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第63話 悪役貴族、誤解される ②

(この人、今度はどういうつもりなのかしら)


 マルスは一見すると浮ついていて短絡的な人物だ。だが実際は、常に先を読んで動いている。


(アカストでの配信も、モンスターとの戦闘も、リサ様の件も……全部計算されたものだった)


 もちろん裏目に出ることもある。だが決して行き当たりばったりではない。

 少なくともエリシアにはそう感じられた。それでも、彼の真意までは読み切れない。

 ブリジットもまた首を傾げていた。ダンジョン攻略と王太子の謀略が、まだ結びついていないのだろう。

 ただ一人。フードの騎士だけが、得心したようにくすりと笑った。


「仰る通り、それが最善の選択かもしれません」


 エリシアの視線が、彼女へと向けられる。


「なぜです? 目立つ行為は避けるべきではないのですか」

「殿下がマルス様の命を狙う名目は、マナ・ネットで囁かれている黒幕疑惑。騎士団の監視下で行動し、身の潔白が証明されれば……殿下は大義名分を失います」

「監視の目を逆手に取る、と」


 エリシアの呟きに、フードの騎士は静かに頷く。


「マルス様はこうもお考えなのではありませんか? 共にダンジョン配信をすることが、騎士団の名誉回復に繋がると」


 発言の意図が読み取れず、ブリジットは目を瞬かせた。


「失態を帳消しにするには、それ以上の成果が必要。そして成果は目に見える形で示さねばならない。その点において、アルカナ・ストリームはこの上ないプラットフォームです」


 フードの中から聞こえてくる声は、知性的でありながらどこか艶を含む不思議な響きだった。


「自身の潔白の証明と、騎士団の名誉回復。どこにも角が立たぬよう、配慮の行き届いた行動方針です。流石はマルス様、と申し上げるべきかと」


 エリシアはすこし眉尻を下げて、マルスに視線を移した。


(この短い時間で、本当にそこまで考えて……?)


 にわかには信じがたい。

 けれどフードの騎士の分析を聞いていると、何食わぬ顔のマルスが途端に思慮深く見えてくる。それはきっと、これまでの彼の行動が、その錯覚に確かな裏付けを与えてしまうからだ。


「いや、まぁ……」


 当のマルスは、ただただ困惑するのみ。


(全然そんなこと考えてなかったけどな)


 実際、深い戦略があったわけではない。

 他に妙案も浮かばず、とりあえず今まで通りダンジョン配信に注力しようと思っただけだ。

 自信ありげな態度を取っていたのも、エリシアやブリジットの前で情けなく狼狽える姿を見せたくなかったからに過ぎない。

 さすがに話が盛られすぎだと思い、マルスは軽く手を振った。


「買いかぶりすぎだって。グロワール騎士団とコラボできてラッキー、くらいにしか考えてなかったよ」


 それが本音だった。

 マルスの頭にあったのは、アカストでバズることただ一つ。

 なにせ、明日の食事すら怪しい身の上だ。早いところ配信を収益化しなければ、冗談抜きで飢え死にしかねない。


(エドワードの奴は気に入らないけど……ネットの噂なんて、いちいち気にしてられっかよ)


 とはいえ、マルスの否定をどう受け取るかは人それぞれだ。


「相変わらずだな、そなたは」


 小さく笑ったのは、ブリジットだった。

 彼女は椅子の背に身を預け、どこか柔らかな眼差しでマルスを見る。


「え? なにが?」

「そのように、とぼけるところだ」


 マルスが怪訝な顔をするのを見て、ブリジットは首を振った。


「恩を着せるのが嫌なのだろう? 自分の考えだと認めれば、我々に貸しを作ることになる。だから敢えて、何も考えていないふりをする」

「いや、ほんとに――」

「よい。無理に否定せずとも」


 ブリジットは遮るように言った。


「わたしには分かっている。そなたは昔からそうだからな」


 ふふん、と意味ありげに胸を張るブリジットだが、何を誇っているのか見当もつかない。


(まぁ、こうなったら否定するだけ野暮ってもんか)


 沈黙は肯定。そんな便利な言葉に甘えさせてもらおう。

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