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第32章 — アースガルズ

「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」

――数か月前、北欧神界アースガルズ。

「もう入れてくれよぉ!」

金の柱が並び、香が立ちこめる巨大な回廊に、雷鳴のような声が響いた。

「トール様、何度も申し上げましたが――オーディン陛下の王座の間にお入りいただく許可はございません」

白銀の翼を背に持つ二人の女戦士――ヴァルキュリアが、槍を交差させて道を塞いだ。

彼女たちの兜には白鳥の飾り羽と湾曲した翼があしらわれ、青いローブの下から光沢の鎧が覗いている。

「チッ……!」

トールは荒々しく舌打ちした。

燃えるような赤毛、整えられた髭、翠色の瞳。

熊の毛皮のマントを羽織り、緑のチュニックに革のブーツ――雷神トールその人である。

ここはヴァルハラ。オーディンの宮殿であり、アースガルズの中心。

その広さは、人間の尺度で言えばヨーロッパ全土にも匹敵する。

白と黄金に輝く外壁、無数の柱と黄金の盾で覆われた穹頂。

無限に続く大広間には、エインヘリャルたちが宴を開き、ヴァルキュリアたちが戦技を教えていた。

外から見れば、金と銀の塔が林立する森のようであり、

最も高い尖塔の頂には、山羊と牡鹿の像――神域の守護獣が立っている。

その周囲を、青緑の雲がゆらゆらと漂っていた。

宮殿の外には、グラスィルの園と呼ばれる広大な庭園が広がっている。

泉と湖、果樹と巨木、そして鹿やエルクが自由に歩き回る楽園。

中心には黄金の枝を持つ大樹グラシスルンドルが立ち、

その輝きは天空そのものを映すようだった。

「なぁ、聞いてくれよ!」

トールが叫ぶ。

「何ヶ月も面会を申し込んでるのに、いまだに親父に会えねぇ! 

緊急事態だってのに、何で誰も取り次がねぇんだ!」

しかしヴァルキュリアたちは微動だにしない。

「トール様でも入室はできません。フリッグ様であろうと同じ。

これは我らが主オーディン陛下の直命です」

「……クソッたれ!」

トールは背を向け、悪態をつきながら廊下を歩き去った。

その途中、煌めく光が差し込む回廊で彼は足を止める。

金色の長髪、白いローブを片肩に掛けただけのほぼ裸の男――

光の神、フレイ。

「おい、フレイ! てめぇ何してやがる!」

「まぁまぁ、トールちゃん。アースガルズは自由な国よぉ?

ボクがどこにいたっていいでしょ~♬」

フレイは艶やかに笑った。

その金髪は太陽のように光り、琥珀色の瞳が柔らかく輝く。

全身がほんのり発光しており、存在そのものが眩しい。

「……勝手にしろ」

トールは通り過ぎようとしたが、フレイがひらひらと手を振った。

「トールちゃん、そんな怖い顔してどうしたのぉ? 

まるで雷雲みたいよ~♬」

「うるせぇ! ヴァルキュリアどもが親父に会わせてくれねぇんだ!

何ヶ月も前からだぞ!

“瞑想中”だの“留守”だの、“面会謝絶”だの――言い訳ばっかりしやがって!」

「あぁ、ロキの件でしょ~?♬」

「……お前も知ってんのか?」

「当然よぉ。だって今、ロキはボクたちの信仰を取り戻そうとしてるんだって~♬

レルの信者たちを追い払うためにね~」

「はぁ!? ふざけんなよ!」

トールが拳を握りしめる。

「ロキだぞ!? いつも“良いことしてるふり”して、最後に裏切る奴だ!

あいつを封印したのは誰だと思ってんだ!

三重の次元壁で閉じ込めたんだぞ!?

オレのハンマーでも壊せねぇのに、どうやって逃げた!?」

「まぁまぁ、トールちゃん。

今はロキより、レルから流れてくる“疫病”の方が問題じゃなぁい?♬」

フレイは涼しい顔で言った。

「最後に聞いた話だと……親父がレルと条約を結んで、

俺たちの領域を明け渡したらしい。

でもおかしいだろ!? 何ヶ月も姿を見せねぇんだぞ!」

「それで陛下に会おうとしてるのね~?」

「当たり前だろ! 

あのレルの連中が俺たちの部族をキリスト教に染め上げたんだ!

今度は北欧まで手を伸ばす気か!?

親父がそんな条約を認めるわけねぇ!」

「ボクもそう思うけどね~。

きっとオーディン陛下にもお考えがあるんでしょ♬

でも、アースガルズを明け渡すなんて真似、ボクたちが許すわけない。

もしレルが介入してきたら――戦うだけよ。

大丈夫、トールちゃん。ボクたちは強いんだから~♬」

トールは腕を組み、まだ苛立ちを隠せない。

「……もう一つ、話さなきゃならねぇことがある」

「なぁに~? また雷雲みたいな顔して。

ボクの可愛いトールちゃんが、そんなに真剣な顔するなんて珍しい~♬」

「……人間どもが“ラグナロク”の話をしてやがる」

「ふぅん……くだらない。

人間が自分の小さな命に意味を持たせたくて作るおとぎ話よ~♬」

フレイは肩をすくめた。

「ボクね、人間が他の神を信じようが世界を探検しようが構わないと思ってるの。

でもさ~、トールちゃんたちが力を誇示して、

レルの領土を襲わせたり、修道院を焼かせたり――

そういうのはちょっと趣味じゃないのよ~♬

ロキが人間を孤立させてるなら、むしろ平和になるかも?

……ま、どっちでもいいけどね~♬」

「はぁ……」

トールはため息をついた。

「確かに、レルの領土への侵攻はいつもろくな結果にならなかったな。

……でも、なんで人間どもは存在しねぇ神を信じるんだ? 本当に分からねぇ」

「さぁね~♬」

フレイは笑いながら立ち上がった。

「じゃ、ボクはフォルクヴァングにいる妹のとこに行ってくるわ~♬」

ひらひらと手を振りながら去っていく。

「チャオ~♬」

トールは呆れたようにその背中を見送った。

「……マジかよ。

誰もロキがまた暴れてるってのに気にもしねぇのか?

あいつはバルドルを殺したんだぞ……」

彼は拳を固く握りしめた。

「親父が黙ってるわけねぇ。

必ず何か考えがあるはずだ……」

雷神の瞳に、嵐より熱い怒りが燃えていた。


「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」

「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」

「とても感謝しています。」


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