第3章 — 火の爪を持つ謎の少女
「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」
広い室内は闇に包まれ、小さな窓からの光芒が差し込むだけだった。部屋はカビと湿気の臭いが充満しており、椅子は壊れかけていた。祭壇の方ではアル=マンスールが十字架を外させ、代わりにアッラーを意味するアラビア文字を掲げさせていた。ペルシャ絨毯が敷かれ、彼らはメッカの方向に向かって礼拝していた。
「貴様がムーア人の長か?」と若者は殺意を滲ませながらゆっくりと近づいた。
「お前は誰だ?」アル=マンスールはガリシア語で問いかけ、恐怖で震えながら床にへたり込んだ。
側近の精鋭が即座に襲いかかったが、まるで稲妻のようにその首だけが宙に舞い、指導者の前で落下した。アル=マンスールは震え上がった。
「憑け!祓え!」と叫び声が上がったが、部屋の女たちは恐怖で動けなくなっていた。
「僕は誰だと?何だと尋ねるのか?」と若者は不吉な高揚感の混じった声で応えた。
「地獄へ行け、このどもんじょ!」と怒鳴る声が返る。若者はその声を嘲るように消え去った。
だが若者がアル=マンスールの喉を剣で切り裂いた瞬間、剣は無効であるかのように空を斬るだけで実体を貫けなかった。剣はまるで光線を切るかのようにアル=マンスールの体を通り抜けてしまう。
若者は幾度も斬りかかったが効果はなく、アル=マンスールはまるで絵画のように動かず、祓魔師の女たちも同様に動かなかった。周囲の色彩は青灰色に変じ、世界からいくつかの色が失われたかのように見えた。
「何だ、お前たちの魔女どもが何をしたんだ?」と若者は叫び、必死に指導者を殺そうと試みたが叶わなかった。
若者が周囲を見渡すと、青灰色の気配が全体を覆い、あらゆるものが停止していた。空中に浮かぶ石、滴るはずの血の一滴までが静止している。
若者は困惑しつつ後ろへゆっくりと下がっていった。すべてはそこに立つ祓魔師たちの仕業に違いなかった。
その時、後ろから女の声が聞こえた。
「何をしているの?誰のためにこの者たちの命を奪ったの?答えなさい!」と、その声――女は苛立ちを帯びた命令口調で言った。
若者は血にまみれた剣を握りしめて女の方へ振り向いた。
そこに立っていたのは、青緑色の長衣で顔の一部を覆った色黒の女だった。ベレベルの女たちの服装に似ていたが、唯一見えるのは美しい琥珀色の瞳で、額に一房の赤銅色の縮れ毛が垂れていた。長衣の下には薄い青の襟のついた上衣と紫のスカート、緑のズボン、赤い靴を履いていた。
彼女は若者が剣で切り開いた扉の端に立っていた。
「答えなさい。あなたは誰?何者?この地は私の管轄よ、分かっているの?」と彼女は苛立ちを滲ませ問い詰める。
「母を殺された。仲間もだ。ここを通すな。魔法を解け、魔女よ」若者は怒りを露わに応えた。
「僕は女を傷つけない。だからあんたも動くんじゃないわ。魔法を解きなさい」彼女はそう告げると、ゆっくりと歩み寄って来た。
「お前の母親だって?何の戯言だ?」と彼女は信じられないという表情で訊ねた。
「私的な話は人間界の外でしてくれ、少年。ここで答えないなら貴様の身体に詰問をするしかない」と彼女は続けた。
若者は嘲るように口許をゆがめた。「今まで血を一滴も流させられたことはない。女にならやられるつもりはない」と。
「うふ、なんて自信家なの、小僧。でも神格のレベルが低すぎるわ。私には敵わない」と彼女は言い、掌を見せた。
すると彼女の爪が猫のように伸び、まるで火のように見えた。若者はそれを見て不安を覚えた。
「最後の忠告よ。誰に仕えているか、誰なのかを言わないなら、体を問い質すしかない」と彼女は脅すように言い、ゆっくりと近づいた。
「もう言っただろう、女と面倒を起こしたくないだけだ」と若者は逆上した様子で言い返した。
彼がそう言い終わる前に、自分の右腕が消えたのに気づいた。女は既に彼の背後に立ち、火のような爪を掲げたままだった。若者の視界は揺らぎ、瞬く間に意識を失った。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」




