第64話 悪役貴族、善を急ぐ ①
「そういうことであれば……団長。例の件について、マルス様にご助力願うのはいかがでしょう?」
フードの騎士が妙案とばかりに手を叩いた。
「たしかに、マルスが同行するならば心強いかもしれぬ」
「何の話?」
フードの騎士が頷くと、ブリジットはゆっくりと語り始めた。
「昨夜。村長に挨拶に伺ったのだが、その際にすこし込み入った相談を受けてな」
マルスの脳裏に、巨躯の老人の厳めしい顔がよぎる。
「幼い孫が重い病を患っており……余命幾ばくか、という話だ」
「まじ?」
さしものマルスも、声のトーンをひとつ落とした。
「マルス様は、黄金病という病をご存じですか」
フードの騎士が発した病名に、マルスの眉が反応した。
――黄金病。
もちろん知っている。『聖愛のレガリア』の中で幾度となく目にしたワードだ。
物語の本筋に深く関わることはなかったが、いくつかのアイテムのフレーバーテキストにその名が記されていた。
古い昔から存在がほのめかされており、時代や場所によって呪いとも奇跡とも呼ばれてきた病。
黄金病について考察するプレイヤーは多かったが、その詳細は明らかにされていない。とはいえ、『聖愛のレガリア』の世界観の根幹に大きく関わる設定であることは確かだった。
「体内のマナが結晶化し、肉体を蝕む奇病。皮膚が徐々に金色に変質していき、やがて全身が黄金像のように硬化して死に至る。恐ろしい病です」
端的な説明だったが、病状を思い浮かべたエリシアが息を呑む。
「ひどい」
その一言に、彼女の感情が凝縮されていた。
「あの、もしよければ。昨日頂いたハイポーションをお譲りするというのは? この人は飲まないと言っていますし」
フードの騎士は首を横に振る。
「残念ながら……どんな薬も、神聖力による治癒すらも効果はありません。黄金病は不治の病なのです」
淡々とした口調だったが、言葉の重みは否応なく伝わってくる。
「ところが村長は、まだ治る望みがあると言っていた」
重くなりつつある空気を吹き飛ばすように、ブリジットが明るい声を出した。
「古い言い伝えの域を出ぬ話だが、村はずれにあるダンジョンの深部に、黄金病を治す霊薬が眠っているらしい」
「俺らが潜ってるアルヴェリスのこと?」
「そのような名だったか」
「で、その霊薬を取ってきてくれって、村長が?」
「うむ」
「その依頼、受けたの?」
「……断った」
ブリジットは忸怩たる思いを隠さず、正直に告げた。
「曖昧な情報のために、団員を危険に晒すわけにはいかぬ」
「……だな」
本心では村長の孫を助けてやりたいのだろう。ブリジットにとっても苦渋の決断だったことは想像に難くない。
義に厚く、情に深い。彼女の性分を、マルスはよく知っている。
「そういうのは探索者の仕事だろ? 国民一人一人の頼みを聞いてちゃ騎士団なんて回んないって」
マルスのフォローを受けて、ブリジットの表情が僅かに和らぐ。
「すまぬ。そう言ってくれると、気が楽になる」
そこにすかさず、フードの騎士の声が差し込まれた。
「しかし今回に限っては、依頼を受けるべきだと考えています」




