表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/90

34 溢れる想いと、手。

 人間界。恵力(けいりき)学園一年五組の者達は、その日、帰ってこなかった形快(かたがい)晴己(はるき)のことを、心配していた。

 そしてとうとう夜になり、そんな時間に、鳴った電話に出て、不動(ふどう)和行(かずゆき)は、聞き間違いかと思った。

「なんだって? もう一回言ってくれ、意味が分からない」

 話し相手はバドミントン部の氷手(ひで)太一(たいち)。彼は猛烈(もうれつ)な勢いで。

「だから! 形快(かたがい)の奴が捕まったんだって!」

「いや、だから、そんな訳無いだろ? なんでだよ」

「だーかーらー! 天界の人に()らえられちゃったの!」

「え? なんでだよ! 散々協力させといて」

「みんなに連絡してるんだ、切るね!」

「ちょ、おい待て!」和行は、スマートフォンを見て、それは相手ではないのに、それに向けて。「はあ? もう夏休み返上だろ、マジでどうしろと?」


 明日は終業式だというのに、その式に一年五組だけ出ない気なのかと言われそうだ――そう思いながらも、ベージエラは皆を集めた。学園の校門の前に。

 そこで、然賀(ねんが)火々末(ひびすえ)が最初に言葉を発した。

「助けに行くわよ」

「待てよ」和行が、右手だけ腰に当て、苛立(いらだ)ちを明らかに見せるようにしながら、左手で何か示すようにしながら。「部活がやりてえ奴もいるだろ? そりゃ形快(かたがい)も大変だけど、大事だけど、分かってるのか? この年でやること、俺達それぞれだって大事なんだぜ」

「それは……そうだけど……」

 火々末(ひびすえ)がそう言うと、

「俺も嫌かも」

 と、サッカー部の速水(はやみ)園彦(そのひこ)も和行に同調した。

「私もちょっと」

 それは水泳部の富脇(とみわき)エリー愛花(あいか)が。

 すると太一は――

「は? え? マジで言ってんの? 本気?」

 正気かどうかを疑った。

 柔道部の和行は、

「そりゃそうだろ。じゃあなんで捕まってんだよ、しかも天界で捕まってるんだぞ、何だよそれ、何なんだよこれは。何か俺達にやれるのか? 相手は誰だ? 天の警察か? やれるのかよ、俺達に!」

 と。

 それは答えのための質問ではなく、ただの予想を聞くに(とど)まる。

 フィッシング部の花肌(はなはだ)キレンはそこで、

「それは……捕まったのは何かの間違いで――」

 と、希望的観測を()べた。

 和行は、

「俺は、だとしてもって言ってんだぜ」

 と、譲らない。耐え()ねたキレンが声を(あら)げて――

「あ……あんた本気で言ってんのっ? それ!」

 と切に言っても、和行の言葉は、

「え、うん」

 だけだった。

「はあ……ちょっともう……(あき)れた」

 救いたい気持ちが多過ぎたのかもしれない、それでもとキレンは思った。

 そこへ、和行(かずゆき)がまだ言う。

「あ? そんな全員が行かなきゃいけないか?」

 キレンはもう我慢できなかった。

「じゃあ! あんたらの人生の夢ってのは一年ぽっち何かできないだけで(つか)めない訳っ? どうなのよ! 言ってみなよ!」

「まあまあ」

 太一はキレン側だが、(なだ)めた。そりゃ切なくなるよなと思いながら。

 キレンはどうしても抑えられなかった。抑えたくなかった。口は動き続ける――

「人の命とか何かと、ただ部活やりたいから、それだけの……それって何! あんたらの夢と(こま)ってる人の何かって、そんなに簡単に比べてしまえる訳っ? あんたらの夢や人への想いってそんな程度な訳っ? あたし達が(もら)った力ってそんな程度な訳っ?」

