第43章 — アスガルドの新アヌンナキ
「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」
アスガルド、ユグドラシル
「よぉ、みんなもオヤジに呼ばれたんか?」
トールは胸を張ってヴァルハラの大扉へ歩いて行きながら声をかけた。
そこには三柱の神が待っていた。
一人目は、いつものように眩しいほど輝くフレイ。
腰に白い布をゆるく巻いただけで、相変わらず天上の光を放っている。
二人目は、金の巻き髪にほんのりピンクを帯びた絶世の美女――フレイヤ。
白いタイトドレスに金の留め具、深いスリットからは白磁の脚がのぞき、黒い羽のマントを羽織っていた。
三人目は、一腕を失った老練の将軍――ティール。
短く刈られた髪、顔には戦いの傷。
ノルウェー式の赤いチュニックに黒の脚衣、腰には無数の戦を潜ってきた赤銅色の剣。
「そうだよ、トールちゃん。僕の姉さんとティールちゃんも呼ばれたのさ〜♬」
フレイはまぶしい笑顔で言った。
「父上が長く姿を見せなかった理由が…ついに分かるかもしれん」
ティールが低くつぶやく。
「急ぎ来いと言われたわ。ロキの反乱と関係があるのかもしれないわね」
フレイヤが続けた。
――いよいよオレがミズガルズに降りて、ロキをぶっ捕まえる時が来たな。
トールは拳を握りしめた。
「四柱お揃いになりました。お入りください」
ヴァルハラ門のヴァルキリーが言い、槍を下げる。
巨大な扉が自動で開き、まばゆい閃光が四柱を包んだ。
視界が戻った時――
黄金の柱も天井も消えていた。
そこは鬱蒼とした森。
太い枝、濃い緑の葉、湿った土の匂い。
まるで妖精の森の奥深くだ。
鹿の仮面を被った白衣のマラクたちが地に伏し、倒木を削って作った祭壇へと続く道を作っていた。
祭壇には、一人の男と――四人の“鹿仮面ではない存在”が立っていた。
背後には巨大なヤドリギの木。
枝には斬り落とされた首が無数に吊られ、儀式めいて揺れていた。
「よく来たな、アース神族の諸君」
玉座に座る男が言った。
栗色の髪、緑の瞳。短い髭。
白い法衣に金の刺繍。
右手にはヤドリギの杖。
その姿は――悪意に満ちた自信そのもの。
「てめぇは誰だ! オヤジはどこだ!?」
トールが叫び、四人のアース神族は即座に構えた。
玉座の横に立つ四人の影が嘲笑した。
「ここは聖域だ、争う必要はない」
男は落ち着いた声で続ける。
「レルの命により、僕はアスガルドの新たな王となった。
――僕は、神エズスである」
四柱に戦慄が走った。
「エズス!? ケルトのアナンナキじゃない!」
フレイヤが叫ぶ。
「父上オーディンをどこへやった!」
ティールが剣に手をかけ吼える。
「死んだよ」
エズスは薄く笑った。
「だから僕は、アスガルドを自分の領域に組み込んだのさ」
ケルト四神はゲラゲラ笑い続けた。
「ウソつくんじゃねぇ! 父上がテメェみてぇな雑魚に殺されるわけねぇだろ!」
トールが怒鳴った。
「心配するな、殺したのは僕じゃない。
レルの怪物どもが処理した。
僕はただ“提供された王座”を受け取っただけだ」
エズスは当然のように言った。
「お前たちの人間がレルの聖域を荒らし続けた。
だからレルは北方を支配下に置いた――それだけだ」
アース神族四柱は胸の中の“隠されたトテマ”に手を伸ばした。
その瞬間、玉座脇の四つの影が構えた。
「タラニス、ベリサマ、スケルス、スメルトリオス……落ち着け」
エズスは軽く手を上げた。
「僕たちは文明的な神だ。外交という言葉を理解している……そうであってほしいがね」
エズスは続ける。
「召喚したのは戦うためではない。
お前たちはアスガルド最強の四柱だ。
僕の配下になれ。そうすれば命も民も守られる。
拒めば――
アスガルド全土を焼き払い、巨大な“藁人形の神”の中で生贄にしてやる」
「素晴らしい提案だこと」
フレイヤが冷たく返す。
「ただ、一つだけ問題がある」
ティールが剣を抜いた。
「俺たちは“戦士の国”なんだよ。外交なんざ性に合わねぇ」
トールが吼える。
「どれほど不利でも、アスガルドは最後の一兵まで戦う。
その首、お前の玉座に飾ってやるよ ♬」
フレイがにっこり笑った
エズスは鼻で笑った。
「残念だが、お前たちはすでにこの次元に閉じ込められている。
ヘイムダルだけが鍵だが……奴はすでに“僕に従っている”」
「従ってなどいない」
霧の奥から冷たい声が響いた。
「僕は偉大なる父オーディンにのみ仕える。
父がいない今、僕の主は第二の指揮官――トールだ」
ヘイムダルが現れ、アース神族の側に立った。
手にはギャラルホルン。
「ヘイムダル! 裏切ってねぇって知ってたぜ!!」
トールが叫ぶ。
「アスガルドにオーディン様を裏切る者などいない」
ヘイムダルの声は無機質だった。
「お前ら野蛮人が」
エズスは立ち上がり、吐き捨てた。
「僕はアスガルドを“真の神”レルのために整える。
こいつらを片付けろ」
エズスは背を向けて去り、鹿仮面のマラクたちが続いた。
「逃げんなコラァ!!」
トールが叫ぶ。
エズスの配下の一人が立ちはだかった。
赤茶色の髪と髭、車輪を象った金の冠飾り、青銅の胸当て。
「僕はタラニス。雷を司るケルトの神だ。
お前と戦える日をずっと待っていたぞ、トール」
雷が背後に輝き、巨大な車輪の紋章が現れた。
「野蛮人は私の槍に串刺しになるのがお似合いよ」
青みがかった髪の女神がフレイヤの前に立った。
「私はベリサマ。
あなたが見る最後の景色は――この水の揺らめきよ」
次にフレイの前に現れたのは、美しく輝く若い男。
赤いマント、金の胸当て、青いスカート。
巨大な鎚を手にしている。
「僕はスケルス。世界一美しい神だ。
フレイ、その醜い顔をこの鎚で潰してあげるよ〜♬」
最後に、毛むくじゃらの怪物のような大男がティールへ飛びかかった。
ティールは一瞬でかわす。
「悪くないなティール。だが俺を倒すには、もっと頑張れ」
男は野獣のように笑い、巨大な棍棒を肩に担いだ。
「俺はスメルトリオスだ」
「ヘイムダル!! ビフレストを開け!
アスガルド全土に知らせろ! エズスを止めるんだ!
オレたちもすぐ行く!!」
トールが叫ぶと、ヘイムダルは頷き、虹の閃光の中へ消えた。
背後にビフレストの門が開く。
「よし!
フレイ! フレイヤ! ティール!
いっちょ変身してやるか!!」
アース神族四柱はトテマを引き抜き、
次元を揺らす光が戦場を包んだ。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




