第90章 ― エポナ対アル=カウム・後編
「この物語は歴史と普遍的な神話に基づいたファンタジーです。」
その瞬間、女神の唇に、かすかな笑みが浮かんだ。
「後悔があるとすれば――
あなたみたいに弱い相手に殺されることね、アル=カウム」
エポナの気配が高まり、彼女はゆっくりと地面から浮き上がる。
そして、馬の女神は叫んだ。
「イッコナ・ロイミンナ (Iccona Loiminna!)」!
白く輝く光がエポナを包み込み、
彼女は流れる白い鬣を持つ、威厳ある雌馬人の女神の姿へと変貌した。
「な……なんだ、その底知れぬ力は……!」
アル=カウムは信じがたい様子で叫ぶ。
「別の時代なら、あなたは私を簡単に倒せたでしょう。
でも――私は限界を超えた。
だから、あなたを壊す。
石になろうと関係ない。私は、あなたを倒す!」
白いエネルギーが全身に奔流する。
「ま、待て! やめ――!」
アル=カウムが叫ぶが、すでに遅かった。
エポナは流星のごとく突進し、
砂の怪物の胴体を――そしてアル=カウム自身を――一直線に貫いた。
砂の巨体は瞬時に崩壊し、
ナバテアの神は地面に叩きつけられ、重傷を負う。
「まだ殺してはいない。
でも、仲間を元に戻さないなら――
私が石になる前に、あなたの骨を一本残らず砕く」
人馬の姿のまま、腕に石化が広がりつつあるエポナが告げる。
「言っただろう……元には戻らない……!」
アル=カウムは絶望的に叫ぶ。
「本当に? なら、いいわ」
エポナは静かに言い――
彼の顔面を踏みつけた。
「や、やめろ! 頼む! ころ――!」
懇願する声も虚しく、制裁は続く。
「わかった! わかった! やる!
だから助けてくれ!」
アル=カウムが叫ぶ。
その瞬間、エポナは攻撃を止めた。
人馬の姿のまま、彼に微笑みかける。
「ほら。できるじゃない。
じゃあ、やって」
ナバテアの神は右手を掲げ、低く呟いた。
「ナダラト・アル=ラビー (Nadarat al-rabie)(春の新生)」
薔薇色の、心地よい霧が辺りを満たす。
エポナの石化した部分は癒え、
遠くでミトラス、ソル、そして生き残ったマラクたちも、
何が起きたのか分からぬまま回復していくのが見えた。
「この香りを使え。
バジリスクに石化されたマラクを元に戻せ」
アル=カウムは言った。
エポナは元の姿に戻り、倒れた神の隣に腰を下ろす。
「ね? いい子じゃない」
彼女は温かな笑みを向ける。
「……どうして、治せると分かった?」
アル=カウムが尋ねる。
「目を見たの。
疲れてて、沈んで見えても……
そこに、純粋さがあった。
乱暴してごめん。ほかに方法が思いつかなかったの」
エポナは立ち上がった。
「何があった、エポナ?」
近づいてきたミトラスが問う。
「ぼ、僕たちを……た、助けてくれたの……?」
ソルが小さく尋ねる。
「ただ、オルニスケムに新しい仲間を勧誘しただけよ。
……そうでしょ?」
エポナは、打ち倒された神に微笑む。
「行き場がない……。
今は、眠らせてくれ……本当に、疲れた」
アル=カウムは呟く。
(信じられない……。
彼女は一人でケレスを倒した。
弱体化していても、マアヘスとモントゥの消えた気配より遥かに強い……
この子たちは、天才だ)
ミトラスは愕然とした。
「それと――お願いが一つ」
エポナが付け加える。
「今すぐアンブロシアが必要なの。
じゃないと、顔がこのまま!」
「あ、ああ……もちろんだ」
ミトラスは、わずかな量しか入っていない小瓶を差し出す。
エポナはそれを飲み、傷が癒えるのを見届けた。
だが、兄弟たちから受けた傷跡だけは消えなかった。
あまりにも時間が経ちすぎていた。
彼女は薔薇色の香りを小瓶に集め、ミトラスへ渡す。
「これをマラクに持たせて。
石化した仲間のところへ行けば、元に戻るわ」
「すぐに、エポナ」
ミトラスは小瓶をマラクに渡し、
彼は一礼して、石化した兵たちの元へ飛び去った。
その後、ミトラスは、すでに眠りに落ちかけているアル=カウムへ向き直る。
「聞かせてくれ、アル=カウム。
アレオパゴはどこだ?
近いと言っていたな」
「……仲間を裏切らせる気か……」
「選択肢は少ない。
敵を助けたお前を、アレスは処刑するだろう」
「……分かった。話す。
だが、その後は眠らせてくれ」
神は地面に座り、山脈を指差した。
「真っ直ぐ飛べ。
一時間ほどで、山に着く」
「ほ、本当に……信じていいの……?」
ソルが不安げに問う。
「他に選択はない。
それに――彼が仲間に値するか、判断できる」
ミトラスは答える。
「私は信じる」
エポナが口を挟んだ。
「忠告しておく」
アル=カウムは気だるげに言う。
「僕は最下位に近いケレスだ。
六位以上は別格――特に一位と二位。
あれらは、カッテレス級だ」
「自分たちの力に頼るしかないな」
ミトラスが言う。
「脅すつもりはないが……
トーテマすら使わぬ僕に全員が負けた。
正直、勝ち目は薄い」
ミトラスは息を呑んだ。
(……証明しなければ。
弱くないと、示さなければ)
彼はアテナに認められたかった。
広く崇拝されながらも、真の力を覚醒できなかった自分を。
(前に進むしかない)
「忠告は感謝する。
だが、諦めるつもりはない」
ミトラスは強く言い放つ。
「――俺は、あなたが思うより強い!」
だがその言葉を聞く前に、
アル=カウムはすでに眠りに落ちていた。
「ど、どうするの……? ミ……ミトラス……」
ソルが尋ねる。
「マラクはここに残す。
これからは、我々三人で進む。
戦いは、さらに苛烈になる」
「本当に、それでいいの?」
エポナが問う。
「失望させたのは分かっている。
短い訓練しか与えられなかったことも……
だが誓う。
この任務で、必ず役に立つ」
エポナは頷いた。
三柱の神は、
アル=カウムが示した方角へと飛び去った。
「イッコナ・ロイミンナ ―― ルシタニア領(現在のポルトガル)における女神エポナの称号。」
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「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




