第62章 ― レル
「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」
空は暗く、星々が散りばめられ、紫色の雲がゆっくりと流れていた。
空中には小さく光るトンボのような虫たちが漂い、幻想的な光景を照らしていた。
ヘイムダルは巨大な石橋の上を歩いていた。
橋の下には永遠に続く海が広がり、その水面には天に輝く三日月が映っていた。
石橋の終点には巨大なスフィンクス像が両脇にそびえる巨大な門が立っていた。
その前に金色の兜と翼を持つ二人のマラキムが槍を構えて立っていた。
「僕はヘイムダル。女王アナト殿に謁見しに来た。」
北欧神は冷たく言った。
マラキムたちは白い肌の神を侮蔑の目で見た。
「アナト様は貴様のような“異民族”をお会いにはならん。」
「急ぎの届け物だ。お前たちが渡すなら、それでいい。」
「届け物? 何だそれは?」
ヘイムダルは外套の下から“それ”を取り出し、二人の足元へ放り投げた。
エススの生首だった。
「女主人に伝えろ。次にアースガルズに手を出したら――今度は“彼女の頭”がこうなるとな。」
「こ、これは……アヌンナキのエスス……?」
「き、貴様を逃がすわけには――!」
だがヘイムダルはビフレストを発動し、その場から消えた。
レルは神々の都であり、主神エルの王宮がある世界。
その惑星そのものが、フェニキア風の巨大城塞のような構造を持つ。
城の前には、無限の海に架かる巨大な石橋――
訪れた者は皆、その橋を渡らねばエロヒムたちの支配領域へ入ることはできない。
主神エルは長い間、公の場に姿を見せていない。
そのため、最強のエロヒムである娘アナトが、事実上の支配者として座していた。
レルの空は常に夜。
巨大な衛星が光を遮り、闇だけが支配している。
“レル”とはフェニキア語で「夜」を意味する。
この世界は宇宙も銀河も次元も現実も超えるほど巨大で、
「百の天の川を丸ごと飲み込む」とさえ言われている。
ひとりのマラキムが宮殿内部へ駆け込んだ。
レルの内部はあまりに広大で、光速の何百万倍でも歩くには遅すぎるため、
多くの者がワープや門を使って移動する。
「アナト様! アースガルズからの使者が……こ、これを……!」
女神アナトは玉座に座っていた。
ピンクの髪にピンクの瞳——
紫のアイシャドウ。
頭には雄牛のような二本の角。
片肩の紫のドレスに金の腕輪、金のサンダルを身につけている。
玉座は金製で、両側には二頭のライオンが彫られていた。
背後には主神エルの王座を隠す巨大な幕が垂れ下がり、
広間には天井が見えないほど高い柱が立ち並び、
白い床を覆う霧の上に紫の絨毯が敷かれていた。
アナトは湯気の立つ黄金の杯を飲んでいた。
「……何の用だ、マラク。」
震える手で、マラキムはエススの首を差し出した。
アナトはそれを一瞥し、鼻で笑った。
「ケルトの神って、ここまで弱かったかしら。」
杯を侍女に渡し、立ち上がり、首を見つめた。
「アースガルズは自力で解放された……
あの二人の娘はトーテマを取り戻し、
そしてアテナと手を組んだ……
まったく、無能ばかりね。」
そのとき、別の衛兵が入ってきて深く頭を下げた。
「アナト様、戦神アレスが再び謁見を求めております」
「また役立たずが一人……いいわ、通しなさい。ちょうど聞きたいことがあるの」
彼女は命じた。
衛兵たちは再び一礼し、部屋を後にした。
アナトは玉座から立ち上がり、床に置かれた首のない頭――切り落とされた首を見下ろした。
従者たちがそれを片付けようと近づいたが、彼女は手で制した。
ゆっくりと歩み寄り、冷たい侮蔑の眼差しでそれを見つめる。
「アスガルドがこれほどの力を持っていたとは……
だが、あの野蛮な連中を過大評価しすぎたわ。
父を失えば、簡単に崩れ落ちると思っていたのに」
彼女の瞳が一瞬だけ妖しく光り、
エススの首は粒子となり、跡形もなく消えた。
「……それにしても、あの“少年”の力。
あれは普通じゃない……あれは危険。」
アナトは玉座へ戻り足を組む。
「あの子は早めに殺しておく必要があるわね。」
指を弾くと、侍女と衛兵は全員部屋を去った。
アナトは薄く笑った。
「さて……あの戦争狂いの軍神がどれほど役に立つか、試してみましょう。
ちょうど良い“餌”もあるし。」
レルには数百もの中庭がある。
その一つ。
暗闇に響く苦痛の声。
そこには多くの者が磔にされていた。
十字架に吊られ、裸のまま釘で手足を打ち抜かれた者たち。
その中に――
アンピエルがいた。
血にまみれ、息絶えそうになりながら、
彼はなお意識を保とうとしていた。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




