第二話 ダンジョンクリエイト
「ふぅ、今日も墓地の清掃終わり!いやー、疲れた。毎回思うけどここやっぱでかいなー」
神託の儀を終えてから二年、リエルは『墓守』の仕事を全うしていた。
ここはイロアス大墳墓。この世界に居た英雄たちの遺骨が埋まっている、世界的にも最大の大きさを誇る墓地だ。
若くて体力のあるリエルが広大なこの墓地を任された。
最初の頃は職業的に冒険者になる事が出来ないと知って落胆していたが今はこの仕事にやりがいを持って取り組んでいる。それに、リエルは冒険者の道を諦めたわけじゃない。
「よし!終わったし一度家へ帰るか!」
リエルは墓守用の宿舎に入っていった。
「198……!199……!200……!」
リエルは宿舎に帰ったあと日課の腕立て伏せ、腹筋、背筋、鉄剣での素振りを200回ずつ行っていた。
「よし、これで今日も全部終わりだ!あー、疲れたー!腹減ったし飯の準備でもするかー!」
リエルは昼食の準備をしようとした時、墓地の近くで何かが派手に爆発するような音が聞こえた。
「な、何だ?何が起きた?イタズラか?」
訝しみながら宿舎の扉を開けて何が起きたか確認しに行く。
「な、何だ、これ……?と、塔?」
リエルが目にしたのはイロアス大墳墓の前で先程まで無かったはずの大きな塔が悠然と立ち構えていた。
何故こんな不可解な事が急に起きたのか。リエルはその頭をフル回転させ答えを引き出しから取り出す。
「ッ!そういえばダンジョンについて調べてた時目にしたことがあるな。ダンジョンクリエイト、ある程度魔力が溜まったところに塔が出現し、塔から魔物が溢れ出してそこら一帯をダンジョンのあるべき姿に変える。みたいな……」
流石十数年間冒険者に憧れた者である。が、自分で口に出した時に不味いことも分かってしまった。
「これ、じゃあここの大墳墓がダンジョンになるのか……!?やべぇなそれ……!!早くギルドに連絡しなきゃ……!」
リエルは宿舎に戻り手紙を書く。手紙を書き終わると指笛を吹く。
するとどこからか鳩が飛んでくる。
この鳩は伝書魔鳩。手紙を送ることなどでよく使われる郵便局みたいなものだ。
「冒険者ギルドに持って行ってくれ。頼んだぞ」
鳩の足に着いているホルダーにセットし飛び立たせる。
「っし!あとは……冒険者が来るまでの時間稼ぎも必要だよな……!案外時間無いな……!」
宿舎に置いてあったスクロールを手に取り、腰に鉄剣を差して門前に立ち塔を見据える。
「俺がやるしか、無いんだよな……」
リエルは手を握ったり開いたりしながら自分に問いかける。
事実、冒険者ギルドに手紙が届き、冒険者に依頼をして冒険者が到着するまで、少なくとも五十分以上掛かるのでそれまでに魔物が溢れたらリエルがやらなければならない。
そして、その時が来た。
塔からゴブリンやスライム、コボルト、ミノタウロスなど危険度の幅が大きい大量の種類の魔物が溢れ出てきた。
「……来た!って、多いな……!?」
(溢れ出す……ってホントに溢れ出すのかよ!?)
「やるしかねぇッ!スクロール開放!『炎壁』!」
スクロールを開き魔法を唱えるとリエルと魔物の間に炎の壁が出来る。
「よし!これで時間稼ぎは出来る!」
〈ブモオォォォォォォオオッ!〉
今の内に墓地の門を閉めようとリエルが後ろに下がろうとした時、ミノタウロスが炎の壁を突破してそのまま突っ込んできた。
「なっ!?やばッ!?」
リエルは咄嗟に腰の鉄剣を抜き防ごうとする。が、防ぎきれず吹っ飛ばされる。
「ガッ!ガハッ!」
色々な墓にリエルがぶつかり墓ごと吹っ飛ばしていく。
「いっ、てぇ……!うぅっ……!」
全身がものすごく痛いが鉄剣を持ち衝突をモロに受けた右半身がかなり痛い。リエルの頭から血が流れ、右側の視界が赤く染まっている。
(ミノタウロス……Cランクモンスターって情報じゃ知ってたけど直で戦うとこんな強えのな……)
右半身を引きずりながら立ち上がる。
「クッ……めっ、ちゃ強えじゃねぇかクソ牛が……!」
目の前に居る大きな戦斧を持った牛――ミノタウロスを睨む。
〈ブモオォォォォォォオオッ!〉
ミノタウロスは言葉の意味がわかったのか定かじゃないが戦斧を振り回しリエルの脳天目掛けて振り下ろしてくる。
リエルは避けようと身体を動かそうとするも思っていたよりも痛み動かせず、そのままミノタウロスの戦斧を喰らう――ことは無かった。
「な、何だここ……何処だ……?」
リエルの視界にはミノタウロスや魔物の姿は無く、白一面の世界が広がっていた。
何が起きたか分からずに驚いていると、
「おい、何呆けてんだ?墓守よ」
リエルの後ろから急に声が聞こえ、警戒しつつ後ろを振り返ると、剣を持った黒髪の男が居た。
「だ、誰だあんた?」
リエルは腰に差している鉄剣に手を掛けながら会話する。
「あー、あんま無駄だから俺に斬りかかんのは辞めとけ?」
次の瞬間、俺の腰から鉄剣が消え、男の手に俺の鉄剣が納められていた。
(今……何した……!?何も見えなかった……!)
リエルの頬に冷や汗が垂れる。この男には勝てない。本能で分かる。
「ま、お前がどうとか、俺が誰とかどうだっていいんだよ」
男は投げやりな物言いで鉄剣を投げ返してくる。
(どうでもいいことはないだろう……)
リエルの思いを無視して男は言葉を続ける。
「お前、このままだとあの牛に殺されるけど、良いのか?」
男は真剣な眼差しでリエルを睨む。
「そんなの……良いわけないだろ!俺は、冒険者になるんだ!それまで死ねねぇよ!」
リエルは力強く言い放つ。それを見た男は口角を上げ、
「ハッ、だよな?なら、俺の力を使え。俺の力で助けてやる」
男がリエルに提案したとほぼ同時に半透明な何かが出現した。
半透明な何かには文字が刻まれており、読んでみるとこうだ。
「『剣聖アルス・ワイアットの提案を受け職業 墓守のスキルが解放されました。スキル霊魂取得。霊魂取得を発動させます』……何なんだこれ?」
読み上げたあと急激に激しい頭痛が頭を駆け巡る。
「ガッ!がああっ!」
リエルが痛みに耐えきれず膝から崩れ落ちると、
「今俺のスキルがお前の中にも入ってってる。それで、あっちに戻ったら迷わずこう叫べ。『――――』ってな。分かったか?」
そう男――剣聖アルスが呟くのを聞くと同時にリエルの視界は荒れた墓地へと戻った。
〈ブモオォォォォォォオオッ!〉
ミノタウロスの雄叫びが聞こえる。
「ッ!」
リエルは迷わず叫ぶ。
「『極剣術』!!」
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