なんということはない。マルスがやったのはただの『ジャストガード』。リサとの決闘で見せたものと何ひとつ変わらない。

 それでも相手が巨大すぎるせいで、まったく違う現象に見えていた。


 バランスを取り戻したアイアン・ゴーレムが、その単眼でマルスを捉える。次の行動を計算しているのか、赤い光が明滅していた。

 次の攻撃まで猶予があると判断したマルスは、強張ったままのリサに顔を向ける。


「お前さっき足を狙ってたよな? なんで?」

「なんでって……それが対大型のセオリーなんでしょ?」

「聞きかじった知識を実戦で試すのはやめろ。アイアン・ゴーレムの弱点は頭だ」


 痛いところを指摘をされ、リサはむっと唇を歪ませる。


「あんな高いところ。どうやって攻撃するのよ」

「転ばせちまえばいい。簡単だろ?」


 リサは信じられないものを見る目をマルスに向ける。


《さらっと言うなwww》

《ムリだろ、ムリムリ》

《さっきの感じだといけそうだけどな》

《異端魔術ならもっと簡単じゃない?》


 エールフレアのエフェクトが飛び交い、フォローカムが花火を散らす。

 その向こう側で、アイアン・ゴーレムが再び動き出していた。

 ゆっくりと片足を持ち上げる。踏みつけの構え。


「あーはいはい。それね」


 広すぎる足裏を見上げ、マルスは呆れたように笑いを漏らした。

 黒鉄の脚が床を踏み抜く。


 ――ガキィンッ!!


 再び、甲高い衝突音。

 マルスの『ジャストガード』が、落下した足裏を弾き返す。

 鉄の巨体が、大きく傾いた。


「こんだけデカいと、自重を支えるのも大変だな」


 すさまじい轟音がボス部屋を震わせる。

 アイアン・ゴーレムは背中から転倒。ドーム全体が大きく揺れ、鉄粉が舞い上がる。


「な? 簡単だろ?」


 ほらな? と言わんばかりのノリ。


《ほんとに意味わからん。あんな大きな奴を弾けるもんなの?》

《なんかイカサマしてるだろwww》

《マルス様の実力にケチつけんな愚民ども》


 リサはもう何も言えなかった。

 ありえない現象を目の当たりにして、脳が理解を拒んでいる。


「んじゃ、トドメいれときますか」


 マルスは軽く言って、颯爽と駆け出した。

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