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第13話 悪役貴族、バズる! ①

 焦げた空気をくぐり抜けて身を起こす。

 煙の向こうから、エアが抜けるような冷却音が聞こえてきた。

 マルスは自分が無傷であることを確認すると、穴の縁に手をかけて顔を出してみる。ホールは爆風で荒れ果てていた。天井の一部が崩れ、壁は焼け焦げ、あちこちに瓦礫が散らばっている。

 中央では、レッド・ガーゴイルが束の間のクールダウンを行っている。


「よっこら、しょっと」


 のんきに身体を引き上げて、大穴からぬるっと這い出る。


「ひどい有様だ。ま、派手さは十分だな!」


 フォローカムの位置を確認しようとして、マルスはエリシアを見つけた。


「あ、戻ってきたんだ」


 彼女は全身に埃をかぶり、その手にプレートを握り締め、信じられないものを見るような目をマルスに向けていた。


「生きて……る?」

「ん? ああ、見ての通り! 脚もある」


 ぱっと笑顔を浮かべ、エリシアに駆け寄る。彼女が持つプレートを迷いなく操作し、フォローカムを調整。二人が画角に入るよう整えると、声のトーンを上げた。


「みんな見てくれ! 我がパーティの火力担当。我らが戦乙女、エリシアさんでーす! パチパチー!」

「……へ?」

「みんな、エリシアへの応援もよろしくお願いします! 家族のために頑張るめちゃくちゃいい子なんです。あと、マジでかわいくないっすか?」


 配信コメントが一斉に弾ける。


《うおおお美少女キタ!》

《メイド! メイド!》

《ここでパーティメンバー紹介はイミフ。かわいいけど》 

《惚れた。ガチ恋です》


 エリシアは一瞬呆気に取られたが、すぐに眉をひそめて詰め寄った。


「なにやってるんです。今はそれどころじゃ」

「えー。でもほら、見て。みんなエリシアのことかわいいって言ってる」

「だから――」


 エリシアの目に映るコメントの嵐。弾け続けるエルフレのエフェクト。そのほとんどが彼女の美貌を賞賛し、魅力を称えるものだった。エリシアは顔を引き攣らせる。

 聖国中のリスナーに顔を晒し、容姿を褒められる。心地よさと気味悪さが混じり合った奇妙な感情が彼女を混乱させた。


「もうっ。いいですから! 映さないでください!」

「そう照れなさんな」


 マルスはプレートを受け取ると、今日初めてポケットにしまい込んだ。

 そして、冷却中のレッド・ガーゴイルに向き直る。


「あいつ、熱に弱いよ」


 マルスの瞳が、一瞬だけ真剣な色を帯びた。

 彼の視線の先では、レッド・ガーゴイルの頭部表面が、レーザーの余熱で赤褐色に焼け爛れている。その一部が剥がれかけていることに、エリシアも気付いたようだ。


「あの頭、今なら簡単に貫けると思う。頼める?」


 その言葉に、エリシアの心が揺れる。軽薄さの裏に潜む観察眼と決断力――それが、ただの冗談ではないことを告げていた。


(見ていないようで、ちゃんと見てたってこと? 初めて戦うボスモンスターの弱点、有効な攻撃とタイミングまで……)


 エリシアはようやく理解した。


(私も商家の娘だから分かる。ふざけたような言動も、ボスの大技を引き出したのも、ぜんぶ計算ずく。アカストでバズるための、プロモーション戦略……!)


 エリシアは戦慄した。

 おちゃらけた仮面の裏にある、マルスの策謀に。


(たぶん私が戻ってくることも織り込み済み。なら――)


 生き延びるため、安定した収入のため、彼の計画に乗るしかない。

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