第38章 — タニアとアンナ対スルト・後編
「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」
空が赤く染まりはじめた。
タニアは両手の間に巨大な火球を生み出し、
そこから赤紫の雷がほとばしった。
「ガラド・エシュ・マート(火の玉百番)!!」
タニアが叫ぶと、燃え盛る球体が拳の間に形成され、
そのまま巨人めがけて放たれた。
スルトはぎりぎりで振り返り、剣で弾き返した。
だが完全には捌ききれず、
火球は軌道を変えて遠くの山へ飛び――
巨大な爆発を起こし、異界全体を照らした。
「敵に背中を見せるなって、母親に教わらなかったの!?」
アンナは剣を抜き放ち、叫んだ。
「ベアンナ・ポルタ(鴉突)!!」
黒いカラスたちが背後に現れた瞬間、
アンナは矢のように飛び出し、巨人の体を貫いた。
そのまま巨大な身体を串刺しにしたまま飛翔し、
山肌へと投げつけ――
山が粉々に砕け散った。
タニアはアンナの隣に着地し、拳を軽く合わせた。
戦場の姉妹の合図。
瓦礫の中から、スルトが立ち上がった。
怒り狂った形相。
「てめぇらクソ女神ども……ぶっ殺してやる!!」
「アンナさん、最後の一撃に行きますよ」
「もちろんだよ、タニアお姉ちゃん!」
二人の女神が構えた瞬間、スルトが突進してきた。
二人同時に攻撃を仕掛けるが、
燃える剣がそれを弾き、吹き飛ばされる。
アンナは空中で体をひねり、再び突撃したが――
スルトはその喉を掴み、そのまま地面へ叩きつけた。
「ぎゃああああああッ!!」
アンナの悲鳴。
巨人はその身体を何度も踏みつけ、
骨が砕ける音が響いた。
タニアが救おうと駆け寄った瞬間――
燃える剣が彼女の右腕を斬り飛ばした。
「ッ……!」
タニアは頭から地面へ落ち、血を吐きながら倒れ込む。
腕は再生しない。イコルが残っていないのだ。
「これで終わりだ」
スルトが剣を両手で掲げる。
「エルズ・ゲイスル(火光線)!!」
真紅の光線が落下し、
爆音とともに大地がえぐれ、煙が立ちこめた。
煙が晴れると、二人の女神は巨大なクレーターの底で倒れていた。
アンナは朦朧としながらも腕を動かそうとする――
しかしスルトがそれを掴み、
ロドリゴのそばへ投げ捨てた。
「まとめて殺してやるよ、あのガキと一緒にな」
スルトは嗤った。
しかしアンナは、四つん這いでロドリゴの上へ這い寄り、
ボロボロの身体で彼を庇った。
「アンナは……ルイを……守るの……」
血を吐きながら、小さく囁く。
「ダメだ、アンナ……お願いだから死なないで……!」
ロドリゴは涙をこらえながら叫ぶ。
「ルイ……アンナは……師匠だもん……守るのは……アンナの役目……」
血まみれの顔に、微笑みを浮かべた。
スルトは二人をまとめて踏みつけた。
アンナの体が跳ね、血が溢れ出す。
ロドリゴの視界が暗くなりはじめた。
最後に見えたのは、歪んだアンナの顔。
スルトは苛立ったように剣を掲げた。
「ヘルへ行け。二人まとめてな」
その瞬間――
ロドリゴは最後の力を振り絞り、叫んだ。
「アテナ様……!! 僕たちを助けてぇぇぇッ!!」
大地に――
一本の槍が突き刺さった。
スルトは飛び退く。
「誰だッ!? 出てこい!!」
そして――
山の頂に立つ影。
右手を投げの姿勢に残したまま、
堂々と立つ女神。
アテナだった。
「――まぁ、驚いたわ。
アンタから呼ばれるとは思わなかったけど?」
彼女はゆっくりと微笑み、
その目は猛禽のように鋭く――
そして心を震わせるほど美しかった。
「さぁ……始めましょうか」
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




