70 最終決戦のための。恵力学園一年五組と協力者。
食堂に集まった中で、磨土の質問に対して考えを最初に声にしたのは、シャダだった。
「あのね、もしかしたらと思ったんだけど……私達の安否を考えて、もう行っちゃったのかも――?」
「え」
そこにはベージエラも居た。彼女はただ驚くことしかできなかった。
「そうだね」キレンが言った。「ハルちゃんは、そういうことをして、私達をこれ以上の戦いから遠ざけたり……そういうコトをする人かも」
「あいつらしいっちゃあいつらしいけど。はあ……」
そう言って硝介が、だったら自分達はどうするのかと悩むと――
「場」とベージエラが言おうとしたが、
「場――場所解かる?」
と、同時に言い始めて言い切ったのは木江良うるえだった。
そこで声を上げたのは、アスレアだった。
「ギガラグガラ山の廃モールって言ってた」
アスレアは、皆の注目を浴びると、背が低いからか少々離れてから、皆に向けて。
「私、闇界から調査で行ったことがあるの。ギガラグガラ山にある廃墟になったショッピングモールって言ったら、トーナーモールしか無い。自然災害……洪水に鬼喰の出現が重なって客足が遠退いて、商品がまだ残ってる廃モール……だから、それを利用される可能性もあって危険よ。まあこちらが利用できるとも言えはするんだけど」
「でもそんな風だって知ってるだけじゃ……。行けるの? 行き方は?」
と、雷が訊くと、アスレアは、
「私、黒い箱に依る転移能力を持ってる。最近身に着けたんだけど。それでなら直接行ける」
と。すると立山太陽が、
「よしゃ! 行こうぜ! 早よ!」
と急かした。
そんな時、施設に居た元暗殺者達……脅されてやらされていた等の数人が、黒い宝石の首飾りを手に、彼らに近付いた。
「話、聞きましたよ。これは――代被封印の首飾りと言って、身代わりに封印されたことにする――封印能力の効果を減らすという物です、念のため持っていた方がいいかと」
それは二十数人分はある、箱の中にぎっしりとだ。そんな箱を持っている者が隣に居た。
「ベージエラから話は聞いています」
と、急に現れた人物もいた。ブラウネラだ。
「私も行きますよ。戦場では何が起こるか分からない。強い者が強い者と戦うために――……私達にもできることはある」
そこに居た全ての者が、肯いた。
建物の外に出た。そこに、アスレアが黒い箱を生み出す。
そしてすぐに、その黒い箱の両サイドの板が上に開いた。
「さあ、どっちからでもいいから入って」
向かった――その先は、明るかった。拓けた所。随分と煉瓦敷きの広大な土地がある。
白い籠を見て、ブラウネラが声を――
「あれは不出白籠。ということは……」
彼女の目に、巨大な籠の前に置かれた白いベストが映った。
「あれを着なければ中には入れません」
「入った者は覚悟しろよってことだな」
和行がそう言い、ブラウネラとベージエラが肯いた。
「あれは何なんだ、関係してそうだけど」
と訊いたのはウィンだった。
「さあ……」ベージエラが首を傾げた。「何だろ」
それは白い壁で隔てられた場所だった。中は何なのか。
花江は空中に浮き、上からも見た。
「天井も、白く塗ったコンクリートみたいなのが蓋してる」
何だろうと誰もが思う中、アスレアが中と箱を繋げた。それができたと信じてまず彼女が中に入った。そして出てくると。
「入って」
そこに、恵力学園一年五組の晴己以外と担任ベージエラ、タタロニアンフィ、オフィアーナ、ブラウネラも入る。そこにはルアンダエラも入った。彼女は黒い箱を通る時にも、自分も行かなければと居た堪れなさを感じていたのだった。
そして、封印対策の首飾りの箱を、見状嘉烈が持っていた。元暗殺者達は来ていない。
それから最初に、
「え! ガサナウベルさん、倒れて――」
