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81 最終決戦。その十七。

 和行(かずゆき)、ウィン、磨土(まつち)を前に、中央奥に移動した敵が、大きな翼を広げた。そこから灰色の羽根の刃が飛んだ。

 それを誰かが止めることはほぼできなかった。ウィンは風を生み出し押しやろうとしたが、それができたのはほんの一部。磨土も土を防御に使った、固めた上でだ。だが、全部を防げはしなかった。

 刺さりに来ることができた刃に関し、和行は衝撃を和らげようとした。だが刃の数は多く、その全てへ意識は行き渡らなかった。

「ぐ……あ……!」

 三人共かなり負傷した。

 ニヤついた男がまた放った。

 その時。

 彼らの後ろに官三郎、花江、美仁(よしひと)の三人が。

 官三郎は和行、ウィン、磨土を奥の棚と交換し、回避させた。美仁はホースぐるぐると巻いて重ね、盾にし、自分達に当たることを防いだ。

 それから、美仁がホースを消すと、花江が、通路から廃店舗内に入り、棚の中の――ありとあらゆる物を念力で操作し、灰色の翼を広げた男目掛けて放った。それはさながら巨大台風に浮かされ何かに衝突しようとする以上の速さの物体。

 奥の棚と交換された磨土は土を操るのに一役買った植木鉢が近くにあることに気付き、その土を放った。

「ぐあっ」

 男はまた目をやられた。

 ウィンも風を。

 そして全ての衝撃に()いて、和行が増大させる。

 男は悲鳴も上げずに倒れた。

「おい、お前ら……!」和行が、あとから来た三人に向けて。「マジでナイスだこの野郎」

「ま、要らなかったかもしれないけどね」

 と花江が言うと、ウィンが、

「そんな事ないよ。よりいい形で勝てればそれに越した事は無い。でも……どうでなきゃいけないとかそんな事もない。俺達は戦えた。それで十分」

「話は終わりだ。時沢(ときさわ)を」

「ああ」

 和行に、官三郎がそう言って、腕時計型の連絡装置に天力(てんりき)を込めた。そこへ時沢ルイが現れる。

 奥の男と右少々手前の棚を背にして倒れている男、二人を運び出す。と――

「俺達三人はもう交代した方がいい」

 とウィンが言った。

 和行、ウィン、磨土の代わりに、キン、園彦、シャダが入った。

「俺も」

 そう言った美仁(よしひと)不出白籠(ださずのしろかご)の中に居るための白いベストを脱いでいる時に、

「中に葉っぱはあったか? 木は望み薄だけど」

 と()いた。

「通路にはあるぞ、店の中にあることも……鉢がな」

 それを聞いた大志(だいし)が入った。

 キン、園彦、シャダの三人は、二階を中央へ向かい、官三郎、花江、大志の三人は、西階段へ向かい、一階へ下りることを選んだ。



 一階中央、フードコートより北、トイレの前の広場では、自己治癒を行なった者が居た。あえてその圧を隠さなかった。影神(かげがみ)代理の弟、その名もジェゲンズ。

 そこに、現れた者が居た。

 ララヒャトレフィ。

 娘の活躍を喜ぶと同時に心配してもいたが、信頼することにし――地図上では右下の一階も見て行こうとしていた。そこから中央へ通路を歩きながら目を向けていったが、敵は中々いなかった。そこで、彼女は、大きな力を感じた奥へ向かったのだった。

 その男は強そうだった。影天力(えいてんりき)の圧だけではなく、かなりの野性的な圧も感じる。眼光や堂々たる立ち姿。性格さえよければ良き神にでもなれただろうと、妖神(あやがみ)ララヒャトレフィは(なげ)いた。

 彼女は、自分から仕掛けてみることにした。

 空気を蹴る。素早い左足刀からの青い光弾。間を挟ませない。

 ジェゲンズは彼女の左前に瞬間移動した。

(――っ!)

 感覚的理解のあとに彼女がしたのは、右への遠退()き。

 そして、着地の距離感に違和感があると思ったその瞬間、その辺りの足元がなぜか一斉に爆発。

「が――っ!」

 煙が起き、それがすぐに引いていく。

 ララヒャトレフィはそこで、割れた石に念じ、能力『認識ずらし』を行なった。

 右から回り込もうとする。石に見えるまま。相手はララヒャトレフィを石だと思い込んでいる。

 だがその時、彼女の走る地面がまた爆発した!

「う――っ!」

(なぜ!)

