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79 最終決戦。その十五。

 北から二つ目の東西に延びた通路を、和行(かずゆき)とウィンと磨土(まつち)は、中側から西に向かっていた。

 左側の店、手前から二番目の、つの印という店に、ウィンは今、(かす)かに影天力(えいてんりき)を感じた。磨土は土で占うように能力を使った――その土もそこだと言っている。

 その店に入った。

「警戒――」

 和行が言おうとした時――まあそれは言ったようなものだったが――彼らの背後に誰かが現れた。その何者かが和行の背中を足の底で蹴った。足刀という感じでもなく。

 和行は痛みを覚えた直後に衝撃を和らげた。

 二人よりも少々その廃店舗の中央に近付いた――その辺りで和行は組み手争いをするような姿勢を取った。

 ウィンも遅れて後ろを振り向いた。敵を見、距離を取る。和行以上に()り足の動作も含めて退(しりぞ)くと、その辺りにあった細くて硬い木のパイプを手に取った。刀のように構える。

 磨土も、ウィンより遅れたが振り向いて後ろに下がった。

 そこで、ウィンを、左からの衝撃が襲った。

(もう一人……っ!)

 ウィンは上手く受け身を取れずにパイプのあった棚に衝突した。棚の手頃な高さの横板に手を置き、姿勢を直す。そして衝撃を加えた何かの方を向く。

 磨土は最初の向きに戻り、それから右を向いて若干(じゃっかん)下がり、両方を視界に捉え――

(ふんんっ!)

 と、二人の敵の()()()()した。敵二人は、今の服の状態で、鉄の何かを着たように動き辛くなる。

 そこへウィンも――

 渦巻く二つの風。敵其々(それぞれ)に大嵐のように送った。

 更にはその風を受けた敵に掛かった衝撃を、和行が倍増させる。其々、何百倍にも。

「う、お、あ……!」

 ウィンから見て左の敵が吹き飛ぶ。それはもう何かに衝突するまで停止を許さない風だった。

 だが、和行を蹴った方の敵は、やはり瞬時に移動できるらしく、目の前から消え風から逃れた。それはウィンにとって予想の範(ちゅう)だった。

 とりあえず一人は倒れた。

 消えた方は――

 ウィンから見て左から急速に磨土(まつち)に近付くのが見えた。

 ウィンは面打ちの動きを見せ、木のパイプを風と共に放った。軌道が重なり、男はそれを受けた。

 男は左前方に吹き飛んだが、なぜか空中から消えた。

 そして消えた男の方を向いている和行の後ろに現れた。

 和行に裏拳が。流石(さすが)に、認識できずに脳にダメージが行き過ぎれば、彼も気を失うというものだった。和行は倒れた。

「くっ……!」

 磨土は奥の絶妙に隠れた所に店内の彩りとして植木鉢が置かれていることに気付いた。その土を操り手前に持って来た。ひっそりとだ。そしてそれを――男の目に放った。

「ふっふぐああ!」

 いい格好をしようとした敵の目潰しになる。

 そしてウィンがまた大突風を。今度は一人に対して――それ(ゆえ)に、さっきよりも強く。

 男は猛烈な速度で吹き飛ばされ、そして、壁に(はりつけ)にされたようになり、それから床に落下し、動かなくなった。

 磨土が飛ばした土に()る目潰しが効いた。なぜなら、あの男の瞬間的移動は視野内へというものだったからだ。見えていなければ転移できない。

 だが男にはまだ意識があった。起き上がった男は、目の痛みに耐えながら、今度は容(しゃ)なく磨土の目の前に転移し、磨土の腹を殴った。

「あぐっ!」

 磨土は倒れながらも、念じて男の服を硬化させ、姿勢を変えられなくした。

 だがそれは視野内の別のどこかに転移してしまえば解くことができた。

 男はウィンの後ろ――やや上空に瞬時の移動をし、着地後跳ね飛ぶようにしてウィンの背を激しく蹴った。

「あ……! が……っ!」

 ウィンはまだ何とか立っているが、磨土は立てもしない。

 そこで、和行が立ち上がった。彼は、実際には、(すんで)の所で衝撃を緩和し始めていた。だがそれは足りなかった。そんな彼が今、男の方を向いて立ち、完全に復帰。

 男が二人の視界から消えた。

 この廃店舗の中央辺りに男は現れた。そこからウィンに向かって飛び出し右拳を繰り出した。

 だが、それがウィンに何のダメージも(もたら)さない。和行の衝撃力操作の御蔭(おかげ)

