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第52話 悪役貴族、ジャスガする ①

 矢のような踏み込みから放つ、神速の刺突。


(死ね! 異端者!)


 リサはこの一撃で勝負を決するつもりだった。自身が『スティンガー』と名付けた必殺の突き。騎士学校では無敗を誇り、グロワール騎士団でも見切れる者はほとんどいない。

 天性の身軽さと驚異的な瞬発力が生み出す前進速度は、刹那にも満たず彼我の距離を詰め、マルスの胸に剣尖を到達させる。


 ――ガキィンッ!


 甲高い衝突音。衝撃波が土埃を巻き上げ、村人たちの衣をはためかせた。


「あっ――」


 思わず声を漏らすリサ。

 何が起こったか理解できた者は何人いただろうか。『スティンガー』が直撃する瞬間、マルスの鉄棒が刺突の軌道を跳ね上げ、リサの体勢を崩したのである。


(うそっ――)


 剣を握ったままバンザイの姿勢になっているリサの腹部に、エリマルくんの先端が触れる。マルスはそのまま軽く押し込んだ。

 バランスを失って尻もちをつきそうになるリサだが、地団駄を踏みながらもなんとか持ちこたえる。慌てて構えを取り直すも、マルスの追撃はない。


「今の、真剣だったら終わってたね」


 ニコニコと語りかけるマルス。リサの額に青筋が浮かぶ。


《え? なにが?》

《カメラ追えてねぇ!》

《動きが見えなかったんだが》


 リスナーは困惑していた。フォローカムの性能がリサの速度に追い付いていないばかりか、マルスの超絶技巧を捉えられてもいなかった。


「今のが『スティンガー』か。こうして目の前にすると、めちゃくちゃ速いな。いや、マジでびっくりした」


 マルスは目をキラキラさせながらエリマルくんを担ぎ直す。


「もっかいやってみてくれる?」

「この……ッ! 調子に――乗るなぁっ!」


 再び、リサとマルスは剣を打ち合わせる。

 リサの猛攻は暴風のようだった。剣閃が空気を裂き、音が後から追いかけてくる。

 フォローカムの映像が激しくブレる。映るのは残像だらけ。人影が二つ、光の軌跡を描いて交錯しているのみ。


《なんも見えんwww》

《回線悪い?》

《違う。こいつらの動きが速すぎんだよ》


 エールフレアと共に聞こえてくるコメントに耳を傾けながら、ブリジットは剣戟の一つ一つを見逃さなかった。


(リサの速さは騎士団でも屈指。単純なスピードだけなら、わたしすら凌駕している。アカデミーでは音より速いと言われていたらしいが、あながち誇張ではない)


 ところがマルスは、リサの攻撃のことごとくを完璧なタイミングで弾き返していた。どんな攻撃が来るのか、あらかじめ知っているかのように。

 リサが剣を振り始める前に、マルスはすでに動いている。刃が閃くより早く、エリマルくんが軌道を塞いでいる。


 鳴りやまない金属音。剣と棒がぶつかるたび、火花と衝撃音が交差する。

 だがマルスは一歩も下がらない。その瞳は冷静で、むしろ愉しげですらあった。


(なるほどね。やっぱりゲームと同じ動きだ)


 マルスに憑依する直前まで、〝俺〟は『聖愛のレガリア』を何度も何度もプレイし直していた。千を超える周回の中で幾度となくリサと戦った経験がある。

 初見ではあっさり負けた。リサのスピードに慣れるまで十回はやり直しただろうか。

 初勝利までに何十回もの試行錯誤が必要だった。〝俺〟が操作する主人公ティアナが倒れる度、コントローラーを放り投げようかと思った。


 だが、やり込んでいく内にリサの行動パターンを見切れるようになった。解説動画やプレイ動画を制作する中で、完全に攻略したと言っても過言ではない。

 いつしか、目をつぶっていてもノーダメージで勝てるようになっていた。


(リサ戦のパターンは魂レベルで憶えてる。一撃必殺のスティンガーを含めて、全部な)

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