18 見極め。性質。ある一人の変化。
氷手太一が勝ったことで、仲間から歓声が上がった。
「おお!」
「ふんっ。だが、まだまだ……」
ジャンズーロはその声を、どちらの部屋への放送にも乗せなかった。
別室では、氷手太一の兄と両親が大喜びしていた。同室の周囲の者は、自分の子も無事でありますようにと、願って止まない。
いわば闇実験の被験戦士の部屋で、シャダ・ウンムグォンがこんな事を言っていた。
「気になったんだけど、なんで透明なコップを操ってた子のフィールドが駐車場だったのかな」
「え、どこか変?」
と、海凪麦は聞いたが。
「車が潰れるのが見えたら力の正体が分かる、勝つためにはバレない方がいいのに、潰れたら派手に音を立てるし、遮蔽物になる、巻き添えになる物が多かった。そうしない方が彼には有利だったのに。たとえばコップを潰した瞬間、消して視認し辛くするとか……そうしたら相手は何に注意すればいいか分かり辛いから」
「そこまで変かな、それ」
とは阿来ペイリーが。
「考え過ぎじゃなきゃ、突き詰めるべきなんだけど……」
シャダの中でも答えがまだ出なかった。いつか出るものだと彼女は信じて疑わない。
そして、八人目。
「私が行くわ」
アスレアの術による黒のトレーニングウェア風の服を着た富脇エリー愛花が首輪をし、透明ドアを開け、向こうへ行くと、すぐ閉め、広場へ歩を進めた。
相手も来たのだろう、それから広場は、どこかの研究所然とした場所へとその見え方を変えた。その建物も二階まで。ジャンズーロも早く戦ってほしがっている、だからだった。
愛花はまず、その辺の石を拾い、それを『物を空気入り浮き輪にする』の異能力で浮き輪にした。六、七歳児くらいが使いそうな大きさだ。
そこがフィールドの内側だと確認すると、今度は手をフィールドの外へと伸ばし、彼女は何かに触れた。
「見えない壁……?」
と確かめると、愛花は、それを浮き輪にできないかと考えた。
だができなかった。これがもしできれば外に効果が及ぶということなのだろう、それができないからジャンズーロはルールについて嘘を言っていない、広場の中から広場の外へと異能力の効果は届かないというのは真実だと愛花は考えた。
相手の動きも控えの部屋の画面には映っていた。それによると、そのフィールドは化学研究所のような場所らしい。その様子を見ながら、控えの部屋にいる恵力学園一年五組のほとんど全員は、愛花の行動の意味を理解した。
その際、シャダが声に出した。
「ルールを確認しよう。そこにヒントがあるかも。まずあの中からあの外へ能力は届かない。この部屋からもこの部屋の外へは能力は届かない」
「誰かが一緒に入ったらダメ、首輪をした人の首が吹き飛ぶ。首輪をしないと透明ドアは開かない」
シャダのメインの会話相手は、木江良うるえだった。
「恐怖で従わせる意味はあるわよね」
と、シャダが確認のために言うと。
「そうね……」と、うるえ。
「三分以内に誰かがフィールドに出ないといけないんだっけ。三分だよね?」
「確か三分。準備時間がそうだって言ってた。戦闘がニ十分以上になるようなら二人とも殺される」
そこで、うるえは、思い付いたような顔を見せ、続けた。
「もしかして氷手がさっき戦った時にジャンズーロが居場所を教えたのって、相手に有利に働くようにだけじゃなく、戦闘が長くなるようなら自分も言ったことを守らないと格好が付かないからだったり? まあ煽って急かした、というのが正解なのかな」
「そうなのかなぁ」シャダは疑問だと顔に示した。「むしろ気絶で済ませられるならこっちにも有利だし、半分助けてくれたようなものだよ。戦ってなくても、能力を使った様子さえ見られれば良さそうなんだけど、違うのかなあ……」
「ふうん……?」
シャダの疑問の持ち方に、クラスのまとめ役であるうるえでもついて行けないでいた。
そこへ立山太陽の声が加わった。
「よりジャンズーロにとっていいのは――」太陽は二人の間に立つようにして、大画面を見ながら。「こうやって戦う相手に明確に能力を使った時の何かをその目で確かめられること。臨場感がある方が格段にいいってことなんじゃないか?」