 キレンは涙ながら。

「まあまあ。その時その時にしか叶えられないことってあるし」

 と言う太一も、それが分かる立場だった。

 そのやり取りを前に、和行は、気が変わった。薄情だとは言われたくなかった。

「……いや、分かったよ」

「…………本当? 本当に?」キレンは息と()れた(ほお)や眼、鼻を整えながら。

 そこへ、和行の声。

「おう」

 静寂が存在した。数秒。

 太一はホッとした。

 そこで、気が変わった和行は、

「でも行くんだったら、絶対助けたいよな。全員行くんなら欠けもせずに戻る、すぐに」

 と、これを希望で終わらせるなと、そんな熱を伝えた。

 だから木江良(きえら)うるえは――心を(ふる)わせてただ見守っていたが――たった今、首を縦に振った。

「全員で行って全員で戻る」うるえがそう言った。

「そのままじゃ駄目よ」ベージエラもまた見守っていた。「あの子が捕まるようなことが起こってるのよ? ここから先は、とても強い人達がゴロゴロいると思わないと。だから……訓練を特別に……しなきゃいけない……けど」

「ど、どういう訓練を?」

 と、海凪(うみなぎ)(むぎ)が問うと、ベージエラは首を振った。横に。

「それは……私もまだ……」

「こういう訓練はどうかな」

 男の声が聞こえた。皆そちらを見た。

 それは一年五組の生徒の声ではなかった。

「――!」

「なんであなたが!」とはベージエラ。

 すると、大月(おおづき)ナオが声を上げた。

「マーシェルさん!」


 マーシェルは、校門前から校舎の屋上に皆を移動させた。カーテンを扱うような空間系移動能力で。

 そして、学校の屋上で、彼が言葉を。

「ここでの会話は外の誰にも聞こえないようにした。これから話すことは他言無用だ」

 そして彼は、目の前の子供達が当然知らないカプセル薬を、まずベージエラに渡した。幾つもある。

「それは新しい薬。以前あった訓練(そう)も、ある所ではこっそり新しくして使われてるが、それの効果をより高める」

「え、あれって復活してるの?」

 ベージエラとだけ会話が進む。

「表ではそうしていない。裏で使われてるんだ。これまで君らに見せなかったのもそういうコトだ、バレたくない相手という存在(もの)があるんでね、今の――彼らには」

「彼ら?」ベージエラが質問した。

「こっち……いや、あっちの話だ」

「どっち」

 それは真剣な問い掛けだったが、笑い所にもなりそうだった――が、今の彼らには笑えなかった。

「ていうかこれって」

 と、時沢(ときさわ)ルイが言った。かつて見た覚えがあったものに似ていたからだ。

 これにはベージエラが、

(はかま)よ。そしてほら、上の着物に帯……これが訓練(そう)。――にしても新しく作って隠れて使ってるの? ええ~、ちょっと欲しいんだけど」

 と。最後はマーシェルに向けて。顔も向いている。

 マーシェルの顔には、どう見ても、駄目だと書かれている。

「使う場所も限定する。そんな目をしてもあげない……あげないってば」

「青い。帯が白」

 とは、千波(ちなみ)由絵(ゆえ)が言った。彼らにとって聞き覚えのある(すう)単語だった。

詐欺(さぎ)集団に関係あった奴は似せて作られてるのよ。これはそこをそんなに変えてないみたいね」

「あー」

 由絵とナオは似た服で(さら)われた時のことを思い出した。それがその集団ではないが。

 (むし)ろあの時の人が今目の前にいるのだが、それも終わった話で、しかも可哀想だった話。

(マーシェルさんの奥さん、元気かな)

 話を(さえぎ)るのが嫌で、(むぎ)は思うだけにした。

「本物は神聖なのよ」

 と、ベージエラは言った。

「嫌な話だね、似せて作ってあんな……風に……ってさ」

 林田(はやしだ)ビカクがそう言った。

 ベージエラが返事をし出した。

「そうなのよ、やめりゃいいのにね、ああいうこと」

「ホントホント」由絵がそう言った。

「訓練用新薬を飲みこれを着て使った能力の成長はおよそ三倍」

「んー? そんなでもない感じがしちゃわない?」

 マーシェルの説明に、阿来(あらい)ペイリーがそう言ったが。

「どれだけ使うかに()るさ。だから――付き合ってる振りをして全く使わなかったら……ついて行けずに死ぬ。やらないんなら最初からやるな。そのレベルに来てる。君達がこれから()み込もうとしている領域はそういう次元だ」

