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66 最終決戦。その三。

 そこは廃モールのシチュー店。右手に仕切りや席もある。

 敵が居そうだと感じたカウンターの向こうの床にゾリイェルは念じ、そこから棒を数十本も、天井より少々下まで伸びるように生じさせた。

 本当にそこに敵が居た――押し上げられたように姿を現した男が、カウンターの上へと転がり落ちた。

 そこへ一瞬で近付く。と、カウンターの前の床から(とげ)が生えた。そして――

(ん? 動けない)

 ゾリイェルは棘の上で止まった。体が一切動かない。浮いたままですらある。もし、このまま重力だけが作用すれば、棘に落ちる。

 男はカウンターの上に無事に落ち、横に――スライドするように瞬間移動した。ゾリイェルの目の前ですらなくなる。

 だが能力は使えた。棘のある床から棒を生み、自分を支えさせるくらいまで伸ばす――と同時に、紐を呼び出し、それをカウンターの上で水平に張らせた。そして水平に動かす。男を追うように。自分自身は棒で押し上げられるようにした(はず)だったが、それでも動けなかった。その場に停止させる能力なのか。

 だが、動けるようになった。それは数秒だけらしい。

 棒に押し上げられ、その勢いで棘に刺されずにカウンターに立つ。そして男の方を向いた。

 男は紐を()けて床に居た。

 次の瞬間、厨房の方から幾つもの刃物が飛んで来た。

(結界!)

 そちらからの攻撃は防いだ。

 男はへたり込んでゾリイェルの方を向いたまま(おび)えるように床を後退し、出入口の方へ近付いた。ゾリイェルはそちらにも結界を張った。逃がさない。

 そしてややこしい戦い方をする男に一発喰らわせたくなったゾリイェルが身体強化し瞬時に男の前へ――その軌道上でまた止まった。そこへ、床から(とげ)が伸びる。

 ゾリイェルはそこでピンと水平に張った紐を地面に生み出した。それを横に動かすと、紐に当たった(とげ)は全て切れて倒れた。何も伸びていないのとほぼ同じになった。

「何っ」

 男がそう言った。

「この停止は数秒だけなんだろ?」

 男は奥に念じ包丁をゾリイェルに向かわせようとしたが――

「結界を張られたままだぞ」

 次の瞬間、ゾリイェルの体が下へと動き出した。男が棘をゾリイェルの下に生やそうとする。だがゾリイェルは(すで)に結界をそこに張っていた。そこに棘はもう少しも生えない、しかもゾリイェルは結界の上に着地できる。

 男はスライドするような瞬間移動で横に逃れ、そのまま駆けて入口ではない方へ逃げようとしたが――

「ふんッ!」

 結界を足場にした跳び足(とう)。男は一撃で沈んだ。

「トリッキーな奴だったな」

 ここに来る前からネモネラから手錠を幾つか受け取っていた。ネモネラと同様、白ベストの中の上着の内ポケットに。それを男に掛けると――

(俺は空間移動できないからな、瞬間系も)

 とりあえずそこに放置。別の場所へ向かった。



 パン屋からすぐ北――向かいの子供服店に敵がいないと分かり、オロクガネアは、その向こうだと気付いた。一旦そこを出て、フードコートの方へ行き、北へ通路を歩き、そこから東へ延びる通路を歩き始め、右手最初の店に入った。そこも子供服店だった。

(確実に居る)

 影天力(えいてんりき)を感じた。しかも強く。今何か持続的に使われている。オロクガネアは無音移動だけは発動しておくことにした。更に、入口を結界で(ふさ)ぎ、敵が逃げられないようにもする。そして歩く。

 音を抑えていたにも関わらず、右上前方から急に放たれた光熱線が的確にオロクガネアの(ほお)に当たった。

 瞬時に前へずれて被害を最小限に抑え、オロクガネアはまず直進した。そして発射地点へと――右を向き、また走り出した。その瞬間にも光熱線が放たれ、腹に的確に()てられた。前へ進むことで被害を抑える。

 最初に放たれた地点まで来た。だが敵が居ない。二発目の地点がよく分からない。棚に置かれた服越しに中てられているのは判った。とにかく角へ動く。その途中でも光熱線を()てられてしまった。

「そっちだな!」

 オロクガネアは自分を癒しながら、黒い( )《バルソグナ》を振った。するとそこから黒い刃が飛んだ。

 ()()()()辿()()()()()発射された黒刃(こくじん)は、棚に当たると大爆発を起こした。

(相手に当たってないなこれは)

 オロクガネアはそちらへ――入口から見て左(すみ)へ――向かった。

 しかも自分を癒しながら()()()()

 棚を踏むことなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()角の棚に乗ると、辺りをぐるりと見た。人の姿が見えた。女。

