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68 最終決戦。その五。

 至る所で爆発音や叫び声。一階のフードコート脇の――地図上ではすぐ左の――通路を北へ行った先を左に曲がり、戦いの跡があるのをネモネラは見た。左手にあるクレープ屋の向かいは紳士服店。その一つ奥、左手にあるアイスクリーム屋の向かいは男性用ブランド商品店スターフル。そこに影天力の気配。ネモネラはそこに入った。

 勢いよく、棚の陰から男が横っ飛びをするのが見えた。その瞬間、灰色の光弾が飛んできた。

 人が丸まったほどの大きさの光弾――が、目の前に来た時に空間接続。

 ()()は、ネモネラに()たると思われた一直線の軌道に交差するように、右前の空間から左奥の棚へ向かった、そうなるように接続していた。

 もし無事なら男は左から現れそうだった、ネモネラは自らそちらへ向かう。まず左。最初の一発が爆発を起こした。それから奥の左角を向き前へ――

 進もうとした時。

 前に男がちらりと見えた。彼が身を引っ込める。それと同時に前から光弾が。

 その光弾も引っ込んだ男に返すように空間接続し、向かわせる。その空間移動が済んだ辺りで接続を切る。ネモネラはその瞬間横に移動し男の位置を探ろうとしたが、前からまだ光弾が来ていた。

(ふ!)

 咄嗟(とっさ)に。床から白壁を建たせる。その面に光弾が吸収されるように消える。

(二発だったのか)

 右前の棚が爆発した。さっきの光弾を受けたからで――

 ネモネラは横を向いた時、白壁に念じるのを()めた。するとそれは自動で下りていくようにして消えた。

 そして、彼女が横を向いたのと同じ時には、男は、中央より入口寄りの所に立っていた。

 男は、そこから光弾。

(速い――!)

 空間接続を余儀(よぎ)なくされる。大きな面で接続。前が見え(にく)くなる。代わりに、それを(つな)ぐ所を彼の背後にする。

 だが男はそれを難無く()けていた。男は放つと同時にいつも別の場所へ移動する。

 ネモネラは背の低い棚と接続面の間から向こうを見、男が急速に彼女から見て左に移動したことを知った。

 接続を切りつつ真左に向かう――その途中で(きびす)を返して棚の陰から男へ近付いた。

 男から見て左手に出た(はず)だった。実際そうなった。そこから白い盾を向かわせた。

 すると。

 男は地を蹴り天井に。そして天井も蹴り棚に乗る。その動きで白い盾を避け、そこから光弾。

(壁!)

 ネモネラは、吸収するように接触武器や弾を消すあの白壁をまた前に建てた。それは生物を消すことはしないが――男はそれを知ってか知らずか、ネモネラの背後の棚に跳躍し、振り返り、光弾を放った。

 白壁がまだ光弾を受けている感触がある。

(長い! 何発! え、そっちからも――!)

 たった今気付き、そちらにも白壁。

 何かがおかしい。空間接続で避けていた時も。そして今右手に建てた白壁では吸収がずっと続いている。

 男が瞬時に、後ろに来ていた。

(なら触れる!)

 わざとそちらに拳をやった。白壁は両方建たせたまま――左はやっと受け切ったようだった――そう感じながら右裏拳の要領で。

 男はそれすら(かわ)した。

「遅いね」

 そう言って、男はネモネラの手首を手で握り、引き、その勢いに乗せた右ストレートを彼女の顔面に叩き込もうとした。

 だがその時、男は眠気に(さいな)まれ――

(影響速化!)

 今や左手の方向にある白壁ではまだ光弾を吸収している、その感触を得ながら、ネモネラは、やっと、相手が地に伏すのを見た。

(危なかった……多分、発射点からの連発数が上がる能力……しかも身体強化……)

 ふう、と一息()く。

 それから、首元からベストの中へ手を突っ込み、上着の内ポケットにある手錠を取り、男の両手首に装着。

 空間を接続し、簡易留置場へ。

 そこには、まだチラホラと、喧嘩(けんか)の声があった。

(もう、眠らせちゃおうかしら。それと――)

 少々疲れている。ネモネラは、休憩がてら、彼らを見張ることにした。もしかしたら誰かが誰かの縛り布を(ほど)こうとするかもしれない。手錠はまず無理だからいいが。

 そこに晴己が居た。なぜかガサナウベルは横たわっている。ガサナウベルのためにも――

「彼らの事、私が見てるわ」

 ネモネラが晴己に告げた。

「任せました、お願いします」

 晴己はそう言うと、不出白籠(ださずのしろかご)に目を向け、そこから消えた。



 腰の帯にある手錠は二つ。ララヒャトレフィは、地図上で言う上から二番目の通路から行ける西階段を上がった。下の階から上に力を感じたからで――まず、並ぶ店を見やった。

 右手には手前から、服屋ズイーグ、ヘアゴム店シュルール、雑貨『つの印』、アロマ・キャティの看板がある。

 左手には、手前から、安価服プニィクルオ、革靴屋『ナジム』、靴屋メトーサ、靴屋アブシの看板。

 その中で、ララヒャトレフィが気にしたのはズイーグだった。もしかしたらシュルームに居るかもしれなくはあるが。

 扉を押して開け、ズイーグに入った。そして結界で閉ざす。

 瞬間、結界を張られた。ララヒャトレフィは左右前後、どこにも行けなくなった。どんなに確かめても見えない壁があるだけ。

(しまっ……! でもそれだけでは攻撃することもできない(はず)――)