「なるほど、それはありそうか」とは、うるえの声。
シャダは無言だった。まるでいつもの『音の遮断』のように。別の何かがもしあったら――? と言いたげに。そしてシャダの頭には、また、コップ使いが駐車場のフィールドで戦わされたことへの疑問が浮かんだ。
一方、戦闘の場では――
愛花は階段を上がった所にいた。壁を背に、すぐそこの廊下を顔だけ出して見ていた。
そこに相手はいた。ブレザーの女。同年代。
愛花は考えた。
(戦って気絶させないと自分がそうされる。もしかしたら死ぬ。でも本当の敵はジャンズーロ。そのために。とにかく私は勝つ)
薬品の並ぶ部屋のすぐ横だった。
相手は愛花の気配に気付くと、その部屋のドアを開け、中から液体を瓶ごと引き寄せた、念力でだ。それを愛花の方へと、彼女は、蹴られたボールくらいの勢いで飛ばしてきた。
「薬品操作? それとも瓶?」
愛花は、避けたあと、壁に衝突して割れた瓶から漏れた液が床を溶かしていくのを見た。
「……やばいかも」
再度、相手側に顔を向けた愛花のすぐそばに、彼女はいた。
相手が近付いてきているのは、愛花にとって想定外だった。思わず声が出そうになるほど。
口を押さえ、溶けた床を横目に、階段を下りようとする。
彼女は階段の下から現れた。
「……っ? 二つの力! 移動? 瞬間――」
愛花は咄嗟に手を前に出し、念じた。
すると、相手の手にある瓶が浮き輪に。
「うやっ!」
彼女は瓶の中の液が床に落ちたのを理解すると数歩退いた。それは床を溶かした。その溶かす速度はとんでもなかった。
愛花は分析した。
(そんなに溶けるなら、アレはあの子の出した特別な酸……?)
危険を察知。そして相手のブレザーをも浮き輪にすると、
「やん!」
という声を耳にしつつ、先程の廊下を薬品の部屋と逆の方へ――左へと愛花は向かった。
だが、それを相手は見ていた――そして瞬時に愛花の『前』に現れた。
まるでホラーのようだと思いながら愛花はまた手を前にかざした。
相手の手に、一個だけ瓶がある。
「そいつも!」
浮き輪になった。愛花がそうすると、瓶の中にあった液をかぶって浮き輪が萎みながら落下した。その足元からもじゅくじゅくと音が。
今度は逆に、少女は、愛花に近付いてきた。ゆっくり、踏みしめるように。そして警戒しながら。
愛花は思った。
(まだ何かあるの……っ?)
あり得ないほどの恐怖が愛花を襲った。悠然とした相手に、自分が何をしても、自分が疲れるだけ。相手を気絶させる方法などあるのか。愛花は逃げながら恐怖した。
白いカッターシャツとスカート姿の相手は行く先々に現れた。
(その手に、もう瓶も無いのに!)
愛花は焦り、考えた。人を救うためにもという想いから身に着けた『物を空気入り浮き輪にする』で、相手を気絶させるには、と。
最適とは言わないまでも、解が分かればと思いながら、彼女は逃げ続けた。
少女はやはり行く先々に現れた。そのために少女が使ったのは『両足をしっかり踏みしめた時のみ使える瞬間移動』だった。踏みしめた地と並行にしか見えない地面にしか移動しない。それなら咄嗟にでも発動できる。意識しなくても近場に水平な地面があればそこへ移動できる。信頼できる力。彼女はバランスを崩さずに目的地に移動するために――そんな時は大体何かを助ける時だ、崩れずに助けるために――その能力を得ていた。なのにこうして戦わなければならない。不幸でしかない。
「ひっ!」
目に涙を浮かべながら逃げる愛花。彼女は、自分はこんなにも戦えないのかと嘆いた。それは相手が生身の人間だからではあった、愛花は、相手を心配し過ぎ、行動できないでいた。
そこで、なぜ――と、愛花は考えた。
(なんであの子、攻撃をあれ以上してこないの? 私から見たらこんなにも怖い存在なのに)
そこでふと気付く。
(私を……気絶させられない? じゃあ私がしないといけない? このままじゃ両方死ぬ。うう……っ。私がやるの? そんな!)