と、キレンが言った。そこへ、ネモネラの声が、
「大丈夫よ、寝てるだけ」
と。彼女はそれ以上言わなくてもいいと思ったが、思い直し、続けた。
「まあ叩き起こしてもいいけどね。疲れてるのか能力に因る眠りが深いのか……眠らされたんだって」
そして、氷手太一が口を動かした。
「なるほど、ここに捕まえた奴を。アスレア、そこ閉じてよ、逃げないように」
「そうね。みんなもう通った? 点呼!」
三十一人の生徒はちゃんと居る。ほか協力者もちゃんと居る。
「よし」そう言ってアスレアが黒い箱を消した。
「白ベストはここにある。さっきそこにあった物」言い始めたのはブラウネラだった。「まず、中に入る人を決めましょう」
「ああ、人間界のゴミ共か」
捕まっている者のうち、誰かがそんな事を言った。そんなのは無視だ。
シャダが指示をしていく。
「じゃあ――ランジェスは見張って。彼らにもしもの事があったら大変だから。従えてるケモノで複数対処できるし。ランジェス自身、もう体も丈夫でしょ。中に入ると逆にケモノが敵と勘違いされるし」
「分かった」
彼らは、実は、晴己の能力『肉体を改造する』に依って超人と言えるほどの筋肉と骨を数日前から持っていた。恵力学園一年五組の全員がだ。しかもベージエラも天使の肉体としてはより頑健に。ルアンダエラは天人としてより逞しく。アスレアは闇使として強靭に。タタロニアンフィは妖人界の神王族として、オフィアーナは妖使として頑強に。種を越えずに、その種としてあり得ない程の存在になっている。
「ペイリーは手錠や布、ロープの類を壊されても直せるように見張っててほしい。ランジェスと同じ役割も半分は担う形」
「オッケー任せろ」
「麦ちゃんは毒対策でここに」
「ん」
「千波さんと大月さんは治療班としてここに」
「分かった」
「了解」こちらが大月ナオの返事。
「私達はコレで天力や闇力、妖力さえあれば連絡し合える。時沢さんは連絡を受けたら要救助者や捕まえた相手の運び込みをお願い」
腕に、そんな連絡道具を付けている。晴己を探している時からだった。それがここで活きる。
「詰まりここで待機」とルイが。
「そう」
「任せて」
ルイがそう言うと、千波由絵が、
「速水は沈火のためにここに居てほしい」
と。だから速水園彦が、
「分かった」
と肯いた。シャダも肯いた、そしてシャダは続けた。
「それで大体いいと思う。じゃああとは入る人を」
不出白籠に出入りするための白いベストは十八着ある。時沢ルイは運び込みをするので白いベストを着ざるを得ない。
これで残り十七着。着た者は、宝石が黒く輝く代被封印の首飾りも身に着ける。
タタロニアンフィとオフィアーナは特に入りたがっている。少なくとも、タタロニアンフィの胸中は、
「妖人界でのお礼ができていないと思っているわ。だから」
という事だった。
それならあと十五人。
とりあえずタタロニアンフィとオフィアーナは先に入った。
そこで、やはり互いの相性を考えて組むことに。
和行とウィンとジンカーが一緒に。
キレンと華子とうるえが一緒に。
太陽と友拓と太一が一緒に。
美仁と雷と官三郎が一緒に。
それと、ベージエラとブラウネラが。
そこで、由絵が、
「ルイが運ぶのを手伝うよ」
と申し出た。由絵も着た。
「よし」
とはジンカー。そこで華子が、
「じゃあ行きましょう」
と皆に言った。
ルアンダエラは、コンビネーションの練習を彼らとしていないが故に、単独かタッグでのみ中に入ろうと決めていた。天界のために。自分が追った事件の終結のために。
(心配してくれてありがとな。でもな、俺達は、やるって決めたんだからな)
晴己が呼ばなかったことに対して応えるように、官三郎がそう思った。
(私達は欠けない。誰も)
それはうるえの心の言葉。そして、ほかの者も同じようには思っていた。




