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第91章 ― モリガン対マフレム

「この物語は歴史と普遍的な神話に基づいたファンタジーです。」

アナとタニアは、数時間にわたり飛行を続けた末、

火星の砂漠の中央に広がる巨大な都市へと到達した。

背後では、キネとマラクたちが山間に潜む待ち伏せの魔物と交戦しており、

二人はそれを信じて先行していた。

「先に進むしかないわ。

彼らの力を信じましょう」

名残惜しそうなアナに、タニアが言った。

やがて、二人だけで辿り着いたその場所は、

どう見ても都市だった。

高級集合住宅のような白い建造物が、

大通りと思しき直線に沿って整然と並んでいる。

火星の地表に、これほど壮麗な都市が存在することに、

二人は言葉を失った。

パラスの繊細な建築が、原始的に見えるほどだった。

「……すごいわね。

ここの住人、相当な贅沢好きみたい」

タニアは周囲を見回しながら呟いた。

「ええ。

アレス――つまり、戦略も持たぬ血に飢えた戦神が、

こんな文明を築けるとは思っていなかったわ」

都市には人影がなかった。

戦争に巻き込まれぬよう、住民は避難させられたのだろう。

ここには、イギギやマラク、その家族が住んでいたはずだ。

二柱の女神は進み、

やがて中央広場と思われる場所に辿り着いた。

長方形の広場の中央には、巨大な噴水があり、

その上には禿鷲の巨像が据えられている。

嘴から水が流れ落ち、下の構造体を満たしていた。

だが、それ以上に目を引いたのは、左手にそびえる存在だった。

白地に金の装飾を施した、巨大なエジプト風スフィンクス。

その表情は厳しく、どこか哀しげで、

静かに泣いているかのようにも見えた。

あまりに巨大で、終端すら見えない。

「この近くにアレオパゴがあっても不思議じゃないわね」

タニアが感嘆を込めて言う。

「残念だが、それは違う」

スフィンクスの頂から声が響いた。

高すぎて、姿は見えない。

「アレオパゴは、ここから遥か彼方だ。

この都市は、偉大なる我が主――アレス様に仕える者たちの

居住区に過ぎない」

「誰だ?」

タニアが問いかける。

「姿を見せなさい」

アナが命じた。

次の瞬間、男がスフィンクスの頂から跳び降り、

片手を地につけて着地した。

肌は非常に濃く、燃える夕焼けのような赤髪を

細かく編み込んでいる。

瞳もまた深紅。

黄金の冠を戴き、上半身は裸。

腰には白布の垂れた黄金の装甲。

手首と足首には金の環、背には巨大な黄色のマント。

「美しき淑女方、ようこそ。

俺の名はマフレム。

エチオピアの戦神――ケレス第七位だ」

男は姿勢を正し、続ける。

「侮ってはいない。

すでにトーテマも装備している」

「私はタニア。

こちらがアナよ。

名乗る礼を尽くしてくれたから、こちらも名を明かすわ」

赤髪の女神が答えた。

「タニアとアナ?

奇妙だな。

てっきり、女神タニトとモリガンだと思っていたが」

「……またその名前」

アナは左手で顔を覆い、低く呟く。

「それは私たちの神名。

人としての名前で呼びなさい」

タニアはきっぱりと言った。

「承知した。

では、その名を墓標に刻んでやろう。

ここで死んだ後にな」

マフレムは冷たく言い放つ。

「ご親切にどうも」

アナが乾いた声で返した。

男は前屈みになり、

異様なほど湾曲した二振りの剣を呼び出す。

鎌のような形状だった。

「これはショテル。

苦しまずに首を落としてやろう」

アナはタニアの肩に手を置く。

「ここは私に任せて。

あなたはアレオパゴを探して。

この男の言葉は信用できない」

「大丈夫?」

タニアが問う。

「ええ。

集中的な修練で、私はかなり強くなった。

この程度、問題ないわ」

「分かった。任せる」

タニアは背を向け、離れていった。

「慢心だな。

だが、誰一人としてここからは逃がさない」

マフレムはそう言うと、

一振りの剣をタニアへ投擲した。

刃が届く前に、

アナは黒き翼から形成した盾で受け止め、

わずかに力を込めただけで粉砕した。

「……聖剣を壊しただと?」

「マフレム、だったわね。

言ったはずよ。

私は、あなたより遥かに強い」

アナは静かに答える。

「ならば、これを耐えてみろ!」

マフレムは回転しながら、

アナの首元へ斬りかかる。

刃は確かに当たった――

だが、痣一つ残らなかった。

「なぜだ!

聖なる刃は、土星に連なる女神――モリガンの弱点のはず!」

「アナと呼ぶんじゃなかったの?」

女神は淡々と返す。

「確かに、聖武器は私の弱点。

――十分に強ければ、ね。

でも、あなたの神格は低すぎる。

悪いけど、ここで終わりよ」

マフレムは後方へ跳び、

独楽のように高速回転を始めた。

「イェドゥリ・アウィロ・ニファシ (Yeduri āwilo nifasi)(暴風の竜巻)!」

彼の足元から竜巻が発生し、

周囲を引き裂く。

背後の巨大なスフィンクスすら、

その巨体にもかかわらず崩壊した。

「……広場を壊すなんて、もったいないわね」

アナが呟く。

竜巻はさらに加速し、

白い風の柱となる。

突如、それが消えた。

マフレムは稲妻のようにアナの前へ現れ、叫ぶ。

「ネチ・ネゴディグワディ・イメタリ (Nech’i negodigwadi yimetali)(白雷の一撃)!」

蓄積された力が解放され、

白い渦が複数発生し、すべてを破壊した。

美しかった広場は、

古代遺跡の廃墟と化す。

アナは、軽々と跳躍してそれを越えた。

「次は、私の番」

空中でそう告げ、

聖剣ディルンウィンを召喚する。

両手で構え、地面ごと叩き割る一閃。

暗黒の衝撃波が走り、

マフレムの身体を両断した。

背後のスフィンクスも完全に崩れ落ち、

その巨大な顔が恐怖に歪んだまま地に伏す。

「……つ、強……」

右肩から腰まで裂けた身体で、

マフレムは呟き、意識を失った。

アナは剣を消す。

「……弱かったのかしら。

それとも、私が強くなりすぎたのか」

女神は、静かにそう思った。


「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」

「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」

「とても感謝しています。」

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