嘆きながらも愛花は必死に考え続けた。
待機の部屋では、うるえが話していた。
「そもそも一般人を相手に一方的な戦いにすれば実験できるんじゃ?……能力の何かを見たいだけなんでしょ? なんでそうしなかったんだろ」
するとシャダが口を開いた。
「いや、そうしたらあの人達は戦わないかも」
「んー……ああ……」
うるえの納得を耳にすると、シャダが。
「あっちの人達も、こちらに癒せる人がいると思って、私達みたいに戦ってるのかもね……生き残り合うことで、もしかしたらジャンズーロに何かできるんじゃないかって。でもそう思わせることまでがジャンズーロの手の上なのかもしれないけど」
「うーん……何かできないか……」
「まだ何も分からないけどね、手なんて」
「方法なんて、私には無さそうに見えるよ」うるえは絶望的に残念がった。
「そう……。まあ、そうよね……」
意気消沈。部屋は静まり返った。
愛花は走っていた。そして一階の、水中実験用小型プールのある部屋をその目でしっかりと見た。広さはそこまでないが深さは割とある。
(溺れさせるしかない? でも直接は絶対に無理! 相手が近付かない! この方法も無理……?)
と思うと、それから目を離し、別の何かを求め、愛花は更に速く走った。
相手と対峙する度に、愛花はゾッとした。
逃げる。ただ逃げる。
途中、相手の少女は痺れを切らし、液体の弾丸を放った。
(そんな能力まで! だから!)
愛花はどれも避けたが、壁に当たって跳ね返った数滴は背中に当たった。すると、愛花は背にじくじくとした痛みを覚えた。
(酸の弾? そんな!)
それからも何度か当たってしまった。腕に。脚に。なす術もなく。
そして息を切らし、もう無理だと態度で示しながら、愛花は――ジャンーズーロの言葉を思い出した。『余計な話をするな、すれば殺す』という類の言葉。
(死にたくない、死にたくないよ。それに、殺したくない。お願い……気絶で済んで!)
愛花は物を浮き輪にした。今度の対象は……床だった。
少女は落下した。変わったのはその足元の床だった。
(これなら!)
そこはプールの上だった。愛花は位置関係を何度も確かめ、何度も計算して逃げ、二階に上がっていたのだった。
そして自らも飛び込んだ。
愛花がそうしたのは酸を浴びた自分の背や手足を水で洗いたいからでもあったが、自身の重みで少女を溺れさせなければ少女自体がプールから出ようとしてしまうからでもあった。その間を与えまいとした。すると。
少女は笑った。
しかも、それは温かな微笑みだった。
少女は足がきちんと水平な場所に着かないために、瞬間移動もできない状態だった。それを知らず、逃げられるかもしれないから別の手段をと必死に考えていた愛花だったが――その微笑みを見た瞬間、涙した。
目を潤ませながら、笑ってもがく少女を、水の中で抑え付けた。
酸を受けた箇所に水が沁み、痛みに苦しみながらも、愛花は奇妙にも笑顔でもがく少女を溺れさせた。それは、とても見ていられない戦い。
恐らく空中にしか少女は酸を生み出せない――と愛花は考えた。少女は足掻いているが、能力を使ってはいないように見えたからだ。そして何かの条件を満たして奇妙な移動をしているのだろう、とも。そして愛花は泳ぎができる分、有利だった。
そして少女は……溺れた。幸せそうな顔で。
愛花は顔を悲しみで歪ませ、泳いでプールを出た。
その時には、少女の体はそこには無かった。愛花の首輪も。
(透明ドアの上の表示が切り替わった筈)
『次は9戦目(『羽』の気絶者数:2、『羽』の死者数:1)』
別室では、愛花の両親と弟と妹が、複雑な表情をしていた。
更に別室では――
「ああ、そんな……! でもこれは最善の手なのよきっと! あの子がそう選んだように見えた! そうよね! あの子もきっと……!」
「ああ、絶対そうだ、大丈夫! そう信じよう……!」
相手の少女の母親が言ったことに、その夫が同意したのだった。やはり相手も脅されていた。だが、これは恵力学園一年五組側には知らされていない。その親とシュバナーにも。天界の力の側には、想像しかできないこと。そして闇界の力の側にとっても、逆の意味でそれは同じだった。
(次は誰が?……あの子は……ちゃんと無事なのかな)
そう思いながら愛花が戻ってきた。今、透明ドアを彼女が閉めた。
