第53話 悪役貴族、ジャスガする ②
目の前のリサは、まるでゲームの動きをトレースしているようだ。
斬り下ろし。横薙ぎ。斬り上げ二連。一呼吸で繰り出された連撃を、マルスは危なげなく弾き返す。
リサはバックステップで距離を取り、突進しながら回転斬りを放つも、マルスは最小限の動きで防ぎ、リサの足元をぐらつかせた。
連続する剣戟の音が、観衆の鼓膜を震わせる。
《すげー音》
《なんとなくハイレベルな攻防だってことはわかる》
《俺達は今とんでもないものを見せられているのでは?》
閃光のように走るリサの斬撃と、そのすべてを打ち落とすマルス。端から見れば拮抗した攻防だが、マルスにとっては戦い方をチェックする場にすぎなかった。
(ジャスガも有効っと)
高難度アクションが特徴の『聖愛のレガリア』では、作りこまれた戦闘システムも魅力の一つだった。
その中に『ジャストガード』なる要素がある。
敵の攻撃に合わせてピッタリのタイミングでガードボタンを押すと、ノーリスクで防御ができる。入力猶予は六十分の一秒。シビアなタイミングが要求されるが、連続して成功すれば、相手のバランスを崩したり武器を破壊したりできる。
タイミングが僅かでもずれると、通常のガードになりスタミナを消費し、多少なりともダメージを受ける。
(ゲームならリズムよくボタンを押すだけだったけど、この世界じゃ実際に体を動かさなきゃならない。マルスのスペックなら、それができる……!)
リサの剣が閃く。エリマルくんが弾く。
刃と棒が触れる瞬間、鈍い衝撃音が二度三度と響く。火花が舞うたび、リサの動きがわずかに鈍る。
マルスの『ジャストガード』は、リサにとって最もイヤな反撃でもあった。剣から伝わる衝撃が、彼女の握力をじわじわと奪い、手首のダメージを蓄積させていく。
立会人として最も近い位置で戦闘を見守るブリジットは、無言で驚嘆していた。
(信じられん……リサの剣を完全に見切っている。初見ではなかったのか? マルスの腕はまったく錆びていない。いや……それどころかこの上なく磨かれ、練り上げられている)
リサが剣を振り抜き、弾かれる。硬質な音とともに剣が震えた。
(リサの派手な動きに目が行き、みな気付いていないようだが……マルスは元の位置から一歩も動いていない。だが、そんなことが可能なのか? 勢いに乗ったリサには、わたしでも舌を巻くというのに)
ブリジットは一人の騎士として、神業ともいえる剣技の応酬に胸を高鳴らせていた。
一方でリサは焦りを隠せない。何を打ち込んでも、どんな角度から攻めても、全て弾かれる。あらゆる技が通用しない。
(そんなはずない……これだけ打ち込んで一回も入らないなんて、ありえない!)
呼吸が浅くなっていく。握りが甘くなっていく。
焦れば焦るほど精度を失い、剣筋は大味になっていく。
「だああああぁッ!」
裂帛の気合と共に繰り出した大上段。跳躍から全体重を乗せた斬り下ろし。
(その守りごと――崩してやるッ!)
だが。
マルスが半歩だけ引いたことで、その目論みは露と消えた。
盛大に空振りした剣は地面を叩き、土に潜り込んで容易に引き抜けなくなる。
「ほい」
次の瞬間には、エリマルくんの先端がリサの細い顎を優しく持ち上げていた。




