第9章 — 普通の人たちは、支配者の野望に罪はないの
「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」
ロドリゴは、これほど遠くまで旅をしたことがなかった。
彼は商隊の護衛として働いたことはあったが、レオン王国の外に出たことは一度もなかった。
トゥルトゥクサへ向かう旅は、彼にとってまったく未知の世界だった。
トゥルトゥクサの町は「コルドバのカリフ国」と呼ばれる領土内にあった。
そこへ行くために、タニアはまず彼らをカスティーリャ王国へ導き、そこから南へ進んで「マディナト=サリム」と呼ばれる町を通り、ムーア人の領地へと入った。
ロドリゴはその町で初めて完全なイスラムの都市を目にした。
だが、キリスト教徒も共に暮らしていることに気づいた。
彼はムスリムがすべての民に異教の神を拝ませていると思っていたが、それは誤解だった。
一行はその町で一夜を過ごしただけで、翌日にはさらに東へ進み、かつてトルトサと呼ばれた都市トゥルトゥクサへ向かった。
タニアの目的は、そこから彼女の住む島「イビサ」行きの船に乗ることだった。
トゥルトゥクサは息をのむほど美しかった。
山の頂上には、かつてコルドバのカリフ、アブド・アッ=ラフマーン三世が建てたとされる壮麗な宮殿がそびえていた。
巨大なモスクや高いミナレットが町を飾り、庭園や石畳の通りが整然と並んでいた。
街の通りには活気が満ちていた。
人々が食べ物や家畜、香辛料、香水、書物などを売り買いしており、無数の市場が賑わっていた。
それはレオンやカスティーリャの貧しい町とはまるで違っていた。
この都市はカリフ国の都ですらないのに、レオンやブルゴスの王都よりもはるかに壮麗であり、イベリアにおけるムスリムの経済力の証だった。
だがロドリゴは、幸せそうに暮らす人々を見て、胸の奥に苦い痛みを覚えた。
彼の故郷はムーア人の襲撃で焼かれ続けていたからだ。
「船は二日後に出るわ」
タニアは商船に乗る手配を済ませて戻り、ロドリゴとアンナに告げた。
イビサ島もマヨルカ島もコルドバの領土にあり、ここから行くのは容易だった。
以前ならバルセロナから船が出ていたが、その町は前年に略奪され、まだ復興の途中だった。
「ねえ、ルイ、町をお散歩しない?」
アンナがロドリゴに声をかけた。
彼らは出航までの間、タニアが借りた小さな宿の二階に泊まっていた。
部屋は狭かったが清潔で、二つのベッドと小さな机があり、窓から昼の光が差し込んでいた。
「いや、僕はここに残るよ。考えたいことがたくさんあるんだ」
ロドリゴは沈んだ声で答えた。
「元気出してよ」
アンナは微笑みながら窓の方を見た。外には家々が並び、近くのミナレットから祈りの声が響いていた。
「落ち着かないんだ……だって、家族のことを思い出してしまうから」
ロドリゴはつぶやいた。
「でもね、ルイ。その人たち全員が、アル=マンスールがあなたの町を襲ったことに責任があると思うの?」
アンナが尋ねた。
「同じだよ。奴らはみんな侵略者だ」
ロドリゴの声には怒りがこもっていた。
「なぜそんなふうに、ムーア人の攻撃を正当化しようとするんだ?」
彼は顔をしかめ、アンナを睨んだ。
アンナは真剣な表情でロドリゴを見つめた。
青い瞳は光を帯び、表情は厳しくも美しかった。
「普通の人たちは、支配者の野望に罪はないの」
アンナは静かに言った。
「どうしてそう言える?」
ロドリゴが尋ねると、アンナは窓の外を指差した。
「ねえ、見て」
ロドリゴが立ち上がって外を見ると、通りに一人の物乞いが座っていた。
「あの人が、コルドバのスルタンの征服からどんな利益を得ると思う?」
アンナが言った。
ロドリゴは黙った。
「何の得もないの」アンナが答えた。
「彼は貧しく生まれ、貧しく死ぬ。それはスペイン人でもムスリムでも、どこの国の人でも同じなの」
次にアンナは、アラブ人の若者たちに侮辱されているベルベル人の男を指した。
「あの人はどう? 肌が暗くて北アフリカの出身だというだけで、二級市民のように扱われる。それが彼の罪?」
ロドリゴは再び沈黙した。
「ねえ、ルイ。どこでも同じなの。力を持つ者が、持たざる者を支配する。アル=マンスールがあなたの故郷で犯した不正は、底辺の人々には何の利益ももたらさないの」
アンナは悲しげに言った。
「いつかコルドバの首長国も滅びる。そのとき、ここの人々もあなたの家族と同じ目に遭うの。世界はそういう終わりのない悲しい循環に囚われているのよ」
ロドリゴは目を伏せた。
「それでも……納得はできない」
「わかってるよ、ルイ。アンナもそう思うの」
アンナは優しく言い、彼の肩に手を置いた。
「ただ考えてほしかったの。本当に憎むべきは、普通の人たちじゃなく、その上にいる者たちだってことを」
ロドリゴは再びベッドに腰を下ろし、黙り込んだ。
「じゃあね、アンナがおみやげ買ってきてあげる」
アンナは子どもっぽく微笑みながら言い残し、部屋を出ていった。
ロドリゴは静まり返った部屋で、なおも思索の中に沈んでいた。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




