第20章 — 密会
「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」
翌晩、スヴェン王子は人目を避けるため、
茶色のマントを頭からかぶり、商人に扮して約束の場所へ向かった。
王子の姿を見抜ける者はいない。
小屋の前には、あの灰色の法衣の男がすでに立っていた。
だがその隣には――
常人とは到底思えぬほど巨大な影が、無言で立っていた。
スヴェンはその巨体を見上げ、息を呑んだ。
「……に、二メートル? いや、それ以上か……?」
彼の瞳に恐怖が宿った。
その様子を見て、法衣の男は穏やかな声で言った。
「ご安心を、王子。申し上げた通り、僕は偉大なるオーディン様の僕。
この者はヨトゥン――巨人族の一人です。」
スヴェンの瞳が見開かれた。
「ヨトゥンだと? ユグドラシルの他界に住まう、あの巨人たちのことか? 本気で言っているのか?」
「この男が人の世――ミズガルズに姿を現したことこそ、
我らが言葉の証、そして神々の恩寵の印にございます。」
法衣の男は平然と答えた。
王子の心臓は怒れる太鼓のように鳴り響いた。
それでも彼は無理に落ち着こうとし、震える手で小屋の扉を押し開けた。
巨人の顔を直視する勇気はなかった。
三人は中に入った。
ヨトゥンは天井に頭がつかえるほどの背丈で、
小屋の戸口をくぐる際、梁を少し砕いてしまった。
中は暗く、湿気とカビの匂いが鼻を刺す。
鼠の鳴き声が響き、月明かりにぼんやりと机と椅子が浮かんでいた。
スヴェンは火を灯せば人目につくと思い、暖炉に火を入れなかった。
「問題ありません。」
法衣の男は静かに言った。
寒さが骨にまで染みた。
スヴェンは歯を鳴らしながら、火を点けたい衝動を抑えた。
だが、男と巨人はまるで寒さを感じていないかのようだった。
「――それで、預言者よ。
僕に王座を授ける“計画”とやらは、どうなっている?」
スヴェンは遠慮なく問い詰めた。
「計画? 我らから差し出すものは、ございません。」
法衣の男は淡々と返した。
「……僕を愚弄しているのか?
それとも命を狙っているのか?」
王子の声が震えた。
男は首を横に振り、低く笑った。
「いいえ、王子。誤解なさらぬように。
我らは偉大なる父オーディン様の僕。
その勝利のために、ただ一つだけお願いがございます。」
「何だ?」
男はヨトゥンに目をやり、二人は無言でうなずき合った。
やがて男は両手を広げ、祈りのように高らかに告げた。
「我々は望む、汝が行く道で見つけるすべてのキリスト教徒と裏切り者を吊るすことを――たとえ彼らを彼らの好む“蛇の穴”に放り込んで処刑することを選ぶとしても。瀕死に近いその肉体を吊るし、偉大なるオーディンに捧げて示さねばならぬのだ」と男は答えた。
スヴェンは困惑した。
あまりに愚かな要求にしか思えなかった。
「処刑の方法など、何の意味がある?」
男は一瞬、黙して俯いた。
その沈黙が、まるで嘲りのように感じられた。
だが何もできぬ。
もし手を上げれば、この巨人に潰されるか――
あるいは昨日の衛兵のように、心臓を止められるか。
恐怖。
王子は二匹の太った猫に囲まれた鼠のように感じた。
「条件はそれだけです。
それを果たせば、スヴェン様に“人ならざる力”を授けましょう。
計画は不要。スヴェン様がヨムスヴァイキングをまとめ、父王に刃を向ければよい。
スヴェン様は強く、聡明で、そして魅力的――あの野蛮な王より、
はるかに王座にふさわしいお方だ。」
スヴェンは沈黙し、考え込んだ。
「……吊るすだけでよいというのか。あまりに胡散臭い。」
しかし、その疑念が寒さを忘れさせた。
代わりに、蜘蛛の巣に捕らわれた蠅のような不安が全身を這い回った。
「人の生け贄こそが、父オーディン様を喜ばせるのです。
知らぬのですか、スヴェン王子。
ラグナロクは近い。
オーディン様がフェンリルの顎に呑まれることを望まぬなら、
その勝利の力を得させねばなりません。」
「お前の父、ハーラル王は愚かにも、
アースガルズに赴く戦士たちを阻もうとしている。
――宇宙が滅びてもよいのですか?」
法衣の男の声は鋭くなった。
スヴェンはその目を見た。
紫がかった赤――怒りと狂気に染まった瞳。
「……すまぬ。何も知らなかった。」
彼は思わずそう口にした。
“すまぬ”――王族として決して吐くことのない言葉を。
しかし男は再び落ち着きを取り戻し、
ヨトゥンは狂気じみた笑みを浮かべた。
「ご安心を、陛下。
スヴェン様はデンマークの王にとどまる者ではありません。
――この反逆こそが、父オーディン様の勝利への鍵となるのです。」
その言葉が、怯えた王子の胸に深く響いた。
「わかった。僕は父の圧政からデンマークを解放し、
偉大なるオーディン様の勝利に貢献しよう。」
その瞬間、スヴェンは幻を見た。
アースガルズの大広間でオーディン様と共に酒を酌み交わし、
エインヘリャルとして戦場を駆ける自分の姿を。
恐怖は消え、熱狂が満ちた。
「そうです、陛下。
オーディン様はスヴェン様にデンマークの王座を授け、
敵を討ち、アースガルズを守る力を与えるでしょう。」
法衣の男は妖しく微笑んだ。
「よかろう。明日からキリスト教徒どもを吊るしてやる。
それでよいのだな?」
スヴェンは興奮に満ちて言った。
「契約は成立です、陛下――
デンマークの王にして、我らが父オーディン様の救い主。」
男は深く一礼した。
隣の巨人は頭を下げず、男がそっと脚を蹴ると、
いやいやながらに首を垂れた。
二人の影は小屋を出て、闇に消えた。
スヴェンは一人残され、
冷気と暗闇の中で立ち尽くした。
胸の内で何かがざわめいた。
扉を開けて外へ駆け出したが――
二人の姿は、どこにもなかった。
「……夢だったのか? この寒さのせいで幻を見たのか?」
彼は呟いた。
だがすぐに唇が歪んだ。
「まあいい。
あの男の言う通りにしてやる。
オーディン様のためでも、ただ憎きキリスト教徒を殺すためでも構わぬ。
どのみち、やる価値はある。」
スヴェンはマントを翻し、
凍てつく夜の中、アーロスの宮殿へと歩き出した。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