 ベージエラは、マーシェルを見詰めた。

「……何か知ってる? 知ってるでしょ、それ、もう」

「俺から知ろうとするな。知って行動すると()()()がこういった(つな)がりに気付く」

()()()?」

 ベージエラがそう問うと、生徒の全員が()れることなく畏怖(いふ)した。そんな者達を相手にするのかと。だからこそ目の前に対抗策があるのだなと。

「念のための行動は多い方がいい」

 と、マーシェルが淡々(たんたん)と言った。

「答えてなくない? あちらって何? って――」

 ベージエラは問い詰めるも。

「それについても、暗に、言えない、言うべきじゃないと言ったんだ。分かってくれませんかね、ベージエラ・テインゼナー天務(てんむ)調査官?」

「……はぁ……しょうがないわね」

 地上での呼び方ではなかった。それが本当の名前。ベージエラ・テインゼナー。そして天務(てんむ)調査官。本当の役職名。天界の者だけの会話では違う言葉になるが、()()にも分かる言葉でなら、雰囲気的にそんな感じになるのが妥当だった。

 マーシェルは考えた。

(さて、どうなるかな。もう行動には出ている頃……探す場所を探すことになる。面倒だぞ、かなり。ただ、あちらにとってもこれは……一応、混乱の種にはなる……か?)


 彼らは、一日で飛(やく)的に練熟した。

 そして、形快(かたがい)晴己(はるき)の家族は、この話を、訪ねてきたベージエラから聞くと、まず母がこう言った。

「何だか、とても……信じられないことばかりで。心配ではあるんですけど。何だかもう……次元が違うというか。そもそも拾い子ですし。あの……収まる所に収まりに行ったんじゃ……ないです……よねぇ……」

 それを望んでいるかのように聞こえたベージエラは耳を疑った。

 そして彼の父はと言うと――

「うちは私が支えてますけどね、たまにあの子のことが怖くて。それは、異能力のことがあってからで。私は、何かある訳に行きませんから、強く……出たくなかったと言いますか……そのぉ、触れ合う回数も少なくてですね、この子や、うちの――妻のことばかり、その、心配で。でですね、その……。あの子がいる場所、本当にここでいいんでしょうか……って」

 まるで、仕方なく怖くなった何かを手放そうとしているだけのように。

 彼の妹サヤは――

「別に異能力はいいんだけど、話が大き過ぎるし、夢みたいな事ばっかりで、ついて行けないっていうか……そもそもこの事があって、教えられて知ったけど、本当のお兄ちゃんじゃなかったし……大事な人がほかに……本当の人が見付かるんじゃないかって……その方がよかったりしません?」