その時、今屋村キンが言葉にした。
「なあ、これ詰んでないか? 勝ち筋あるのか?」
「勝ちって誰に勝つんだ?」淡出硝介が言った。「実質、これ、勝負じゃないんだぞ。相手も生かさなきゃ――」
「そんなの分かってるよ、ジャンズーロにだよ。そもそも生かして返してくれるのかな、そこだろ?」
「実験の成果が見えたら解放する、とは言ってたけどな」
「解放してやる」唐突に聞こえたジャンズーロの声。
「それが本当かどうかだよ」
とは、横で聞いていた太一が聞いた。
「ここでのことは忘れさせるがな」
ジャンズーロは、あくまで自分に都合のいいように事を運ばせるつもりだと言っている風だ。
「九人目は誰が出るの?」
切なげな声で、愛花が問い掛けた。
「俺が行くよ」
アスレアによるウェアを着た速水園彦が、首輪を着け、広場に出た。
フィールドはホームセンターへと変わった。そうとしか表現できない場所。フィールドの高さはやはり二階くらいまでしかない。
園彦は歩いた。どこからでもいいと言わんばかりに。
ある時、誰かの歩く音が。園彦はそちらへ向かった。
棚を背にして隠れるようにして見た先に、いた。相手は男。そこまで背も高くない。格闘技をやっていそうでもない。
園彦は、まず考えた。
(どんな力を持ってるか分からないけど……)
そして、それから男の顔を覆うように、水を出現させた。
『水を出し操る』
それによる溺れからの気絶狙い。溺死しなければいいが――とは誰もが思った、愛花の時もだ。
だが、その水が渦を巻き、男の顔から消えた。
「やるね、なるほど今度は水そのものか」
と、男が笑う。これも奇妙な笑みだった。どこか切なげ。
控えの部屋で壁の大画面を見ている目淵正則は、それを見てこう思った。
(あれは多分、俺が気絶させなきゃいけない、そう思ってる顔……)
園彦は絶望した。これができなければ、打撃で気絶させるしかない。そして考えた。
(いや、もしかしたら……。それにしてもどういう力なんだ?)
得体が知れないので、園彦はあまり近付かなかった。離れて身を隠す。男を追い、背後から攻撃する作戦に出たのだった。大事なのは、どんな攻撃をするか。
その頃、待機の部屋では、アスレアが話していた。
「相手はなんであんな力を……闇這のそれに『感じ』が似ている気が……でも、闇這にはコップやテープを操る力なんて」
「――なら、こういう事なんじゃないかな」シャダが頬に手をやって考え、口にした。「ジャンズーロは、闇這に能力が備わる仕掛けを、あの人達に試した。能力を植え付けたんじゃなく、切っ掛けの何かを植え付けた、というような。闇這が天獣のように野生的なら、確かに能力そのものを植え付けても、人間にできる細やかな認識にまで能力が及ぶとは思えない、だから植え付けたのは、備わる仕掛けそのもの。それから芽生えるから、彼らは闇這とは違ってコップやテープを操るなんて芸当ができる――可能性、高いと思わない?」
アスレアは、
「それならまあ……確かに闇這は野生的で……多分、そうでもないと、この状況はありえない……でもそれがスッと出て来るなんて」
と、納得と驚きが混ざった顔を見せた。
「じゃあ能力が備わったかどうかを確認してる?」
とはアスレアが。
「そんなのこんなデスゲームじゃなくてもいいわ」
シャダはやはり冷静だった。
「じゃあなんでこんなことを」
「多分、闇這から受け継ぐもっと別の何か……を確かめてるんじゃないかな」
「別の何か……性質が闇這から……?」
アスレアの中で、とある意見が強まっていった。先程から感じるものがあったからだ。
園彦がこっそり追う中、相手は工具売り場の棚の、端の所で止まった。そして振り返った。
「気付いてないとでも?」
男は細い腕を横に広げた。まあそれはすぐに下ろされたが。
「くっ」園彦は打つ手ナシの顔を見せた。
「水で何ができる?」
「くそっ……なんてな。引き離すことはできる!」
「な!」
園彦は、まず、相手の前方にただ水を存在させた。大量の水だ。それを打ち出す。激しく。激流となる。そこに『水を遠ざける』も使って二重に操ることで、速度が増す。
それを浴びた相手は奥にあった棚にもろに当たった。
「よし!」
園彦がそう言った瞬間、園彦自身の頭上から何かが降った。
「うあああ!」
気付いた時には遅かった。大量の工具商品の雨。園彦は余りの衝撃に倒れ、気を失った。
