77 最終決戦。その十三。
前から人が来ている。鬼神オロクガネア。この廃モールを戦場として提供した人物。
彼女は味方。信じていいと考えた官三郎達は、広い所を南へ歩いて行きながら、妙に力の圧を感じた玩具店の廃店舗トイオーガへと西から入った。
オロクガネアは、前方の少年達がどこかへ歩いていくのを見てから、自分もと、辺りの気配を探った。そして歩いて行きながら、ほんの僅かに影天力を感じ取った。漢の鞄という廃店舗。北口からそこへ入った。
左の硝子の壁の向こうに通路が見える。そちらから見える位置には誰も居ない。
右へ歩き、棚の陰から覗くと、奥に、悠然と座っている一人の男を発見した。
「お――」
オロクガネアが話し掛けようとした時、男は手を上へ上げた。
恐怖を覚え、空中へと走りながら足元や後ろを斜めに空間接続。何か下から来たかもしれない物を遠くへやった、まあそれもこの店舗内ではあるが。
ともあれオロクガネアは空中を走り続け、男に向け、
(風打!)
左手の方を差し出した。勢いよく突き抜けようとする程の突風が起こり、男は後ろの壁まで吹き飛ばされた。だが彼も壁に足を突いてどこかへと跳ねて動くことができそうな姿勢になった。
そこへオロクガネアは右手の宝刀《バルソグナ》を振り闇色の刃を放った。
男が跳び退いた壁に刃は突き立ち、そこが爆発。
「ちっ!」
舌打ちしてしまったのはオロクガネアだった。男を追う。
降り立った所が爆発した。
「が――は……っ!」
オロクガネアは、棚に、背を、いつの間にか預けている。刀だけは手放さなかった。
男は右手に居る。
「ふん!」
もう一度刀を振り黒い刃を放ったが、男は軽々避けた。
「おおあ!」
そこへ立ち上がり向かう。だが男が消えた。その瞬間、またオロクガネアの足元が爆発した。
「――っ!」
近くの硝子の壁が割れていた。より廃モールらしくなる。そのすぐ外の通路に、オロクガネアは爆発によって投げ出されていた。立ち上がりながら――
(手強い! これ程とは!)
と、中へ戻った。そこへ、男が急接近。
オロクガネアの右手首を掴み、右拳の三連打。彼女は左腕で防ぎっ放し。《ヴルエンカ》の刃を彼女が立てると、男は右拳をピタリと止め、後ろに下がった。
「大したこと無くないか。死ぬ前にハルキヴィエルを呼んでみろ」
「嫌だね」
オロクガネアはそう言って、二回刀を振った。二本の黒い刃が飛ぶ。
それがオロクガネアの背に刺さった。
「何!」
恐らく空間接続――と思った所で爆発。今度は衝撃緩和を彼女は使った。だが自分の背とそのダメージに気を取られ、前から単純に一打貰ってしまった。
「ぐっ」
と下がった所に、何かがあるのが分かった。透明な――機械のような物が足の下に。回避すべきと力を入れたが遅かった。爆発。
「あああ!」
また通路に投げ出された。かなり体が傷付いた。治癒を念じながら中へ戻る。
相手の行動が速い。ならばと――全力で身体強化。その状態で向かう。
今は敵がどこかに隠れていて見えない。左に行きそこから奥へ行った所で右に見付けた。男へ、
(風打!)
