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第67章 ― アンナの過去

「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」

ロドリゴは午前4時30分に目を覚ました。

アンナとタニアと一緒に暮らすようになってもう二か月以上経っていたが、早起きの癖だけは抜けなかった。いつも夜明け前に起きて、仲間たちが起きてくる――だいたい朝8時過ぎ――まで、イビサの町を散歩するのが習慣だった。

用を足してから、二人が泊まっている豪華な部屋のメインラウンジへ行くと、アンナがソファに座っていた。前にエポナが座っていた、あの同じソファだ。

そして、そのアンナの膝の上で――エポナが眠っていた。

窓がないので、外が明るいのか暗いのか分からない。壁のランプがいくつか灯っているだけだった。昼か夜かも分からないのに、部屋は到着したときよりずっと暗く感じられた。

ランプの光がアンナの顔と瞳を照らし、妙にきれいに見えた。

けれどアンナの表情は、不安と沈み込みでいっぱいだった。ぼんやりしていて、何も見ていないみたいだった。

ロドリゴは、アンナが「自分の中で整理したい」と言っていたことを思い出した。自分がタニーンだと知った件だ。だから邪魔しないで、ベッドに戻ろうとした――そのとき、アンナが気づいて振り向いた。

「ルイ……」

アンナの目は赤く、頬には涙の跡が残っていた。たぶん、エポナがそばにいても、ずっと泣いていたのだろう。

ロドリゴは無視できず、立ち止まった。

「おはよう、アンナ」

そう言うと、アンナは小さく笑って、無理に笑顔を作った。

「アンナには、まだ夜だもん……」

気まずい沈黙が落ちた。

しばらくして、アンナが先に口を開いた。

「ねぇ……ちょっと、お話してもいい……?」

ロドリゴは頷き、向かいのソファに座った。

アンナはそっとエポナの頭を膝から外し、ソファに寝かせてやる。それから立ち上がり、ロドリゴの隣にちょこんと座った。

「まず……病院のとき、ごめんね……」

アンナは小さな声で言った。

「ルイを差別したかったわけじゃないし、見下したかったわけでもないの。……ただ、タニーンは悪いって、ずっと聞かされて育ったから……怖くなっちゃって……」

「大丈夫だよ」ロドリゴは答えた。

するとアンナは、少しむっとしたようにロドリゴを見る。

「なんでルイって、いつも静かなん……? なんで怒らないの……? アンナ、ひどいこと言ったのに……普通、怒るでしょ……」

「ほんとに平気だよ、アンナ。ぼく、ずっと……どこにいても浮いてたから」

ロドリゴは苦笑した。

アンナはロドリゴの腕に、こてん、と頭を寄せた。

「……うん。浮くの、つらいよね……」

アンナは小さく頷く。

「だからアンナ、すごく悪かったって思ったの。ルイってずっと……ひとりで、さみしくて、悲しくて……でも、それでも歩いてきた感じがするんだもん。正直ね……ちょっと、うらやましかった」

ロドリゴの胸がきゅっと痛んだ。

過去の断片がよみがえる。子どもたちの叫び声――「悪魔だ!逃げろ!」

アンナは続ける。

「ルイの心の中、いっぱい痛いのあるって分かる。家族のことも……復讐できないことも……みんなより弱いって思っちゃうことも。でもルイ、ぜんぜん見せない。中にしまって、笑って、前に進むの」

「アンナもね……そうなりたい。……っていうか、そうするしかなかった。アンナにも、言えない痛いのがいっぱいあるから……」

ロドリゴは母のことを思い出し、目に涙がにじんだ。

アンナはロドリゴの手を取った。

「……ね。アンナたち、最初に繋がったの、手だったよね」

アンナはそう言って、ぎゅっと握る。

「人生って、ほんとひどい場所だよ。でも、少しでも良くするために戦わなきゃ。ほんのちっちゃい砂粒でもいいの。時間がかかって、何千年、何万年かかっても……少しずつ直していけば、アンナたちみたいに苦しむ人、減らせるから……」

「ぼくも、そう思う」ロドリゴは頷いた。

アンナはロドリゴを見上げた。

「ルイ……聞いてほしいの。アンナのこと……過去のこと。せめてそれくらい、アンナはルイにしなきゃ。あんな態度とったんだから……」

「うん。話して。ぼく、信じてる」

ロドリゴは優しく言った。

「……うん」

アンナはロドリゴの腕から頭を起こした。

少し黙ったあと、アンナの顔に――苛立ちと痛みが浮かび始める。

「……ルイ、アンナのこと、『モリガン』って呼ぶ人いるの、聞いたことある……?」

「あるよ。ロキがそう呼んでた」ロドリゴは答えた。

アンナは立ち上がった。

「モリガンってね……女神でも、人でもないの」

アンナは何もないところを見つめたまま言う。

「アンナと……アンナの姉妹、バズブとマッハが……くっついて、ひとつになった姿。それが……モリガン……」

「アンナたち三姉妹はね、トゥアハ・デ・ダナーンっていう国から来たの。アイルランドの神さまたちが生まれて住んでた国。そこから人間のいるアイルランド島と接触して……崇拝させて……それで力と影響を得たの」

アンナは部屋の中を落ち着かない様子で歩き回りながら話す。

「でもね、アンナたちの国は……昔から住んでた別の神さまの派閥と戦争になったの。羊の仮面をかぶってる連中で……フォモール族って名乗ってた。首領は、バロールっていう……片目の巨人」

「ずっと、ずっと戦った。勝ったり負けたり。……でも、アイルランドの人間と最後の絆を結んだとき、トゥアハ・デ・ダナーンは、ものすごい力を手に入れたの。フォモール族と決着をつけるための力」

「王様のヌアザはね、フォモール族の配下を倒して王になった人で……最後の戦いのために、最強の戦士たちを集めたの。ルーっていう神さまも呼ばれた。今のアイルランドのアヌンナキだよ」

アンナは少し息を吸い、続ける。

「でも……人間から得た力があっても、神さまたちの勇気があっても……勝てないかもしれないって分かってた。だから……前のアヌンナキに連絡するって決めたの。名前は――」

その瞬間、アンナの顔が歪んだ。

言いにくそうに、喉がつまったみたいになる。

「……ダグザ……」

ロドリゴは反射的に、両手でアンナの手を包み込むように握った。


「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」

「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」

「とても感謝しています。」

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