 彼が切なく戦う理由は、ここにもあったのではないかと、ベージエラは思った。

 ベージエラが形快(かたがい)家を去る時、陰鬱(いんうつ)な気持ちを振り払うのが難しかった。彼女は、ただ単純に、もうここには来たくないと思った。


 晴己以外のそれぞれの家族が、子から話され覚悟した。終業式も(すで)に終え、送られ、彼らは――

 既に天界にいた。

 そこで、ベージエラが彼の家の事情を説明した。

 探そうとしている彼らは、彼の家のことについてを、

「会ったら話そう」

「うん」

 などと話し合った。そして(さら)に心身を引き()めた。

 ベージエラの案内で、まずは天界のホテルへ。そしてベージエラが、

「嘘でしょ……(ろう)にいないの?」

 と、放心状態に。

「え、いない?」

 と、まず、うるえが言った。

「逃げたって、天陽(てんよう)新聞に……」

 すぐそこに、その新聞が置かれている店がある。少し遠くからでもまあまあ読めた。

「え?……はぁ?」

 和行(かずゆき)が頭を抱えてそう言った。

「助けに来たのに逃げてるって、じゃあ、どうすれば」

 見状(けんじょう)嘉烈(かれつ)がそう問うと、

「何が起こってるの?」

 と、入荷(いるか)(らい)が問い掛けた。

 この場に問いしか無い。

 誰も答えを知らないが(ゆえ)に、音の無い空間がそこにあるだけだった。



 ここで、少し時間を(さかのぼ)る――。



 彼は、声を聞いた気がした。


 ……――晴己(はるき)。晴己。晴己。ああ、いい名前よね。いい名前なのに。なのに。ほら、ねえ。まだ――(あきら)めては――早く起き――止ま――はダメ――――げるの――晴己――……


 そこで夢から覚めた。

 夢の何かが勿体(もったい)ないというか、離れたくないというか、そういう感覚が彼にはあった。なぜか覚めてほしくない、まだ(ひた)って()()()、そういう気持ちが。

 なんでなのか本人でも分かっていないが、晴己の目からは涙が止まらなかった。

 何かの(つな)がりが消えそうに感じた。(つか)みたかったのに何かを掴めなかった、そんな風に。

 だからそこにいて、もっと手を伸ばす時間が欲しかった。その手が届いたらいいのにと感じた。なのにそれができなかった。悲しくて(さけ)びたくなる。そんな何かを見た気がした。聞いた気がした。そこから離れたくなかった。

 そして、その気持ちを、そっとでいいからどこかに置かなければならない、夢から覚めたから。

 起き上がる。

 その頃にはもう夢の記憶も薄れていた。涙も出なくなっていたが、そこにはあり続けていた。

 目の辺りを手で()いて辺りを見た。

 そこは、(ろう)の中だった。白い床。鉄格子(てつごうし)だけ銀のような光を放っていて、窓も、かなり上にあるだけ。その窓の方を向いて右手の端に見えるのはベッド。左端に机がある。部屋の真ん中に椅子。

 自分を見てみた。白い服。

 そこは白一色の囚人服がスタンダードなのか。天界は温度が一定らしいから寒くないのはいいと晴己は考えたが、それにしても薄着だ。長ズボンと半(そで)。パンツは自前。裸足(はだし)

 鉄格子を前に左右は白い壁。後ろにあるのが上部に窓のある白い壁。

「どこかで見たと思ったら」

 晴己は思い出した。

「天使(ろう)

(僕は天使なのか。そういう扱いなのか。まあ異能者だし。能力を封じる牢。それでいいってことか)

 晴己は鉄格子に顔を押し付け、左右を見た。だが、廊下があるだけ。何かの助けが来る気がしない。どこかから止められてしまいそうだ。助けに来ては駄目だと思った。あなたが危ないよと。

 そんな自分の右手首には天界の淡青(たんせい)の空のような色のリングがある。細い腕輪のような物。寝ている(あいだ)()め込まれたのか。手錠ではない。

(何だこの輪。んっ……と……。取れない……。なんでこんな。なんで……。まあ、今はこの状況をどうにか……しないと……)

 自力で出られないかと考えたが、能力を使えないようだった。与羽根(アタエバネ)によるどの力も。

「誰か! 起きたんだから誰か来てくれてもいいだろ!」

 晴己の声は(ひび)いた。それは物悲しく話し相手がいないことを強調してくる。

「捕まってる理由も分かんないのに、こんな部屋だなんて。何なんだ……」

 そう言ってから、ある言葉を思い出した。

 禁()

 何に触れたというのか。永遠に自分はここに?