「何!」

 その時には磨土が何とか立ち上がった。

 男は、今度は磨土の背後に現れ、その背を殴ろうとした。和行はそれを視認、それができればこちらのものだった。

 磨土は、喰らっても何ともなかった。

「何だと!」

 そう言うと、男は、中央奥に転移し、灰色の翼を出し、広げた。

「これならどうだ」



 エジュ22の廃店舗に入ったキレンと華子とうるえは、すぐに近くの棚の裏が危険かどうかを確認し、敵が居ないと知ると、まずはそこに隠れた。

 数秒後、左奥の棚の向こうから右奥の棚の向こうまで動く何かを三人の目が捉えた。女だった。

 ふと、後ろから衝撃が。

 キレンが前に投げ出されるようにして倒れた。その背に硝子(ガラス)が。刺さっている。

 キレン以外の二人は後ろを振り向いた。そちらからかなり大きな硝子が襲い掛かって来た。

 うるえは空気の壁を前に建てた。そこで硝子は弾かれる。

「キレン!」

「大丈……夫……」

 そんな訳が無さそうだと知り、華子はうんざりした。

 華子は遠くに無からバケツを生み出した。それもかなりの数。それが一斉に爆発する。

 一瞬、華子は、相手の悲鳴を聞いた気がした。建物全体が揺れた気もしながら、華子は駆け出した。

(右に移動したのは見た! こっち!)

 右へ向き、また走った。

 そちらにあったカウンターの陰に、女を発見。

「あなたね――!」

 華子がバケツを放った。

 そしてカウンターの外側に伏せ、爆破。

 だがその瞬間、女が壁を走り、天井も走り、華子のすぐ前に着地した。彼女の腕が華子の(のど)を押すようにして、華子をすぐそこの棚へ叩き込んだ。

「か――はっ――」

 うるえは棚の隙間から様子を(うかが)おうとした。それはその瞬間のこと。そしてうるえは、だからこそ――

(この――!)

 うるえは空気の弾丸を放った。今までで一番の大きさと速さの空気の塊。

「ふ――っ!」

 女はそれを喰らうと衝撃で息を吐き出し、カウンターに押しやられた。その衝撃でカウンターの上に、彼女は自分の上半身を載せた。古い携帯電話を完全に開くかの如く立つと、振り向いたが、その女にはうるえの次弾が向かっていた。

 高速で動く大きなボールを顔に受けたような痛みを覚えてから、女は、

()い加減にしろ!」

 と、硝子を向かわせようとした。

 だがそれはできなかった。女が操ろうとした硝子(ガラス)は、うるえがまだ生じさせている空気の壁の外側にある。

 その時、女の視界は(さえぎ)られた。そうさせたのは――バケツ。

「……かげ……にす……なたよ」

 立ち上がり離れながら華子は言ったが、全くと言っていいほど(しゃべ)れていなかった。好い加減にするのはあなたよ――言いたかったのは、そのたった数単語。

 華子は奥の通路を棚の陰に隠れる形で少々その場から離れ、屈んだ。うるえはと言うと棚の裏に居るキレンを気に掛け、棚の前と自分の前とに空気の壁を置き、自分達を守った。

 バケツを被らされた瞬間、女も伏せ、更に、華子に近付いた。バケツはかなり上空。そこで大爆発。

「くっ――!」

 全員がそんな声を上げた。そして建物全体が揺れたように感じられた。

 その時、キレンは思っていた。

(来ると(わか)っていたら防げたのに)

