第11章 — 神々の世界
「この物語は歴史と神話をもとにしたファンタジーです。」
「神々の王エルは、かつて“人間の信仰”を武器とする強大な敵と戦ったの」
アンナは語り始めた。
「幸いにも、その敵はずっと昔に倒され、封印されたわ。でも神々の争いは続き、その結果、多くの神と人間が犠牲になったの」
彼女は続けた。
「流れる血に疲れ果てた神々は、ついに平和を望むようになり、人間を“力の家畜”として使うことをやめようと決めたの」
ロドリゴは途中から話を聞き流し始めた。
“きっとこの娘たちは少し狂っているだけだ”と自分に言い聞かせていたが、タニアが彼の腕をつねって注意を促した。
「それでね、エルは“真の神”を崇めない宗教を実験的に作ったの。それをカナンの地に住む小さな民族に授けたの。彼らが、あなたの知るユダヤ人よ」
アンナは語り続けた。
「その後、キリスト教やイスラム教が生まれたの。兄弟愛と謙遜を教え、人間同士の争いをやめさせ、神々の世界にも平和をもたらすためにね」
ロドリゴはもう半分眠っていた。
「もちろん、全ての神々が賛成したわけじゃないわ。北欧の神々や、特にインドの神々は、この“平和計画”に強く反対したの」
アンナは言葉を続けた。
「しかも皮肉なことに、人間に平和をもたらすはずの宗教が、逆に彼らを分裂させ、殺し合いの口実になってしまった。
キリスト教徒がユダヤ人を殺し、イスラム教徒がキリスト教徒を殺す。
わたしたちは介入を禁じられているから、ただ見ていることしかできないの」
アンナがため息をついて座り込むと、ロドリゴは完全に眠っていた。
タニアが彼の頬をつねる。
「ルイ、アンナを退屈させるなんて失礼よ」
「えっ、な、なんでもない!ちゃんと聞いてた!」
ロドリゴは慌てて姿勢を正した。
アンナは少し不満そうに頬をふくらませたが、やがて穏やかに続けた。
「タニアとアンナは、人間を見守る使命を持った女神なの。
わたしたちの役目は、他の神々がこの世界に干渉しないように見張ること」
「私は本来、アイルランドの島を守る担当だったの」
アンナは少し寂しげに言った。
「でも、あの地では今も人々がヴァイキングと争っていて……そこに留まるのはつらいの。だから時々、タニアのところに来るの。助けたいけど、手を出せないのが悲しいの」
彼女の顔には深い悲しみが浮かんでいた。
ロドリゴは無礼にしたくなかったので、眠気をこらえて話を聞いた。
「それに、わたしたちはキリスト教とイスラム教の進行も見守る必要があるの」
タニアが口を挟んだ。
「どちらもエルの平和計画の一部だから。多少の“自由”はあるわ。
戦争に小さく影響を与えたり、人々の夢に天使として現れて導いたりね。
でもそれ以上はできないの」
「アンナも言った通りよ。わたしもアイルランドでキリスト教徒たちを少し助けることができるの。
でも、相手はトールやオーディンみたいな怪物たち。
力が足りなくて……それでも、わたしの人々はよく耐えているわ」
ロドリゴはついに口を開いた。
「ごめん……僕、正直、全然わからない」
「半分寝てたら当然よ」
タニアが冷たく言い放った。
「だいじょうぶ、ルイ」
アンナは優しく微笑んだ。
「今日はここまでにしましょう。
でも最後に、あなたが何者なのかを理解できるように、わたしたちの“階級”を教えてあげるね」
アンナが指を動かすと、空中に黒板のようなものが現れ、光の文字が浮かび上がった。
神々の階級表
1. エル ― 神々の王
2. エロヒム ― エルを護る神々
3. アヌンナキ ― 各神族の主神
4. カテレス ― 高位の神々
5. グリゴリ ― 人間の監視者
6. イギギ ― 中位および下位の神々
7. ネフィリム ― 神と人間の子供(半神)
8. マラキム ― 天使・戦士
9. ベヘモット ― 獣や怪物
10. ルーア ― 低位の精霊
「神々はこのように階級で分けられているの」
アンナが説明した。
「タニアとアンナはグリゴリ、人間の見張り役。
そしてルイ、あなたはおそらく“ネフィル”なの」
「ネフィ……なに?」
ロドリゴは赤面して答えた。
「ごめん……僕、字が読めないんだ」
「気にしなくていいわ」
タニアが言った。
「この時代の人間で読み書きできる者なんてほとんどいないもの」
「大丈夫、アンナが教えてあげる!」
アンナがにっこり笑った。
ロドリゴはからかわれると思っていたが、二人は意外にも優しかった。
「もう一つ大事なことがあるわ」
タニアが机に腰を下ろして言った。
「自分の身を守るために、戦いを学ばなきゃいけないの」
「ヴァイキングやインドの軍勢に味方するマラキムが、この地域をうろついている。
彼らはエルの一神教王国を不安定にしようとしているのよ。
私たちがいつも守ってあげられるわけじゃない。
それに、近いうちに“レル”へ行く必要がある」
「レル?」
ロドリゴが首をかしげた。
「ええ、レル。エルの王宮よ」
タニアが説明した。
「神々の中央政府がある場所で、そこで私たちは指令を受けるの」
「そう、“アナクソの声”からね」
アンナが皮肉っぽく言った。
「“ビッチアナト”の間違いでしょ」
タニアが訂正した。
二人は吹き出した。
ロドリゴは何が面白いのか理解できなかったが、二人の冗談のようだと察した。
「すぐに会えるわ、ルイ」
アンナが笑いながら言った。
「アナトはエルの右腕で、神々の最高司令官なの」
「でも性格は最悪よ」
タニアがぼそりとつぶやいた。
「そうそう、しかも超ビッチ」
アンナも笑いながら付け加えた。
ロドリゴは、神々がまるで年頃の少女のように悪ふざけをしているのを見て、思わず笑ってしまった。
昔、友人たちと冗談を言い合っていた頃を思い出したのだ。
「さて、ルイ。明日から訓練開始よ」
アンナが立ち上がり、彼の肩に手を置いた。
「この発情ライオンに任せたら、五分ももたないからね」
「戦の女神でもないくせに、よく言うわね、このカラス頭」
タニアがすぐに言い返した。
二人の軽口を聞いて、ロドリゴはくすくす笑った。
神々がこんなにも人間らしいとは、信じられない気持ちだった。
それでも、彼の心にはまだ疑念が残っていた。
もし本当に彼女たちの言うことが真実なら、エルとはYHWH、あるいはイエス・キリストなのかもしれない――
そう考えると、二人の女神はむしろミカエルやガブリエルのような天使に思えた。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もぜひお楽しみに。」
「翻訳に間違いがありましたら、お知らせください。」
「とても感謝しています。」