(何がだ。なんでだ。こんなの嫌だ。何がなのか教えてよ、誰か)

 窓を見た。そこに何かできないかと考えた。手が届かないかと考えた。が、やはり――

「力が使えない。くそっ」

 はあ、と溜め息を()いてから、また考えた。

(――禁忌……何だ? 与羽根(アタエバネ)のこと? それともそのあとの? 何なんだ。……僕の存在を許してくれないって? なんでだよ、前に神様は許してくれたよ? 許してくれたのに。許して……くれたのに……。会ったばっかり……なのに……っ!)

 そこまで考えてから、勢いよく座り込んだ。

 念じたが、神は来なかった。

「開けよ」

 鉄格子に手を付け、能力で体を改造しようとするが、それはやはりできなかった。

「開けよ」

 動かそうとして力を入れて、何度も唱える。だが動かない。

「開けよ」

 それを()り返した。だが、力も使えないし、開かない。

「開いてよ……」

 晴己の顔と視界が、(ゆが)む。

(僕が何をしたって? 分かんないよ。何かそんなにした? したのかなあ……)

 (しばら)くしてから、また考えた。

(――キレンに会いたい……。みんなに会いたい……。もう会えない? そんなの嫌だ。学校のみんなにも。お父さんにもお母さんにも。サヤにも)

 サヤは晴己の妹。

 ほかにも様々な人の顔が浮かんだ。今まで関わった全て。やはり一番浮かんだのは花肌(はなはだ)キレンだった。

 出ようとしない訳には行かない。待つ人がこんなにも居る。そう思って晴己は首を横に振った。

(……たとえ、居なくても)

 出たい。そう考え、前を見た。

 鉄格子に近付いた所で、誰かの足音に気付いた。近付いて来る。

(大丈夫なの? こっちに来て大丈夫?)

 というのは相手への配(りょ)で、晴己は自分への心配をなぜか余りしていない。それを思い直した。もし敵だったら。

 そして現れたのは――

「あ、が――ガサナウベル! な、なんでそこに」

 確かに、彼は(ろう)にいた(はず)。その証明という訳ではないが、彼もまだ白い囚人服姿だ。

「ふん、助けに来たと言ったらまあ驚くよなあ。くははっ。ん? 元気そうだなァおい」

「は? 助けに? なんで。益々(ますます)意味が」

「まあ言い合ってる(ひま)は無いんだよ。隙間(すきま)から俺に触れろ、体の一部だけでも出すんだ」

「い、嫌だ。絶対何か――」

「いいから早くしろよ。位置交換の対象にするんだよ」

「なんでお前に」

「助けに来たのが本当だとしたら? くく」そこで、なぜかガサナウベルは声のトーンを落とし、耳(ざわ)りのいい声で続けた。「この場所は照神(てるかみ)から聞いた」

「え? えっと……えぁ?」

 そこには大き過ぎる衝撃と、よく分からない熱があった。冷たいかと思えば温かいシャワーだったような。

「早くしろ。殺されるぞ。そうなったら手遅れだ、何もかも」

「……っ?」

 手遅れの意味も、何もかもの意味も、何も分からず考え込んでしまった。殺される理由も、なぜ早くすべきなのかさえ。

 そこで、彼の声がいつもの声量に戻った。

「死にたいのか? くく、利害の一致だな、俺の喜ぶことをしてくれる訳だ」

「よ、喜ばせたりなんか……! え……? お……いや……」

 なぜ、この目の前の男は、奮起(ふんき)させることをわざわざ言うんだろう――と、晴己はそこに何かを感じた。

 なぜ、わざわざ来たんだろう、なぜ、わざわざ(うなが)すような――なぜ、生かそうとするんだろう――なぜ、これらが本心に見えるんだろう、なぜ――なぜ――……。

 晴己は、そこに、(つな)がりを感じた。

 何かのピースがそこにある。そんな気がした。夢の中で伸ばした手の先――そこに見付けられたかもしれない何かのような。それがなんで天使ガサナウベルなんだろう、晴己がそう思わない訳がなかった。あんな事をした人だから。彼は(うら)まれるような人だ。なのに、何かが……。

「どうする? 死ぬか?」

 彼の手が、そこにある。

 晴己は、手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