 その時、足元から火が燃え上がった。自分は燃え死んでしまうのか。ララヒャトレフィにはその恐怖が巻き起こった。足先を動かし結界の外に出る部分があるか確かめたが、微妙に結界には隙間があるようだった。そこから炎が入るよう念じられている。

 彼女は、足首辺りの高さから水を生み、そこまで浸るようにした。部屋に流れていくが、気にせず生み出していく。そうして火を消さなければ命が(あや)うい。

 結界で閉じ切られていないということは、能力を外に使うことはできる。

 奥の棚の陰から、顔をちらりとだけ見せた者がいた。敵ながら渋い男。だが容赦はしない。

 ララヒャトレフィは、足先だけ出る結界の隙間から、外へ爪先を出す勢いで、そこから青い光弾を放った。

 こうされた敵は恐らく棚の反対側へ逃げた。

 ララヒャトレフィはさっきのような対応しかできない振りをしていた。それが効いていると信じ、頭上を別の場所の床へ空間接続、跳び上がると、右方の床から跳ねて出た。そこから身体強化。男の逃げた位置を予測しそこへ。行くと、大体予想通りだった、角より二つ手前の棚の陰に発見。

 だが飛び跳ねるように急接近した瞬間、空中で止められた。

(また結界の中――!)

 そして炎。また結界の隙間からの攻撃。そして男はまたどこかの棚の裏。

(やっぱりアレを使わないと)

 空間接続でそこから落ちるように脱出し近くの床に手と膝を突く。

 近くの商品を手に取ると――空間接続で奥のもう一つの角の方へと移動した。そこから棚の向こうを見ていく。敵が居たと判った瞬間、彼から見える位置にセーターを放り投げ、『認識ずらし』を。これで敵はセーターをララヒャトレフィだと思い込む。自分はセーターだと思われる。

 彼女自身は棚の裏側を音を抑えて走り、敵の居る場所の棚のすぐ裏陰(うらかげ)へ。

 そして跳び出しても、彼からはセーターが動いただけのように見えるはず。

 だが、戦い慣れているのか、男は動かない幻像を相手にせず、動いたセーターに目を向けた。

「結界!」

 今度は閉じ切られた。すると男は――

「やっぱりか!」

 認識ずらしを解かれた。もう男は本当の姿を見ている。

 結界は閉じられているが――

「鋭き(つぶて)、青く()て無く――」

 そして結界に微妙な隙間を開けると、そこに炎を。そしてまた閉じた。

「あ……ああ……っ!」

 これではやり様がない、お(しま)いだ――炎が入れられた瞬間に発動した力がうまく敵を襲わなければ――

「光りて刺せ」

 と、炎を入れられた瞬間に合わせて唱えていた。

 それは詠唱によって妖力(ようりき)を込めた結果必ず起こる出来事で――全てが発動時までに組み込まれた通りに動く。結界で閉じ切られた外であっても。

「はっ! はっは!」

 と笑う男を、青い光刃が襲った。嵐のように。

「がっ……!」

 男は倒れた。すると男の結界は消えた。ララヒャトレフィは急いで男の背後へ。

 腰の帯から左手で取った手錠を掛けようとしたその時――

 彼の背から炎熱の光線が放たれた。

「くあっ――!」

 のけ()るように()ける。その勢いで後転し、姿勢を整える。

 立ち上がろうとする男に対し、彼女は――

「青き矢来たれ!」

 ()させた。八本の青一色の矢が、両腕、両手、両太(もも)、両(すね)を押さえ付け、もう動きを許さない。

「はッ!」

 彼女は空気を蹴った。そこから青い光弾。彼の頭部に向けて。その光弾が爆発。もう気絶くらいしただろうと思いながら全速力で近付き、急いで手錠を掛けた。両手首に掛けることができた。直前に男は防衛本能でか、白い翼を出していた。出したまま拘束されている。