「ふッ!」

 鬼力(きりき)を込めて刀を振った。先へと黒刃が向かい、接触した地点で大爆発。そこから吹き飛ぶ人影が見えた。

「そこだ!」

 近付く。だが、吹き飛んだ地点で体勢を整えた女が、目の前から光線を放った――

 オロクガネアは真正面からそれをしゃがみつつ()け、()てられてもいいと思いながら、足刀をお見舞いした。

 腹でそれを受けた女は――気絶。帯に挟んでいた手錠を一つ手に取り、掛ける。治癒も施す。簡易留置場へと運び、戻ると、また敵を探し始めた。



 ()(ぐる)みの店に影天力(えいてんりき)を発する誰かが居ることにズガンダーフは気付き、次に見るのをそこに決めた。

 奥から現れた者が居た。一人の男。

 出会った瞬間、彼が筋骨隆々に()()()。そして飛び掛かって来る。一瞬で目の前に。

 ズガンダーフは入る時に、予定を読み取っていた。二人分の予定が聞こえた。『来たら潰してやる』という声と『居ないように見せて痛みで殺す』という声。彼はどう考えても前者。そして入ってからは、なぜか歌が聞こえていた。そして全身に謎の痛みが増えていくのを感じた。外では聞こえなかった歌声。(おそ)らく音に対しての結界も張られている。(ゆえ)に――

 ズガンダーフは、目の前に瞬時に来た男に、乗り移った。

 彼の本体は立ったまま動かなくなる。

 筋肉質な男がズガンダーフとして――

「風圧」

 部屋の入口から奥までを、回り込むような荒れ狂う風で、一気に()き混ぜた。それにより圧する。

 ゴァンッ!

 と、誰かが(すみ)の方に吹き飛ばされた音がした。男の体のままズガンダーフがそこへ。

 見るとそこには羊の縫い包みがあったが、それがたった今女の姿になった。

(認識阻害か。――さて。次は男だ)

 ズガンダーフはそう考え、倒そうとした。(ただ)し乗り移ったままでだ。

 男の周囲に結界を張る。そのまま爆炎の玉を放った。当然すぐに爆発し男の服に火が。火は消し、自分を自滅に追い込む。何度も爆破に巻き込む。急いでそれをやり、これ以上は耐えられないと感じてからは、すぐに結界を解き、自分の体に戻った。

 そして男に近付き、その腹を打撃。

(…………)

 どうやら動かなくなった。治癒させた。男の心音を確かめる。生きている。

 ホッとしつつ、誰かがここに駆け付け二人を拘束できる状況になるのを、彼は待った。



 地図上の左下の区画、フラワーショップの左横が植木鉢の店で、その左が焼き物店、その向かいの家具の店に影天力(えいてんりき)を感じ、ガサナウベルはそこへ入った。

(さぁて、どこだ?)

 左右に視線をやりながら奥へ歩くと――

 急に左前の壁からすり抜けて来た何かが右ストレートを放った。

 咄嗟(とっさ)(てのひら)を向けた。そして天力(てんりき)を込めると、掌からその形の衝撃波が。敵を吹き飛ばす。だが敵はすぐそこの壁に背をぶつけずにすり抜けて行き、見えなくなった。

(そういう事か)

 奥へ数歩だけ歩き壁の裏を確かめた。そこにはもう居ない。嫌な予感がして振り向く。

 そちらを前にしてからすぐ――左前の壁をすり抜けるように、男が走り込んで来た。今度は左ストレートが来る。

 だが、そちらにも手を差し出し、掌型衝撃波を放つだけだった。男が吹き飛ぶ。

「ほかにできないのか?」

 ゆったりを奥へ進む。壁の向こうを確認。

 一番奥の通路を左右両方確かめた。居ない。だが右の方では何かが動いた気がした。手前に戻る。入口を向いて左の箪笥(たんす)の向こうから何かが見えてきた。すり抜けの途中。(すで)にガサナウベルの顔が向いていることに気付いた男は次の一歩で急ブレーキを掛け後退。箪笥や壁をすり抜け向こうへ。

 ガサナウベルは、その地点の空間と手前の空間を接続した――敵の背中が目の前に来る、そうなるように――。その背へ、全力で身体強化し、右拳。

 だが、()てた瞬間ガサナウベルの背へ上から激しい衝撃が。それがガサナウベルを床に沈める。

「ぐ! が……!」

(あれだけじゃなかったのか)

 男はどこも痛くなさそうに、また物陰に隠れた。

 伏せてしまってからすぐ、ガサナウベルは手で床を押すことで(めく)られた(ページ)のように跳ね起きた。それができた――どうやら、背に何か()るワケでもなかった。

(ん? 背中からじゃ()目なだけか……? いやどっちでもいいか)

 そして男を探す。少し歩くと――

 すぐ右側から駆け出して来た。彼が右拳を突き刺すように出す。

 ガサナウベルは目の前の空間を自分の後方へ接続。彼の腕がそこへ入る、途中まで。

「ここで切れたらどうする?」

 ガサナウベルがそう言うと、彼はゾッとした。そして腕を引っ込めた。

 そこで――敵が後ろへ下がる動きに乗せるように――掌型衝撃波。今までで最大の天力(てんりき)を込めたと思うほどの。

 男は前からそれを()らうと、とんでもない距離を吹き飛ぶ予兆を見せた。だからガサナウベルが彼の背後を空間接続。

 ()()()()()()()()()()()()

