第12話 悪役貴族、死亡確認!? ②
(なんて魔力……! あんなの当たったら、ひとたまりもない!)
ところが、マルスはのんきにピースサインを掲げていた。
その瞬間、光が視界を焼いた。
階層主が放った莫大な魔力の奔流。それはマルスに直撃し、ホールの内壁ごと吹き飛ばす。
振動。爆音。鉄の破片が宙を舞い、金属の焦げた臭いが突風に乗って通路の奥にまで届く。
マルスが持っていたプレートが、爆風に煽られてホールを飛び、床を跳ねながら、通路まで滑り込んできた。
エリシアは黙ったまま、足元のプレートを見つめる。
《ちょ、マジで蒸発したんじゃ?》
《マルス・ヴィル、死亡確認!》
《神回キター!》
《これアーカイブ残るの?》
《やべえやべえw》
《画角が完璧すぎて薬草生える》
《まさかガチで死ぬとはwww》
コメント欄は大炎上とも言える盛り上がりを見せ、狂乱に近い勢いで流れていく。
エリシアは目を細めた。まるで人の死を娯楽として消費するかのような熱狂。それがダンジョン配信の一面なのだと、改めて思い知らされる。
だがそれ以上に胸を締めつけたのは、マルスが本当に死んだのかもしれないという、名状しがたい不安だった。
(ウソでしょ)
彼のことは信用していない。むしろ軽蔑すらしている。
異端魔術の研究に手を染め、貴族の地位を追われた、愚かで無責任な男。
だが、それでも。
(死ねばいいなんて、思ってない……!)
エリシアは震える手でプレートを拾い上げる。
そこに映るフォローカムの映像は、瓦礫と黒煙に満たされていた。
エリシアは画角を操作してみるも、浮遊するフォローカムの位置からはマルスの状態を確認できない。
《まだ配信切れてないよな?》
《生還したら伝説》
《もし生きてたら今日の売り上げ全部ぶちこんでエルフレ灯すわwww》
コメント欄はさらに加速する。
同時接続数は、すでに十万を超えていた。ランキングシステムの上位入りは確実である。
しかしそれも、死んでしまえば何の意味もない。
(バカな人……こんな辺境のダンジョンで、最期にひと花咲かせたかったの?)
プレートを握り締め、死を悼む。
そこで、とあることに気が付く。
(敵の臨戦態勢が、解けてない?)
敵を認識した階層主は、ナワバリの中にいる異物を許さない。マルスが生きている限り、機械の獣は戦い続ける。
(まさか)
あまりにも、運が良すぎた。
あまりにも、偶然が過ぎた。
まるでボスを無視するような配信が、アカスト初配信史上最高のバズりを見せている。
不自然かつ不条理。
偶然とは思えないほどの『流れ』が、確かに存在していた。
ホールに駆け込んだエリシアが目にしたもの。
それは、壁にぽっかり空いた大穴から、ひょこっと顔を出すマルスの姿だった。




