第68話 悪役貴族、企画を始める ①
その後、場の全員が居間のテーブルを囲む形となった。
「改めまして! おじいちゃんの孫のスージーです!」
元気いっぱいの自己紹介に、一行の表情が和らぐ。
だが村長だけは落ち着かない様子で、視線をテーブルに落としたままだった。
「スージー。鈴音の騎士様は、霊薬の件を引き受けてくださるそうだ」
「えっ! ほんとですか!」
「ああ。ただし、伝えておかねばならぬことがある」
ブリジットがマルスへ視線を送り、続きを促す。
「今回の件、企画としてアカストで配信させてもらいたいんです」
村長の眉が跳ね上がる。
「……配信、じゃと?」
反射的に向けられた視線には、嫌悪と警戒、そして怒りが露わになっていた。
「ふざけるな。この子を世間の晒し物にする気か……!」
「村長。お怒りはもっともだが、どうかお聞き願いたい」
ブリジットが即座に割って入る。
「スージーを見世物にする意図は断じてない。配信の目的は、依頼内容と探索の記録だ」
「記録ですと?」
「黄金病はいまだ正体不明の不治の病。その経過を残すことが、同じ病に苦しむ人々の助けになる可能性がある」
村長は唇を噛み、やがて首を振った。
「理屈は理解できます。しかし……配信など、この子には」
「えーっ!」
遮るように、スージーが声を上げた。
「だめなの?」
揺り椅子のひじ掛けを叩き、祖父を見上げる。
「あたし、アカスト出てみたい!」
「何を言う、スージー」
村長は眉を下げる。
「お前のことが世間に知られてしまうのだぞ」
「いいよ!」
スージーは眩しいほどの笑顔で言い切った。
「あたしね、一度でいいから配信してみたかったの。でも、この体じゃダンジョン配信なんて無理でしょ? だから今がチャンスなの」
一瞬の間。
「今やらなきゃ、死ぬまでできないじゃん」
「そんな、ことを……軽々しく言うものではない」
村長は諭すように言うが、その声には迷いが混じっていた。
「隠してたって、どうせ治らないんでしょ?」
居間がしんと静まり返った。村長の顔が引き攣る。
スージーはけろりとしているように見える。だがエリシアは、彼女の笑顔の裏にある覚悟を感じ取り、胸が張り裂ける思いだった。
「ね、マルスさん」
「なに?」
「あたし、配信に出た方がいいんだよね?」
「ああ。出てほしい」
迷いのない声。
「キミの存在そのものが企画にリアリティを与えてくれる。視聴者の心を動かすのは、いつだって真実だから」
「ほら、おじいちゃん。あたしだって役に立てるんだよ?」
それでも村長は渋い表情を崩さない。
「できることなら……配信はせず、霊薬だけを取ってきては頂けませんか」
「お言葉ですが」
フードの騎士が口を開く。
「それでマルス様に一体なんの得があるのでしょう? 報酬の提示もなく、そちらの望みばかりを押し付けて、どういうおつもりなのか甚だ疑問です」
彼女は村長に対して「立場を弁えろ」と言外に伝えていた。横柄に聞こえるかもしれないが、この場においては正論である。
グロワール騎士団にとって、この依頼は義務ではない。
マルスはこの村から拒絶されている身。彼らを助ける義理などひとつもない。
孫娘を助けてもらいたいならば、村長は不満を口にできる立場にいない。
「配信の許可が得られないのであれば、この話は白紙に」
その発言で、にわかに険悪なムードに陥る。




