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第70話 悪役貴族、伝説の始まり ①

 旋回していたフォローカムが、マルス達の正面に停止する。

 次の瞬間、宙に浮かぶクリスタルが視線を持った。

 緊張して体を強張らせるスージーに、エリシアはそっと微笑みかける。


「大丈夫ですか?」

「ひゃいっ、へーきですっ」


 裏返った声。頬を染める姿が、年相応に初々しい。


「リラックスして。自然体でいいんです」

「は、はい」


 年上として、エリシアはスージーを気にかけていた。病に苦しむ少女の助けになりたい――ならなければならない。その思いは使命感にも似ていた。

 配信開始からほどなくして、同時接続数が跳ね上がる。


《なんか始まった?》

《また? 今日は多いな》

《決闘の後どうなったん?》


 加速するコメントを、フォローカムが読み上げる。

 マルスはブリジットに目線を送る。短いアイコンタクトの後、二人は互いに頷き合ってカメラに向き直った。


「ごきげんよう諸君。辺境系男子、マルス・ヴィルです」


 いつもよりすこし落ち着いた声。

 隣のエリシアが、姿勢を正して一礼する。


「今朝の配信に来てくれたみんな、ありがとう。従騎士リサのその後が気になるとは思うけど、それはまた別の機会に。今回の配信は、今朝とは趣旨が違います」


 コメント欄が騒がしくなる。


《女の子誰?》

《鈴音の騎士もいるじゃん!》

《いつもと雰囲気違くね?》


 マルスは流れるコメントを眺めつつ、画角のチェックをする。

 暖炉を背景に、画面左側にマルスとエリシアが並んで座り、右側には揺り椅子に腰掛けるスージー。三人の後ろにブリジットとフードの騎士がまるで警備兵のように直立している。


「今回は特別ゲストをお招きしてます」


 マルスはそう前置きし、スージーへ視線を向ける。


「自己紹介、してくれる?」

「は、はい」


 彼女は一瞬だけ緊張した様子を見せてから、


「はじめまして! スージーです! 十四歳です!」


 フォローカムを見上げ、にっこりと笑った。


《かわいい》

《かわいい》

《かわいい》


 反応が一気に増える。

 その間にも、リスナーの数は加速度的に増えていく。


 平日の昼にもかかわらず、同時接続数は十万近い。

 今朝の決闘配信が追い風になっているのは明らかだった。


「スージーちゃんは、俺が住んでる村の村長のお孫さんで――」


 マルスは一度言葉を区切る。


「黄金病という、原因不明の病を患っています」


 一拍の沈黙。

 それから、ざわつくようにコメントが流れ始めた。


《マジで? 初めて見た》

《黄金病って、あの黄金病?》

《なんそれ? 初耳》


「今回の企画は、黄金病の治療に必要な霊薬を求めてダンジョンを探索する記録配信だ」


《霊薬? そんなのあんの?》

《聞いたことない》

《黄金病って治んないんでしょ? 教会が公式発表してるけど》


 リスナーの疑問に答えるように、スージーが頬をかく。


「家にあった村の記録に書いてあるんです。黄金病を治す霊薬がダンジョンに眠ってるって。とっても古いものだから、本当かどうかわからないけど……あったら、いいなって」


 えへへ、と笑うスージーの頬に、黄金の斑点が浮かぶ。


《きっとあるよ!》

《ないだろ。変な夢見さすな》

《マルスなら見つけてくれる》


 コメント欄には賛否両論が飛び交っていたが、マルスは気にせず進めていく。


「もちろん俺とエリシアだけじゃ絶対ムリ。だから、グロワール騎士団にも手を貸してもらうことにした」

「うむ」


 ブリジットが力強く首肯する。


「黄金病は珍しい病だが、毎年一定数の民が亡くなっているのも事実。これを機に治療法が見つかれば、聖国の医療に大きく寄与するだろう」


 堂々とした発言だったが、リスナーの反応は芳しくなかった。


《異端者と騎士団が力を合わせるってどうなん?》

《さっきは従騎士とガチ喧嘩してたのにな》

《なんらかの陰謀を感じる》


 マルスはやれやれと首を振った。


「まぁまぁ、みんな落ち着いて。攻略するだけならまだしも、隠された霊薬を見つけるってなると俺達だけじゃ人手が足りないんだ。力を借りるのは、エリシアへの謝罪の意味もあるんだよ」


 もちろんこれはアドリブだが、リスナーを納得させる効果はあったようだ。


《あーなる》

《騎士団としての落とし前ってわけね》

《従騎士の尻ぬぐい過酷すぎる》


 うんうんと頷くマルスの後ろで、ブリジットは内心感謝していた。

 力を借りる――騎士団の顔を立てる言い回し。王太子の意向にも沿っている。


(やはりマルスは、気遣いのできる男だ)


 実際のところマルスは事実を述べただけだったが、ブリジットはそれを最良の配慮だと捉えていた。

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