「速水……!」
阿来ペイリーが嘆いた時、同室の誰もが同じように心配した。それから。
「なんで崩れたんだろ、崩す意味までは……」
海凪麦が部屋の側面にある大画面を見ながら問うと、シャダが答えた。
「多分――棚の螺子を抜いた。ごっそり全部」
「螺子……」
「多分、螺子の能力じゃないよ、釘も、とは思うけど、それだけでもない」
「え?」
「最初のも。水を顔に纏わり付けられた時、その水をどこか別の場所に移したのよ、その空間から水を抜いたって感じで渦巻いてたし、それっぽいでしょ」
「じゃあ抜くって表現できることが全部彼の能力かもってこと?」
「うん」
首輪は透明ドアの横の台に戻ったが、園彦は治療室へ移動した。そこにいる千波由絵が治るように祈りながら楽器を弾いた。すると、園彦は……目を覚ました。
別室では園彦の親と姉が一喜一憂だ。目が覚めたのは嬉しいが、倒れた瞬間はオロオロし通しだったのだから。
『次は10戦目(『羽』の気絶者数:3、『羽』の死者数:1)』
透明ドアの上の表示が変わっている。十人目として進み出たのは――
「じゃあ次は私。『物を操る』――とにかく念力で気絶させる」
杵塚花江だった。
彼女は動き易い寝間着の姿をしていた。
「誰か、二十四センチの靴を履いてる人――」
「あ、私の使って」
佐田山柔が名乗りだし、花江に貸した。
彼女のフィールドは木材置き場となった。
いい場所だと花江は感じた。木材を操りぶつけるのもよし。
切断用の機械の陰、置かれた木材の山、それらに隠れながら様子を窺う。
最初に相手を見付けた時、たまたま目が合った。
相手の少女がその視線をずらした。
花江はゾッとした。振り返った。そして。
背後にあった木材が爆散した。その欠片が花江に飛び掛かる――!
「ふ! あああ!」
腹に力が入り、奇妙な叫び声に。
木片のほとんどが、そこまで小さくなっておらず、花江の胴、胸、そこを重点的に庇った腕、太腿辺りなどに、大量の打撲傷を負わせた。
「く、うう……」
劣勢を強いられ辛そうに歩きながら、花江が歩く。また隠れながら。
また敵と目が合った。花江はその瞬間、強く思った。
(今度はこっち!)
敵自体を操った。相手の少女はふわりと浮き、激しく床へと叩き付けられた。
「かっは」
そこへ、花江が操る木材が襲い掛かる。
だが相手がそれを爆散させた。大きな破片は更に細かい破片となる。そして爆風から身を守るべく、相手は腕を盾にした。相手を襲う木片は小さい。大きな傷も負わなかった。
その後、相手は転がってうつ伏せになり、地面を押して身を起こし、体勢を立て直した。
だが花江が相手の顎を目掛けて別の木材を放つのは素早かった。
だが、相手の視点爆破の方が早かった。
この一戦で最大の爆発音――がした瞬間、花江の背後にあった木材が暴れ舞い、彼女の後頭部を叩いた。
花江は倒れた。
「うっ……」
声を出せたが、意識を――失った。
『次は11戦目(『羽』の気絶者数:4、『羽』の死者数:1)』
治療室に花江が現れ、大月ナオが治した。
「ハナちゃん、大丈夫?……ハナちゃん!」
起きないのかどうなのか。心配したナオの目に、数秒後……花江の開かれた目は……映ることができた。
「ハナちゃん!」
「ごめん、負けちゃった」
「ううん、命があるなら」
そんな時だが、目を覚ました者がもう一人いた。
形快晴己。晴己の口が動いた。
「今どうなってるんだ」
「おお、起きたのか」氷手太一は透明ドアの上の表示を確認しつつ。「今は、次が十一人目。気絶のさせ合いに持っていってる。相手もそうさせようとして戦ってるように見えるけど……どうだろうなぁ」
すると、淡出硝介が。
「ジャンズーロはそれを止めないけど、それでもいいって事なんだろうな、実験には差し障らないのか」
「そうか。言われてみれば。そうなんだろうな」
とは、羽拍友拓が言った。
「大丈夫?」
と、然賀火々末が尋ねた。対して晴己は――
「ああ、大丈夫。それより、分かっていることをとにかく教えてくれ」
花肌キレンは眉根を寄せ、思った。
(ハルちゃんの様子がおかしい。ジャンズーロに怒ったから?……早く普段のハルちゃんを見たい……)
立山太陽が説明をした。これまでのあらゆる流れを。推察も全て。
そして十一人目として――
遠見大志が、無言で、死闘のための首輪をした。