第66話 悪役貴族、再び村長を訪ねる ①
マルス達は早速に村長の家へ向かった。
村で唯一の二階建て家屋。近づくにつれ、どこか沈んだ気が滲み出ているのを感じる。どんよりとした空気に交じり、きつい薬草の匂いが漂っていた。
「ここだな」
家の前に到着すると、マルスが呟く。
「御免。村長殿はいらっしゃるか」
ブリジットが扉を叩くと、奥からすぐに足音が近づいてきた。
出迎えに現れた村長は巨躯ゆえの威圧感を備えていたが、初対面の時より一段と老け込んで見えた。厳めしい皺に、深い疲労と不安が刻まれている。
「おぉ……鈴音の騎士様。よくぞおいでくださいました」
ブリジットの姿を認めると、村長は慌てて背筋を伸ばし、深々と頭を下げた。
「先日は無理な相談をしてしまい、大変失礼いたしました」
「お気に病まれるな。御令孫の具合は?」
ブリジットの問いに、村長は言葉を詰まらせた。
「……良くありません」
「彼女に会わせて頂くことはできるか」
「もちろんです。あの子も喜びます」
村長は笑みを浮かべ、一行を家に招き入れようとしたが、マルスとエリシアの存在に気付いてふと動きを止めた。
「そちらの二人は……」
「わたしの連れだ。紹介が必要か?」
「いえ、存じております」
村長の鋭い視線を浴びて、マルスは「どーもー」と手を振った。
「何故その者達がこちらに?」
低くなった声色には、マルスに対する嫌悪や警戒が露わになっていた。
家に上げたくない。孫に会わせたくない。そんな思いはありありと見て取れる。
訝しむ村長に、ブリジットがきっぱりと告げた。
「昨夜の依頼だが、受けてもよいと考えている」
村長の目に光が宿る。
「まことですか?」
「うむ。ただし、条件がある」
「それは……?」
「依頼は、我らグロワール騎士団と、ここにいるマルス・ヴィルの連名で受けさせてもらいたい」
「理由をお聞かせください」
「彼は優れた探索者だ。ダンジョン攻略に関して、右に出る者はおらぬ」
ブリジットがそう説明しても、村長の表情は硬いままだ。
「お言葉ですが……孫の命がかかっている話です。依頼を受けて下さることには感謝いたしますが、戯れで関わられるのは愉快ではありません」
その言葉はブリジットへ発されたが、矛先はマルスに向いていた。
マルスは苦笑いを浮かべるが、なにも言い返さない。
「決してそのようなつもりはない。ダンジョン探索には大きなリスクが伴う。専門家の助力は不可欠なのだ。彼が同行できないのであればこの依頼は受けられない」
「しかし……」
「御令孫のためにも、まず話を聞いてみてはいかがか」
ブリジットの落ち着いた声を受け、村長は俯いて考え込む。
それから、何度か小さく頷いた。
「鈴音の騎士様が、そう仰るのであれば……」
村長は大きく息を吸って、家の奥へと一行を促した。
「どうぞ、お入りください」
「失礼する」
「お邪魔しまーす」
ブリジット、マルス、エリシア、フードの騎士。四人が村長の家に入ると、薬草を煮詰めた匂いがより濃く鼻を刺す。
居間には小さな暖炉があり、その前にある揺り椅子の上で、一人の少女がプレートに目を落としていた。