 そして、触れた者を眠らせるルアーを無から生み出し、機を(うかが)った。

 女は、そこまで被害(ダメージ)を受けていない。彼女の傷が治るところをうるえは見た。治癒か修復か復元か――

 そんな時、華子は、振り向き掛けの腹を横から蹴られ、それだけではあり得ない距離を押し転がされた。もう店の左奥の角。

「ハッ、寝返りたかったら今の内よ」

「だ、誰が……!」

 喉の調子が急激に戻ってきた。

 そんな時、自分の背の傷が塞がろうとしているのを、キレンは感じた。背に刺さった硝子を退()ける。より治っていく。キレンは温かさを感じた。何度か感じた温もり。だからキレンは立ちながら、女の方へ眠らせるルアーを向かわせながら、思った。

(ハルちゃん……っ。勝とう。生きて出よう、生きて帰ろう……っ)



 その頃ではないが――官三郎達が幻を見ている間にだが――かなりの距離を移動している者がいた。

 ガサナウベル。

 彼は幻を見ている者達のことを認識できなかった。そこに結界があったからだ。

 潜むのが巧みな敵も居る中で、彼は、北の大階段からすぐの所に居た。通路を東に行こうとする。

 左手には手前からオーガハット、鬼人服店『鬼衣(おにごろも)』、タオル店、ミミミオガグッズ店、文具『遥角(はるかく)』が入っている。そのうち鬼衣に影天力(えいてんりき)を微かに感じ、ガサナウベルは入った。

(すぐそこはオロクガネアか。鬼力(きりき)が弱々しい……くそっ、ここからは更に地獄か)

 入って数歩で、横の景色が分断されたのが判った。

(接続面!)

 その丁度(ちょうど)真ん中に居る。察知したガサナウベルは奥へと跳び退()いた。

 そこに接続先の面が無いことを確かめ、(つい)でに辺りに目をやる。

(どこだ、左側か?)

 そちらへジリジリと歩いた。

 すると。

 ガサナウベルは、上から降った何かを全身に浴びた。そして彼はその臭いの特徴に気付いた。

(油――!)

 瞬間的に対象すり替えを行ない、彼は、すぐそこのマネキンとそれに巻き付いた衣が油(まみ)れになったことにした。いつもの状態に戻る。

 そこへ前方の棚の陰から電流が走った。ガサナウベルは後方へ一旦引いた。電流は彼のどこにも当たらず、前方の地面に火花を生んだ。そしてその辺りとマネキンの衣服に引火――

(くっ! なるほどな)

 まだ危機。二次的な現象はすり替えできない。相手の意図で選ばれなければならない。

 ガサナウベルは最高の身体強化状態で飛び掛かった。油を()き散らされる前にと。

 入口から見て右奥の壁を蹴りターン。そこに敵を発見。男。

 敵も突撃してきた。彼も身体強化済みか。

 拳の打ち合い。蹴りも。

 一旦離れるとガサナウベルは(てのひら)を突き出した。その形の衝撃波が敵を襲う。

 だがそこへ電流。

 ガサナウベルは相手と自分とを交換した。位置交換。相手が(しび)れた。ガサナウベルは跳躍し自分の放った衝撃波を()けた。

 天井を蹴り、地に戻って相手を向くと、また掌型衝撃波。

 敵は吹き飛んだが、壁に当たる前に消えた。空間の接続面が見えたからどこかへ移動している。

 ガサナウベルは、入口付近へ急いでみた。そこに居た。

 ただ、向かった瞬間、ガサナウベルはまた油塗れになった。敵が待ち構えてカーテンのように張っていた、そんな浮いた油に自ら突進し、突き抜けていたのだった。彼に付着していない油だけが消え――

 目の前で何かが光った。瞬間、ガサナウベルはやはり相手と自分の位置を交換。

「ぐ!」

 男の声。痺れた、そこへ――振り向き様に――掌型の衝撃波。

 だが男は跳び上がっており、既にそこに居なかった。そして上から電流。

 (つい)にガサナウベルは喰らってしまった。ただ、自分が喰らったから、

(すり替えすり替えすり替えっ!)

