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17 黒い何か。力の正体。そして次は。

 その顔はいつもより凛々しい。ただ、花肌(はなはだ)キレンは怒っていた。

 彼女は、生きて戦うためとはいえ操られただけのズガンダーフを知らずに殺してしまった形快(かたがい)晴己(はるき)に何も言えなかった自分に対しても、元凶のジャンズーロに対しても怒っていた。

 広場は映画館の姿になり、相手とキレンとを隠した。互いに位置を探り、戦う。

 キレンは念じ、『触れた者が眠るルアーを出し操る』によって出した人間大の巨大なルアーを空中に浮かせ、敵の元へそれを送る。『鋭利さをないものとする』で針の部分で敵が傷付かないようにしながら。

 相手は電気を放った。

 だが()ける間はあった。キレンが顔を引っ込めたその背後の座席へと電撃は吸い込まれた。激しい音が鳴った。

 何度もそういった事が起こり、その度に、見ている者がハラハラとし、恐怖する。仲間がまた死の淵に立つのではないかと。

 キレンの新しい力を知らない者は、どうやって勝つのかと気が気ではなかった。別室に閉じ込められている彼女の親も弟もだ。彼女には弟がいた。

 そして相手の雷の轟音度合いがどんどん上がっていく――あまりにも強力に。こちらは相手を気絶させるために必死になるだろうと考える者が多い中、『相手のその威力は殺しに掛かっているのでは』と思う者もいた。だが、その電撃はどれも当たってはいない。

「こちらは気絶させようとして戦うしかないと思っているけど、相手も少しは気付いているんじゃ?」

 もしかしたらと考えたのは立山(たてやま)太陽(たいよう)

「そうかも」とは木江良(きえら)うるえが言った。

 アスレアはそんな時、気付いた。

「黒いエネルギーが目に見える。闇這(やみはい)の原動力に似た何かを彼らが……? だから彼らが力を……?」

 今は、その部屋では、アスレアにしか見えていなかった。

「だとすると何か戦いのヒントになったり……?」

 と、聞いたのは、キレンの戦いを見守る然賀(ねんが)火々末(ひびすえ)だった。対して、答えは朧気(おぼろげ)

「かもしれないけど……まだ、何も分からない――」

 ある時、キレンが雷を放たれた次の瞬間、大きく躍り出て素早く巨大ルアーを向かわせた。それを椅子の下に隠れて()けようとした男性の手に、手のひらくらいの大きさに小型化したルアーが触れた。すると彼はパッタリと無抵抗に倒れた。

 すると電撃の男は消えた。

 キレンの首から首輪が消失。彼女は歩いて同級の皆のいる部屋へ戻った。

 ドアの上の表示は、


『次は6戦目(気絶者数:1、死者数:1)』


 になっていた。こちらの気絶者数は変わっていないが、相手の方では変わっている――のだろうか。相手も同じ表示なのだろうかという疑問がアスレアの頭の中に持ち上がった。

 その時、ジャンズーロが。

「もっと分かりやすくしてやろう」


『次は6戦目(『羽』の気絶者数:1、『羽』の死者数:1)』


 透明なドアにも――羽根のマークが人の頭くらいの大きさで現れた。

 アスレアは思っていた。

(あちらは黒いマークでも出たっていうの?)

 恐ろしさがクッキリとする。

「最初からそうしてろよ、くそっ……いちいち……煽るようなマネしやがって」

 今屋村(いまやむら)キンがそう言った。

 アスレアは考えた。

(ジャンズーロはこれを楽しんでいるのかも。自分の実験のことしか頭にない……?)

 六戦目、進み出たのは目淵(まぶち)正則(ただのり)だった。

「俺が行ってやる」

 首輪を着け、透明ドアを抜け、広場に。闘技場としてのそこは、海辺へと切り替わった。

 これを彼らは『フィールド』と呼ぶことにした。

「このフィールドだとあいつなら」

 そう言った阿来(あらい)ペイリーに、遠見(えんみ)大志(だいし)が。

「でも、相手を殺す技は使えないぞ、使いたくないだろ? ここは気絶させないとやばい場面なんだ」

「そ、そうだった……」

 正則は『目測を正確にする』で周囲の物体の長さなどを正確に把握し、考えた。トラップを仕掛けられないかと。

 彼はアスレアによる動き易い服を着ているが、四苦八苦した。自分は死ぬのではないかと。

 氷を操作した相手の攻撃を必死に()け、『視界の中の物を指で切る』でパラソルの柄を切る。それによって落ちたパラソルで足止めし、どこかへ隠れようとしたその時、そばのジュース売り場の大きな保冷用の箱から台風のような氷の大群に彼は襲われた。