 ジェゲンズは仕掛けた罠に敵が掛かればいいと思っている。そして、もし自分が掛かりそうなら透明地雷を消せばいいと思っている。だが、何も知らない者からすれば、動きを読まれているからかと思いたくなってしまう。それは恐怖さえ生む。

 だが――

(足元に違和感があった、ならこうするだけ)

 ジェゲンズが何か設置したと考えた彼女は、その高さより少し上までの結界を自分の足元に必ず設置することにした。

 彼女は走った。彼女がそれを恐れずできることにジェゲンズは驚いていた。そしてそれは、『認識ずらし』が解けているか、()しくはその意味が無いという事でもあった。ララヒャトレフィはもうそれを使わないことにした。視線が彼女の動きを正確に捉えていそうに、彼女の目には映った。能力を誰かに封印されている事さえ考えた。

 そして、ジェゲンズは納得してもいた。

(なるほど結界か、ならこうしよう)

 考えたのは彼もだった。透明地雷の上にある結界の上に透明地雷。それだけのこと。それも右の方へ移動しながら。

 それが爆発。

「ぐぁ……っあ……っ!」

 ララヒャトレフィは辛うじて吹き飛びながら蹴りを空振(からぶ)らせ光弾を放った。吹き飛ばされた先で受け身。後転して立つ。

 相手も光弾を()ける必要があり、更に右前に移動していた。互いに身体強化している。

 北の大階段の前にジェゲンズ。ララヒャトレフィは大階段からはかなり右前の所。

(矢よ来たれ!)

 大量の青い矢。青一色の。そしてララヒャトレフィはその場に結界を張った。ジェゲンズを、ここで作れる最大の空間から出さない、その覚悟をした。

 矢が向かう。嵐の中の横雨(よこさめ)の如く。

 命中するという時にジェゲンズが瞬間移動――彼女の前に。

「――!」

 咄嗟(とっさ)に矢を放った。

 だが、避けるためだけにそんな移動をしたジェゲンズは、すぐにララヒャトレフィの左――かなりの距離の所にまた瞬間移動するだけだった。そこで彼が手を上げた。

 その瞬間、ぞっとしたララヒャトレフィは、前へ跳んだ。

 居た位置には地面から大きな刃が生えた。

「理解したわ、これで全てではないでしょうけれどね」

「何?」

(空間接続)

 彼女は自分の横に空間接続面を作った。左右に一つずつ。途(てつ)もなく高さのある接続面をだ。

「鋭き磐石(ばんじゃく)、青く()て無く光りて刺せ」

 ジェゲンズには聞こえない、誰にも届かせる気はない声で彼女が唱えると、大き過ぎるほどの二つの青い光刃が、接続面に入っていった。

「何!」

 そして彼女は飛び上がった。瞬間、足を切る罠のように、青い光刃が水平に動いた。光刃は結界に当たって消滅したが、目的は達成――ジェゲンズは避けるために跳躍を余儀なくされた。

 ララヒャトレフィは空間接続した面へと下り、接続先に指定したジェゲンズの左に現れた。そこに罠は無かった。というより壊されていた。足元を水平に()いだ青い大きな光刃がその破壊をしていたからだ。

 だから無事に。そして――

 身体強化をした足での回し蹴りを背に。ジェゲンズは前へ蹴り飛ばされた。

 (さら)に宙返り。その際の脚で青い光弾を二連発。

 ジェゲンズは、一発は喰らったが、一発は瞬間移動で避けた。ララヒャトレフィから見てかなり左、かなり前方に。

「矢よ来たれ!」

 彼女は、狙うのではなく、結界で閉じたその空間のあらゆる場所そのものを攻撃した。

 そしてジェゲンスはそれを結界で防御。

 ララヒャトレフィは矢を長く長く打ち続けた。

(いつまで打つ気だ!)

 ジェゲンズは結界を解けずにいる。

 その矢が、()んだ。

 瞬間、ジェゲンズが結界を解いた。

 そこへ矢が刺さった。一本だけ。だがとても深く。

 ジェゲンズは胸元を押さえながら――

 微笑(ほほえ)んだ。

 ララヒャトレフィは倒れた。

 彼が胸元を押さえるための動きそのものが、大きな刃を生むための動作でもあった。

 倒れたララヒャトレフィは、結界が解けるのを感じた。だが最後の力を振り絞った。

「――」

「あ? 何だって?」

 ララヒャトレフィに近付き、大階段の前に立ってそう言ったジェゲンズの後ろから、巨大な青い光刃が、彼の背に、幾つも突き刺さった。それは頭にも。

「まさかお前が……勝つワケ……」

 ジェゲンズはそう言って倒れる予兆を見せた。もう目は白目を向いている。

 血を流し死へと近付くララヒャトレフィは、思っていた。

(影天界の犯罪者、それも強者を、倒せた、私が、皆のために――。みんな……タタロニアンフィ……)

 涙をすら流していた。

 そして、ジェゲンズが倒れた瞬間、大爆発が起こり――二人は――……もう、元の形をしていない。そして辺りは、偶然だが、一旦、静かになった。



 ルアンダエラは探していた。妖( )《ヴルエンカ》を渡す相手を。そして女性鬼人(きじん)向けブランド店フロアのエジュ22という所に、ケーヴェルの言った通り敵を見付けた。

(勧めたくらいだから――)

 ルアンダエラもその意図には気付いていた。やはり味方も居た。そしてそこには、あの避難施設の中で見たキレンという子が。通路と廃店舗内を隔てる窓から見える位置――棚の間で、倒れていたが、今、背から硝子を抜いて起き上がった。

(あの子だ。ハルキっていう子の。そうか、だからケーヴェルは。ん? でも何かがこの辺りに……ほかにも居る?)

 ルアンダエラは、誰も知らないもう一つの真実に近付きつつあった。

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