オロクガネアは見えない攻撃を放つ作戦に出た。功を奏したのか男は吹き飛ばされ壁に当たった。
空間接続で彼の前へ。そこの足元になら何もないだろうと踏んだ。吹き飛べば男も只では済まないからだ。だが大爆発した。男は結界を張っていた。
オロクガネアは数歩後ろに吹き飛んでいて、そして倒れていた。
「くっ……」
そこへ、
「あぐっ」
刃が――大きな刃が地面から立った。オロクガネアの腹を切り裂き、天井まで伸びる刃。それが消える。彼女の腹から血が大量に。
だがオロクガネアも治癒を使う。かなりの回復を見せ、そして立ち上がり、宝刀《バルソグナ》を四回振った。そして構え直すために最後に引き戻す時も――黒い刃が飛んだ、計五本。
空間接続でタイミングをずらす。その上で方向も。二本は男の前から。三本は男の右から。だが男は無傷。頑丈な結界がそこにはある。
そのまま戦わない気かと思いきや、男が跳び出してきた。刀を振った。だがもう居なかった。
ゾクリとしながらオロクガネアは振り向いた。そこに男。
そこから、男は放った――
薄灰色の巨大光弾。それも凄まじい速度の巨大な弾。棚など破壊しながら今まさに彼女を破壊すべく彼女に触れようとしている――巨光の弾丸。
「――」
オロクガネアは……それを避けられないと思い――そして――
「反響!」
衝撃反響。自分から後ろの側が喰らう衝撃を、来た方向へと返した。
「うお!」
と言ったのは男だった。そこへ全力で回り込み、空間接続で背後に出、そして接続を切り全てを乗せ――
ただ刀を叩き付ける。今度は宝刀《バルソグナ》からの闇色の刃ではなくそれそのもので。
一瞬のことだった。だが男は避けた。そこに居なかった。半分ほど振り返っただけで気配に気付き、瞬間移動で彼女の後ろに。
この店舗の両方の入口から最も遠い角に男は移動している。そしてオロクガネアはそれに気付くと、
「おおおあああっ!」
今まで以上の力を込めて男に近付くと見せ掛け、空間接続。男を胴で切断してしまってでも止める。もうそう思うしかない段階だった。
だが男は跳ね飛んで危機を脱した。
その、男が居る場所は、オロクガネアの接続した先。意識しない訳がない――彼女が振り返り――そうしつつの――《バルソグナ》からの黒い刃を、そこへ。
だがそれも男は瞬間移動で避けた。
振り返ったオロクガネアの左の方に男が居る。またあの結界を張っていた辺り。
全力で突進しながら、前に警戒させ――
オロクガネアは、空間接続し、左から飛び出て殴り掛かった。だが男はまたも消えた。
そしてそこで、大爆発。さっきまで以上の。
「あっが――! ぐ……っ!」
北から入った場合すぐ右手にある角、その辺りに吹き飛ばされていた。
これらの爆発は常に突然で、衝撃緩和ができなかった。彼女はダメージを蓄積していく。
少し歩いた所で右を向くと男が居た、壁際に立っている。
「やってやる」
とオロクガネアは宝刀《バルソグナ》を縦に振り、構え直した。――という振りをした。その瞬間黒い刃を放っていた。そしてその先を空間接続していた。
向かって立っている男から見て右から、男へとそれが飛んでいく。
そしてそれが――今度は中たった! 刺さったことによる傷も生まれた、そこへ大爆発。
(よし!)
ほんの数秒後に、吹き飛んだ男が、彼女の目の前に現れた。渾身の掌底だったのか、それを喰らったオロクガネアは意外にも壁に押しやられてしまった。そこで身動きがなぜかできなくなる。左右と前に結界が生じている。
オロクガネアは上に跳び、そこにも結界があると気付き足を持ち上げ、空間接続先に落下する形でその危機から脱した。
東の出入口付近で姿勢を整え店内を向く。そこに居ては危ないと思い、彼女は左のカウンター付近から時計回りに店を回って男を探した、棚の陰に隠れながらの移動を意識しつつ。
二つ目の棚から顔を出してすぐ見付けた。奥に男。オロクガネアはその瞬間、右手の空間を男の右手の空間と接続し、《バルソグナ》で斬ろうとした。縦に振るだけでいい。そしてその時――
男は奥から数歩前に、悪魔的な瞬間移動。
オロクガネアは寒気を覚えた。その瞬間――
彼女は浮いた。正確には大きな刃が生まれそれに貫かれるように突き上げられた。
「が……が……かは……」
そしてその刃が消え、落下。その瞬間、床の透明な何かに触れ、彼女の足元は大爆発を起こした。
息も絶え絶えのまま、後方へ大きく吹き飛んだ。そこへ巨大光弾が。
(すまない……皆……)
オロクガネアは、刃による傷を確かにある程度は治癒した。だが、彼女に、余力は、もう殆ど残っていなかった。