「道理で天力(てんりき)が。裏切り者だった……? 私のことは分かっている(はず)……」

 取り()えず、空間を接続し、彼女は男を簡易留置場へ送った。

「ネモネラさん……でしたか」

「呼び捨てでいいですよ」

「では――ネモネラ、貴女(あなた)は休憩中?」

「ええ。見張りは気にしないでください、私がします」

「そう。それなら、手錠を持っているかしら」

「ああ、どうぞ」

 静かになった簡易留置場で、ネモネラは自分の首元から白いベストの中の上着の内ポケットに手を入れ、そこから二つの手錠を出し、渡した。

 ララヒャトレフィの手錠は三つになった。それらを腰の帯に固定。そして息を整える。精神を集中。今後は戦いも激しくなりそうだと感じていた。

「私の分はもうこれで(ゼロ)……今取ってきていいですか」

「ええ、どうぞ」

 どこかへ一旦消えたネモネラが、すぐに戻ってきた。

「ありがとうございました。見張りは私がします」

「ああ、それはいいけれど、あの男、どうなのかしら、翼が白かったのだけど」

「エデルエラ様の情報に()ると、彼は元々粗暴であちらに付いた裏切り者です、気にしなくていいですよ」

「ならいいわ。では行ってくるわね」

 そして戻った。服屋ズイーグから出ると、前には居そうにないと思い、右を向いた。



 倒した相手を晴己(はるき)に運んでもらったあとでゾリイェルは移動を開始した。

 調理用品店から出て、向かいに見えるのが、左から順に、バーガー店、土産屋、組み立て棚店ターテル、ガラス製のコップの店グラーシャ。丁度(ちょうど)前方から(ほの)かに何かを感じた。

(行ってみるか……)

 ターテルに入った。

 組み立てたらどうなるかディスプレイされている物と箱の中にあるだけの商品とか並んでいる。

(敵は――やっぱ奥かな)

 ここではなく奥の店に潜んでいる、という可能性はあった。ただ、探索を(おこた)りたくはない。

 ()ていく。

 と、足音がした。確実にここだ。そして入口から見て右奥に居そうな気配。

(よぉし……)

 ゾリイェルは身体強化し、少しずつ向かった。

 若い女を発見したと思ったその時――ゾリイェルの視界が急に変わった。そして全身に激痛。

 ゾリイェルは棚の中に入れ込まれた格好をしていた。さっき通り過ぎた(はず)の所にあった棚の中にだ。そこからこの店の中央辺りに視線を向けている。

(腕は動く……っ!)

 強めた腕で自分を外に出すと、早速治癒(ちゆ)。数秒の治療時間が掛かり、それから立ち上がる。

(くそっ、これだから一癖(ひとくせ)ある力は……まあ人のコト言えないが)

 また見て回る。

(じゃあ、なんだ……今のが通じないと相手に思わせることはした方がいいか。ん? ああ、いや、もし()()なら……)

 ゾリイェルは(ひらめ)いた。

 紐を出す。幾つも。二人が縦に寝そべったほどの長さ。それを水平に伸ばし、この店全体を――

(カッティング!)

 棚を無くしてしまえばいい。とにかく切り刻む。それを完全にしてしまいそうになってから、また視界が変わった。

(全部壊される前にと思ったんだな)

 今度はそこまで痛くなかった。だが、そこへ灰色の羽根が飛んできた。

 まだ身動きはできない。

(ちょ――っと、待――っ!)

 ゾリイェルも翼を出した。白い翼。その右翼が彼をどうにか守った。

 紐を出し、それを少々回転させることで前にある板の下と上とを其々(それぞれ)切った。強化した腕と拳で、その板を殴ると、その板が右の部分で折れ、脚を伸ばせるようになる。そこから転がり出ると――

 女が隠れるのが見えた。

(あそこだな!)

 強化した脚で走った。見られた瞬間またどこかに『収納』されてしまいそうだと考えたゾリイェルは、女の前へ(おど)り出ると――

(結界)

 自分を完全に囲った。()()()()()だ。

 女は、効かないことで怪しみはしたが、相手が得意気な顔をしているのを見ると、危険も察知。逃げようとして背を向けた――

(今!)

 結界を解いたゾリイェルは彼女の前と左右に、厚みのある巨大な壁を建てた。

「はあっ? くそ! ざけん――!」

 と言って振り返ろうとする女に対し、ゾリイェルは、肩口に蹴り。

「ぐっ」

 女は倒れ、動かなくなった。

「優しいだろ、腹は狙わなかったんだぞ」

 そう言うと、ゾリイェルは自分の白いベストの中に首元から手を突っ込み、ベストの下のジャケットの内ポケットから手錠を取り出した。

 それを掛け、

「お、そうだ」

 と思い付くと、女を完全に建造物で閉じ込めた。それは()まり屋根も付けたという事。換気用の、しかも逃がさないための十分(じゅうぶん)な穴は、上にはある。下にも付けるために水平な紐の能力で下部を切り取った、出られない程度に。そこはギリギリ立ち上がったり寝たりできる程度の空間となった。

「よし」

 あとは仲間の誰かがこれに気付けばいい。そう思ってから――(つい)でに治癒も施してからそこを去った。

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