 その幾つかが脳天にジャストミートすると、正則はその場に倒れた。そして治療室へと移された、一瞬で。


『次は7戦目(『羽』の気絶者数:2、『羽』の死者数:1)』


「彼らの力……もしかして、闇這(やみはい)の力?」

「じゃあそれを人間に植え付けて成功しているかどうかの実験? 程度も見てるとか?……人の命を(もてあそ)ぶことで、だけど」

 疑うアスレアにそう言ったのは淡出(あわで)硝介(しょうすけ)だった。

 彼にアスレアが言う――

「そうかも」

 とだけ。

 治療室には大月(おおづき)ナオと千波(ちなみ)由絵(ゆえ)が向かった。そして由絵が、

「今度は私が」

 と。与羽根(アタエバネ)による力で無から作り出したギターを()き鳴らし、歌う由絵。癒す楽器。そこには胸を打つ物が多くあった。そして正則の(ほお)を叩いた。

「起きろ……起きろよ!」

 目に涙を溜めながら由絵がそう言うと、正則が目を覚ました。


 別室にて、正則の両親と妹は、ホッとしながら――この先を思い、切ない想いに駆られない訳が無かった。


 由絵の顔が綻んだ時、正則の隣のベッドから声が。

「う、くそっ、しくじった! どうなった!」

不動(ふどう)くん!」とはナオ。

「ちっ」

 ジャンズーロは舌打ち。

「よかった……」

 仲間も親兄弟も、和行の復活を喜んだ。同時に出てきた正則のことも。

 彼らが治療室から出て来ても広場へのドアの上の『死者数の表示』は変わらず、異論を唱える者が一人だけいた。だがジャンズーロは表示を変えない。

「まあ、死んだけど、蘇生したってことなんじゃない?」

 と由絵が言うと。

「あぁ……! そっか、そっか」

 そう言った異論の主、氷手(ひで)太一(たいち)が、

「よし、まぁ、それなら次は俺だ!」

 と、七人目として進み出た。先程、氷で仲間が気絶させられたから、という想いが彼にはあった。

 フィールドは学校となった。校舎は二階までが出現したようだった。

 太一の相手は武器の調達をしに職員室へ向かった。

 一方、太一は、ある考えがあり、化学室へと入った。

 だがその時。

「相手は化学室だ、さあどうなるかな」

「あ、てめえ! 卑怯だぞ教えるなんて!」

 ジャンズーロに太一が叫ぶと。

「これは実験なんだよ、状況を変えるのも私が勝手にする。そう、(ねずみ)の動きを見るために装置を作り替えるようなものだな」

「なんでこちらに聞こえるように言ったんだ……?」

 とは、立山(たてやま)太陽(たいよう)が言った、独り言ではあったが。

 化学室に向かった相手は、そこに入りはしなかった。ドアから顔を(のぞ)かせるだけ。そして太一を見付けるなり透明な何かを放った。

 太一はそれによって縛られてしまった。

 それはセロハンテープだった。ただ、幾つも重なり頑丈に繋がったもので、しかもそれを相手は念力のようなもので操っていた。

「くっ……! くそ! 動けねえ! ちっくしょ……! なあ! なんであいつの実験に付き合うんだ!」

 太一は縛られ、背にしていた壁に貼り付けられ、必死だった。必死に揺さぶった。

 だが相手は入口のドアに隠れたまま。彼は一向に入らない。

「僕達がやりたくてやってるとでも……? 君らはどうなんだ!」

「余計なことを話すな、今後はそれを禁ずる。話せば殺す」

 ジャンズーロはやはり非道だった。

 その時、太一の前方に、バスケットボールほどの巨大な氷が出現した。話が無理ならあとは戦うのみ。本人は全力でそれを放った。『氷を出す』だけでなく『凍っている物を操る』も同時に使用。

 ただ物を操るだけの方が融通は利くが、凍った物に限定したのは、彼が氷を出せるからでもあるが、もしも狭く深く使うことができるなら、と考えてのことだった。

 その力で放った氷で、ドアは壊れ、倒れた。相手の少年はそれを()け、無防備に。

「動けなくてもこのまま!」

 太一がもう一手を放とうとする。

 相手も動いた。太一の方へと進みながら、もう一つ隠していたセロハンテープの塊、辞書の一(ページ)かのような広さのあるそれを、急いで太一の口元へと念力で向かわせた。

 それにより、太一の口と鼻が塞がれた。

「んぐむっ!」

 だが太一の第二弾の氷も少年の膝に衝突。相手の少年も勢いよく前へと倒れた。

 すると身動きが……できるかと思いきや、太一は動けなかった。口も鼻も。息ができない。

 そこへ相手のダメ押し。紙を付けたセロハンテープで、太一は目も塞がれた。

「んんむま!」

 太一は何かしなければと動きたかったが、動けなかった。自分の体のどこも自由に動かせない。

 ただ、太一が準備をしてからその位置に――化学室の後方の黒板の右横に――いたのは、念のためだった。思い付いたのはここに来てからだったが、目的の物の一つはここにあると、それだけは信じていた。

 彼は必死にとあるボタンを押した。後ろの黒板横の壁際にあるもので、そこに貼り紙もされている。『天井のプロジェクターの起動に使うボタン』と。――人間界か闇界(あんかい)かは分からないが、よく学校が再現されているフィールドだった。それは忠実に作動した――引けばドアが開くのと同じように。

 中央の天井が一メートルほど下りると、そこから缶のような物と冷たい空気が降った。液体窒素とその容器だった。

 相手の少年は、急な寒さに身を震わせた。

 これ以上息が続かない、次の攻撃が最後。そう強く思った太一が次にしたのは――相手の凍った一部を操る、ということだった。普通なら衝撃で壊れてしまうが、そうならないように操ることまでをも彼はやろうとし、念じた。

(吹き飛べっ!)

 そしてその能力は――発動し、想像以上の効果を発揮した!

 少年は、化学室の中から前の廊下の空中までも真っ直ぐに念力で動かされ、かなりの速度で向かいの壁に背中から激突した。そしてそれから相手の靴下や上着の一部がボロボロに崩れた。凍ったものが壊れるまでに、それに掛かるエネルギーをも操ったという事だった。そして床に落ち、前頭部を打つと、少年は動かなくなった。

 すると。太一の動きを封じるテープが緩んだ。

「ぷぁはっ! はあ……っ! はあ……!」

 太一の首輪が消えた。相手は治療室へ。ドア上の表示も変わった。


『次は8戦目(『羽』の気絶者数:2、『羽』の死者数:1)』

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