第67話 悪役貴族、再び村長を訪ねる ②
年の頃は十代半ば。マルスやエリシアよりもいくつか若い。
こげ茶のくせ毛が肩まで伸びており、同色の瞳は大きく、小動物のよう。頬のそばかすが愛らしい素朴な少女。
「鈴音の騎士様っ?」
突然の来客に目を丸くして、ぱぁっと目を輝かせる。
「今日も会いに来てくれたんですね! うれしい!」
揺り椅子から降り、ブリジットに駆け寄ろうとする少女。だが、数歩のうちにつまづき、転んでしまう。
「……あ」
エリシアの口から思わず声が漏れた。
少女の足は、すねのあたりから先が金箔を張り付けたように光っている。それだけではない。首筋や指先、顔の一部。体中のいたるところに黄金のような光沢の斑点が浮かんでいた。
(これが、黄金病……)
それは病と呼ぶにはあまりにも美しく、また異質であった。
「大丈夫か?」
転倒した少女の身体をブリジットが抱えて立ち上がらせる。
体重の軽さに、ブリジットは内心驚いていた。
「そう慌てずとも、急いで帰ったりしない」
「えへへ。ごめんなさい」
少女は申し訳なさそうにしながらも、どこかあっけらかんとして笑った。
「最近、脚が言うこと聞かなくて。でも、痛くないのでへーきです」
そう言って、きょとんとした顔で自分の脚を見る。
黄金に変じた皮膚は、もはや人の肉体とは別のもののようだったが、少女の表情に苦悶はない。
村長が苦しそうに視線を逸らす。
「日に日に、身体の自由が利かなくなっておるのです」
「でもね!」
少女はブリジットの腕に支えられたまま、ぱっと顔を上げた。
「鈴音の騎士様が会いに来てくれたので、とっても元気です!」
「そうか」
ブリジットは優しく微笑み、少女をそっと揺り椅子に座らせ直した。
少女は心底嬉しそうにしていたが、ふと視線をマルスへ向ける。
「……あれ?」
数秒じっと見つめてから、はっと目を見開く。
「え、もしかして……マルス・ヴィルさん?」
「お?」
マルスは目を瞬かせた。
「俺のこと知ってるの?」
「もちろんですっ」
少女はまたもやぱぁっと表情を明るくする。ブリジットの時と遜色ない色めきだった。
「あたし、アカスト見るのが趣味なんです。外に出られないから」
後ろで聞いていたエリシアは胸が詰まる。
「それでね、マルスさんの配信、すっごく面白くて! さっきも! 騎士の人との決闘、見てました! とってもかっこよかったです!」
「だろだろ? いやー、やっぱわかる人にはわかるんだよな」
マルスは照れもせず、鼻を高くしていた。
「戦闘もトークも一級品だからさ。バズったのにはちゃんと理由があるってこと」
「ですよねですよね!」
少女は興奮気味に身を乗り出そうとし、また少しよろめく。
「おっと」
今度はマルスが慌てて手を差し出した。
その手を握り、少女はキラキラした瞳でマルスを見上げる。
「本当に本物だ……本物のマルス・ヴィルだ……!」
病によって引きこもりとなった少女にとって、画面の中の有名配信者は英雄にも等しい存在だった。
感無量といった様子の少女に、家の空気は一気に和やかになる。
その無邪気なやり取りを、村長は複雑な表情で見つめていた。




