第41章 — 決意の朝
「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」
異空間を解除した後、アンナ、タニア、エポナ、ロドリゴ、そしてアテナは、スルトの攻撃で生き残った人々を救護した。
しかし――助けられなかった命の方が多かった。
焼け落ちた家、押し潰された人々、泣き叫ぶ子供たち。
北方の戦争のせいだと噂する者もいれば、千年紀の到来を前に「神罰」だと怯える者もいた。
ロドリゴは胸がむかついた。
自分の村で見た地獄を思い出したからではない。
今回は――
神人そのものが人間を大量に殺した
その事実が胃を刺した。
そしてロドリゴは、自分が殺した兵士たちのことを思い出し、今さら罪悪感に胸を締めつけられた。
エポナは孤児たちのそばで歌い、手を振り、花輪を作って泣き止ませていた。
言葉は通じなくても、仕草だけで十分だった。
酒に酔って馬みたいに暴れる姿からは想像できないほど、優しくて母性的で――ロドリゴはそのギャップにまた心を奪われた。
アンナも負けていなかった。
笑顔で傷を癒やしながら、つい数時間前まで自分の身体を盾にしてロドリゴを守った。
巨人に押し潰されながらロドリゴを見て笑っていたあの表情が頭から離れない。
――なんで、アンナは僕のために死ぬ覚悟があるんだ?
僕の何がそんなに大事なんだ?
タニアは夜通し働いていた。
瓦礫を運び、住民に指示を出し、怪我人を救い出し……
彼女の必死さは、まるで“全部自分の責任だ”と言わんばかりだった。
たとえ言葉が通じなくても、タニアは皆をまとめ上げる。
指揮官としての才能は圧倒的だった。
夜の終わり、ようやく全員が焚き火の周りで仮眠を取った。
ロドリゴとアンナは同じテント。その瞬間、彼女は毛布に倒れ込んだ瞬間に眠り込み、ぐっすり寝息を立てた。
戦いと治癒で完全に力を使い果たしていた。
タニアは寝ずに外で番をしていた。
離れた場所で、アテナも静かに蜂蜜酒を飲みながら夜明けを待っていた。
二人は何も話さず、ただ空が赤く染まっていくのを見つめていた。
エポナは孤児たちに囲まれて眠っていた。
まるで本物の母神のように。
朝。
鳥の声でロドリゴは目を覚ました。
いつも早起きのロドリゴが起きられなかったほど、昨夜は疲れていた。
……そして気づいた。
寝ながらアンナが彼に抱きついていた。
心臓が止まるかと思った。
同時に、あの“共に死のうとした”時のことが蘇る。
――あんなの、もう二度とさせない。
今度は僕が守る。
鳥の声はさらに響き、まるでロドリゴに呼びかけているようだった。
そっとアンナの腕をほどいて、外に出た。
夜はまだ明けきらず、冷気が刺すようだった。
そして――
枯れ木に二羽の鳥が止まっていた。
その身体には、何か光るものが結びつけられていた。
近づくと、鳥は逃げなかった。
むしろ「来い」と言っているように見えた。
一羽は――三日月と三角のドレスを着た少女の像が刻まれた石。
もう一羽は――三つの渦巻きの紋章。
ロドリゴがそれらを手に取った瞬間、鳥たちは飛び去った。
理解した。
これは――
タニアとアンナのトテマだ。
アンピエルが送ったのだ。
けれど……石には新しい血がついていた。
天使に何が……?
タニアがロドリゴを見て立ち上がった。
ロドリゴは叫んだ。
「タニアさん! これ、トテマじゃないのか!?」
タニアは石をつかみ、その場で固まった。
涙が溢れ、震えながら囁いた。
「……わたしの……トテマ……」
「血がついてる……アンピエル……」
タニアは石を胸に抱きしめ、目を閉じた。
ロドリゴはそっと肩に手を置いた。
「アンピエルの犠牲……無駄にはしないよ」
タニアは頷いた。
その瞬間、
タニアがアンナの寝袋を蹴り飛ばした。
「起きろ、このカラス面!! 見ろ!!」
「ふぎゃっ!? なに!? え、えっ!?」
眠気と混乱から一瞬で覚醒したアンナは、
差し出された石を見た瞬間、表情が輝いた。
「アンピエル……ありがとう……やっぱり来てくれた……!」
だが血に気づくと、
「タニア……アンナ……アナト殺す。絶対殺す。
たとえタニアが敵になっても殺す」
タニアは首を振った。
「いいえ、アンナ。わたしは……もう決めました。
アンピエルの血が、答えをくれた。
わたしもアテナの側につきます」
アンナは嬉しそうに笑った。
二人はエポナを起こした。
「おい、エポナ! 起きろ!!」
「うるせぇ……今いいところ……って、血……?」
彼女は固まった。
「アンピエル……無事なのか?」
「分かりません」
タニアが言った。
「でも、生きてるはず。レルにまだいる。助けに行く」
アンナは強く言い切った。
三人はテントに入り込んで座り込んだ。
「で、これからどうすんだよ」
エポナが言う。
「ロキと戦うのか? それともタニアの――」
「わたしも仲間よ」
タニアが言った。
「はぁ? これで三人揃ってレルの脱走兵か」
エポナが呆れた。
「ロキとは戦いません。アンピエルを探します」
アンナが言った。
その瞬間――
パァン!
タニアがアンナの頬を叩いた。
「なにすんのよタニアぁぁぁ!!!」
アンナが叫ぶ。
「アンピエルの犠牲を無駄にする気!?
昨日死んだ子供たちのこと、もう忘れたの!?」
タニアの怒声に、
アンナもエポナも黙り込んだ。
「それに、レルはもう気づいてる。
トテマが消えた時点で“反逆者”よ。
ロキを殺すために来るケルトの神々は、次は私たちを狙う」
その時。
「だからこそ、ロキを仲間に入れるんですよ」
アテナがテントに入ってきた。
「はぁ!? あいつなんか信じられるか!」
タニアが唸る。
「敵の敵は味方です、タニア。
今のあなたたちに選択肢はありません」
アテナは冷静だった。
タニアは長い溜息を吐いた。
「分かったわよ。
でもまず、あいつの顔面を蹴り飛ばしてから仲間にするわ。巨人の方じゃない方ね」
「好きにしていいですよ」
アテナは肩をすくめた。
テントを出ると、エポナは俯いていた。
「大丈夫?」
アンナが尋ねる。
「……わたしが“そこにいろ”って言ったから……
あいつ……死んだ……」
「違うよ、エポナ。
エポナのせいじゃない。
それに、死んでないよ。
アンナが絶対ぶっ潰す。
アンピエルを傷つけたやつ、全員ね」
エポナは涙を拭いた。
朝八時。
雲の隙間から光が差し込み、人々はパンと水やビールを口にした。
別れの時。
皆が女神たちに感謝した。
エポナは五頭の馬を揃えた。
アロースへ向かうためだ。
タニアが馬に跨がりながら言った。
「さあ、真実の時ですよ」
アンナも燃えるように言った。
「ぶっ潰してやるよ、あのクズども!」
エポナは拳を握った。
「昨夜殺された人々のために、絶対に償わせる」
ロドリゴも叫んだ。
「アンピエルを助けよう!」
アテナは微笑み、頷いた。
こうして五人は――
アロースへ向けて走り出した。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




