第80章 ― 裏切り・後編
「この物語は歴史と普遍的な神話に基づいたファンタジーです。やがて神道の神話も登場します」
皆が恐怖で凍りついた瞬間だった。
タニアがロドリゴに襲いかかるのを見てしまったのだ。
誰も動けなかった――
ただ一人を除いて。
それは、ずっとこの瞬間を予感していたアンナだった。
彼女はロドリゴを突き飛ばし、代わりに自分の背中でその一撃を受け止めた。
「なにやってるの、タニア!?
いったい何があったの!?」
アンナは激痛に叫んだ。
「どいて、アンナ!
そいつを殺さなきゃいけないの!」
タニアは怒鳴った。
しかしアンナは、燃え上がるタニアの手を自分の背中に押し付けたまま、決して離さなかった。
痛みは耐えがたいものだったが、それでも彼女は手を放さなかった。
他の神々がタニアを取り押さえ、ついに彼女は泣き崩れた。
アンナはゆっくりとタニアの手を傷口から引き抜き、苦痛に顔を歪めながら前にかがんだ。
「やっぱり裏切り者だったんだな!」
ミトラスが激怒し、湾曲した剣を抜いた。
その時、エポナとアンナはタニアの頬にある恐ろしい傷に気づいた。
今まで髪で隠していた傷だ。
だが、さっきの騒動で、もう隠しきれなかった。
「あの傷……前はなかったわ……」
エポナは震える声で呟いた。
その直後、女の声が響いた。
タニアの悪夢に現れた、あの女の声だ。
「簡単な命令すら守れないなんて……
本当に使えないわね、無能。」
「お願い……みんなを殺さないで!
私を殺して! でも、あの人たちはやめて!」
タニアは必死に叫んだ。
周囲を見回しても、誰もいなかった。
声はテレパシーで響いていた。
「約束を破ったわね、タニト。
まともに振る舞えず、仲間に疑われるような行動までした。
これは全部、あなたの責任よ。
その代償を払ってもらうわ。」
「お願い……もう一度だけ、チャンスを……!」
タニアは嗚咽した。
「――やめろ。」
別の声が割って入った。
「その声……ナブか?」
ミトラスが尋ねた。
「そうだ。
タニアを解放し、これ以上彼女に手を出すな。」
ナブの声が命じた。
「で、でも……
彼女は仲間を殺そうと……」
ソルが吃音混じりに言った。
「今聞こえている女は、バアラト。
エルのエロヒムの一人だ。」
ナブが説明した。
「タニアは元々レル側の存在だったから、
彼女の夢に入り込むのは簡単だった。
村を滅ぼすと脅して、最初から彼女を脅迫していたんだ。」
「でも、あんたは私たちのことを話したでしょ、タニト!?」
バアラトが怒鳴った。
「……違う……」
タニアは小さく呟き、涙を流した。
「その通りだ。
彼女は何も話していない。」
ナブは冷静に言った。
「彼女は一人で背負おうとした。
私は彼女の治療担当として、その異変に気づき、
夢の内容から黒幕を突き止め、
イビサに防壁を張った。」
「みんなは無事なの!?」
タニアが叫んだ。
「ああ、無事だ。」
ナブが答えた。
「バアラトに気づかれる前に、
村を守る結界を張った。
今は僕が守っている限り、
どんなマラクも侵入できない。」
実際のナブは、イビサの海岸に寝そべり、
本に囲まれ、ビールを片手にしていた。
漁師の格好をし、
普通の地元民のような髭姿だった。
「ついでに日光浴もしてる。」
ナブは付け加えた。
「タニア、君の故郷は本当に美しい。
人々は君を待っている。
愛してくれる人たちから、背を向けるな。」
「その貧弱な結界で私を止められると思ってるの?」
バアラトが嘲笑した。
「落ち着け、バアラト。」
ナブは穏やかに言った。
「僕は今、イビサの映像を
“たまたま”レルと同盟関係の友人たちに配信している。
もし誰かが介入すれば、
不干渉法違反が世界中に知られる。」
「くたばれ、ナブ!!」
バアラトが叫び、通信は途切れた。
「もう大丈夫だ、タニア。」
ナブは優しく言った。
「行け。幸運を祈る。」
「ありがとう、ナブ……
本当に……感謝してる……」
タニアは泣きながら言った。
「貸し一つだな。」
ナブは笑った。
「次はちゃんとトラウマ治療もしてやる。
頑張れ、小さな戦士。」
タニアは膝から崩れ落ち、泣き続けた。
やがてロドリゴとエポナが
アンナの傷を手当てしているのを見て、
深く頭を下げた。
「ごめんなさい……
本当に……ごめんなさい……」
「最初から何かあるって分かってた。」
アンナは言った。
「私たちも、もっと早く話すべきだったわ。」
エポナが続けた。
「私……最低よね、ロドリゴ……」
タニアは震えながら言った。
「あなたの村が滅ぼされた時の気持ち……
今なら分かる……
なのに私は……
自分のためにあなたを殺そうとした……
ごめんなさい……」
「タニア……
僕たちを信じて。」
ロドリゴは優しく言った。
「……私のこと、嫌い?」
彼女は怯えた目で尋ねた。
「嫌いじゃない。」
ロドリゴは答えた。
「大切な人を守るためなら、
誰だって同じことをする。
君の村は君を待ってる。
腰の悪いおばあさん、
指を切った男の子、
夫婦関係に悩む漁師、
風邪をひいた子どもたち……
君はみんなを助けてきた。
だから、戦おう。」
彼は手を差し伸べ、彼女を立ち上がらせた。
その間、ソルはアンナにアンブロシアを飲ませ、
背中の傷を治していた。
「アンナ……
私も……ごめんなさい……」
タニアは囁いた。
「話は後。」
アンナは言った。
「今は生きて帰ることだけ考えて。」
アンナはタニアの頬の傷に気づいた。
「……あの女にやられたの?」
タニアは黙って頷いた。
「一人で抱え込まなくていい。」
アンナはため息をついた。
「でも……
あんたのクソ家族は、
ますます嫌いになった。」
ミトラスが背後に立ち、
剣をタニアの首筋に当てた。
「信じていいのか?
それともまだ誰かに脅されているのか?」
冷たい声で問うた。
「さっきは殺されてもいいと思ってた。」
タニアは言った。
「でも今は違う。
帰りたい。
みんなと一緒にいたい。
戦う。
その後で罰を受けるなら、受ける。」
ミトラスは剣を収めた。
「監視は続ける。」
そう言い残し、背を向けた。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