 彼は何度も念じた。すると、入口の硝子戸の金具へと、電流の線が生まれた。彼――ガサナウベルの受けた()所からは、火花は出ていない。

 最初からではないが――

 ほぼ最初から()()()()()()()()()()()()()()()恐らくできた。

 電流の熱だけでも燃える可能性はあったが、自分が燃えていない。

 ガサナウベルは、そう知ると、すぐさま跳んだ男に掌を向け、衝撃波を放った。

 今度こそ()たった。棚の上を転がり敵は棚の上で着地。ガサナウベルも近くの棚に乗り、そんな敵を視認。

 その時だ。

 巨大な白い結晶が猛烈な速さで飛んで来た。ガサナウベルは咄嗟(とっさ)に右に跳ねて避けた。二つ右隣の棚の上に着地。男を見やる。

 男は立ち上がっていた。その瞬間、ガサナウベルの見ている景色が変わる。空間接続の面を頬辺りまで上から被せられた。このまま解除されたら――そしてこれは対象すり替えできない――! それ以前に脳をやられる――!

 ゾッとしながらガサナウベルはしゃがんだ。そして跳び掛かった。

 同じ棚の上。奥の男と手前のガサナウベル。

 ガサナウベルが右掌を差し出し、そこから衝撃波を放った。相手はそれを予想していたようにしゃがんで避けた。近付き、低い姿勢での右後ろ回し蹴りの要領で、ガサナウベルの脚を刈りに来た。

 ガサナウベルも咄嗟(とっさ)に腰の位置をほぼ変えないように下半身だけ浮かせて避けた。そして右足刀。彼は空間接続で男の背後に着地すると、その接続を切り、掌型の衝撃波を放った。

 だが、その接続から勘付き(すで)に振り向いていた男は、それをジャンプで避けた。

 そうした男は、ガサナウベルの背後、別の奥の棚の上に着地。そして振り向いた。ガサナウベルも振り向く。

影神(かげがみ)代理の兄弟以外に、こんな奴がいたとは)

 二人は静かに構え合った。そして。

 男が視線を横にやった。着物――鬼人界(きじんかい)にて鬼衣(おにごろも)と呼ばれている物が、棚の中に(たた)まれて存在しているが、それが一つ、白い結晶と化した。それがガサナウベルに向かって弾けるように動き出した――!

(な――っ!)

 ()()るように避ける。その勢いで後ろへ跳ねると、ガサナウベルは後ろの壁を蹴ることで、逆に男に近付いた。掌を差し出したその時、攻撃する振りをして――空間接続。男の後ろへ。そこから掌型の衝撃波を放った。

 ドンッ――と、男が吹き飛び、ガサナウベルが居た棚の上の位置まで転がった。立ち上がる。

「じゃあもう、二つだ」

 ガサナウベルはそう言うと、自分の左右どちらにも空間接続面を作った。その接続先を相手のすぐ前に両方とも生じさせている。男の前方、左右から狙う。ただ角度は微妙に違う。そこへ衝撃波。左右どちらの掌でも。下がっても()たる。

「何!」

 男は冷静に分析し上に避けた。

 だが接続先を上へずらすだけでいい。そこからまた。左右からの。今度は避けられない。

「ふう」

 男は吹き飛んでいた。壁に当たり、地に落ち、動かない。

 そこへ近付き、手錠を掛けようとしたその時。

「長引いてよかったよ」

「何?」

 ガサナウベルは寒気を覚えた。急いでもう一発放った。男は弾け飛んだ。

 男は、入口から見て左奥の壁まで飛ばされていた。そして、そこで、動かない。

 その現場を訪れた者が居たら、その者は、誰かが彼を倒したと思うだろう。

 ガサナウベルの居た所には、一辺五十センチメートルほどの大きな正六面体の白い結晶が、(ただ)一つ現れていた。代わりに――ガサナウベルは、居なくなった。そこのどこにも、もう居ない。

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