 不出白籠(ださずのしろかご)の外へは天力を込めて作られた特別な白いベストが無ければ出られない。だから彼が幾らすり抜けようとしても――大激突。白籠の壁は壊れない。凹みもしない。

 男は沈んだ。動かなくなる。

 ガサナウベルはエデルエラから受け取っている手錠をズボンのポケットに入れていた、それを出し、彼に掛けた。そして簡易留置場へ目の前の空間を接続し、そこへ彼を置き、自分はまたさっきの家具店へ。

(さて次だ)

 思ってからその店を出、左右を確認。右に西階段がある。そちら側――右隣の寝具の店に(かす)かに影天力(えいてんりき)を感じる。そこに入った。



 シチュー店から出たゾリイェルは北へ数歩だけ歩き、東に()びている通路を東へと歩いた。シチュー店の右隣が漬物屋、その右隣が調理用品店だと判った。影天力を探りながらそう知ったその調理用品店に、誰かが居る気がした。敵であればいい。

 入ったあとで扉が閉まるまでの(あいだ)に、右前方から、突然、すらりとした背の高い男が現れた。俊敏な動き。厚みのある筋肉。単純な身体強化ではなさそうだ。その手がゾリイェルの胴に触れようとする。

 反射的に左前方へ逃げる。距離を取って相手をよく見、そして――

「おああ!」

 ゾリイェルは白き翼を出し、純白の刃を放った。曲線を描き嵐のように敵に向かう。

 男は降り掛かる羽根の刃を、手でガード――実際には指が羽根に当たった時、その当たった部分が溶けた、それで男は防いだ。

(触れて溶かす手……か指か)

 分析はその程度にして、ゾリイェルは男の左足の裏の床から棒を勢いよく生やした。男の頭くらいの高さまで。

「な――っ」

 男は左足を押し上げられ、体勢を崩し、右にこけそうになる。

 そこへゾリイェルは羽根の刃をまた。満遍なく――男の腹にも脚にも当たるように飛ばした。

 男は、右足だけで右に若干(じゃっかん)歩き、その足だけで自分を支え、左足を下ろして体勢を整えようとしたが、そこへ羽根の刃。手や指で防ぐかと思いきや、目の前に何か透明な壁でもあるかのように羽根を消した。

 実際にはそれは空間接続による別所への移動だった。

 ハッとしたゾリイェルは咄嗟(とっさ)に自分を結界で囲んだ。そこへ後ろから自分を襲う自分の羽根。

「ちっ」と男。「お前がこの籠を?」

「いや」

 ゾリイェルはまたハッとした。ここで自分が『そうだ』と嘘を()かなかったことで、男がどこか別の所へ移動してしまわないかと。相手は空間的能力を使える。

「だがお前をここから出さないよ」

 ゾリイェルはこの店全体に結界を張った。そして自分を小さく囲う結界に関しては消す。刺さっている羽根は床に落ちた。すると意志を声に。

「捕まえる」

「やってみろ!」

 と、男が右に手を伸ばした。

「難しくはな――」

 言い切ろうとしたゾリイェルの右肩へと右から男の手が。男の手首から先は空間を移動している。

 ゾリイェルは自分を再度結界で守った。

 手をその面の中へやることができずに男は引っ込め、そして正面から飛び掛かった。

 その時、ゾリイェルは、自分の肩から手首までくらいの長さと太さの(くぎ)を生み出した。前傾姿勢の男の背の上から――ずぶりと刺す。

「がっ――あああっ!」

 男はその勢いで床に打ち付けられた。

 相性も悪ければ、気絶もさせ辛い、近付けないし縛れない――ゾリイェルは自分にできないことを自覚していた。そしてできることで相手を気絶させようと、たった一本の、さっきと同程度の大きさの釘を無から生み――

「ふん!」

 それで頭を殴った。

 ……その敵は、動かなくなった。殴った方の釘を消し、結界を解く。

 念のため大きな結界の方はそのまま維持しつつゆっくりと近付く。彼は男の(あご)に触れたが、男は起きない。

 時間を掛けて近付いたからか、その(あいだ)に気絶。ゾリイェルはそれを狙ってもいた。もしかしたら死んでいる。手首に触れたが、脈が……ある。まあ放っておけば死ぬ。

 まず手首に青い手錠を掛けた。

 その手が曲者(くせもの)だったなと思いながら、刺さっている釘も消し、腕を後ろに回させ、もう片方の手にも。ガチャリと音。

(ふう。じゃあここにコイツも)

 放置しようとした。誰かが運ぶし、癒しも間に合うだろう、だが証言を取れなくなるのも困る――

(優先順位的には……運ぶのはいつになってもいい、晴己は癒そうとしたがる、治癒だな)

 ゾリイェルはこの瞬間、自分が治療能力を得るように念じた――できたか確認するために、男に手を伸ばし、念じた。男の背や頭部などの傷が(ふさ)がる。背の傷が消えたことは、ゾリイェル自身の目でも確認できた。

「お、よし」

 ()()()()()()()()()()――すぐにそう思いはした。ゾリイェルは、今度は(しばら)く誰か仲間を待った。

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