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葵編

葵編

「なんで告白しちゃうかな?無理だよ。私たち……付き合えるわけない」


 結葉(ゆいは)にそう言われたのが3時間前。二ヶ月前に撮ったツーショット写真を見ながらため息をつく。結葉を抱き寄せると顔を真っ赤にして素っ頓狂な声を漏らす。それが面白くてスマホで撮った一枚。


 それ以外にも、結葉との写真やアルバムは幾つもあった。お泊まり会をした時に撮った寝顔、パフェを頬張るために口を大きく開ける顔、ドライヤーで髪を乾かす横顔。どれもが可愛くて愛おしい。


 あんまり学校では人気が無かったけど、その理由が全く分からなかった。それぐらい、画面の向こうに閉じ込めた彼女は美しい。気がつけばスマホを眺めてる。


 周りの子たちは「なんで結葉なんかと」って言いってくる。でも、プレゼントにお揃いのピアスを渡したら、「あんたってホントバカよね。校則で穴開けるの禁止なんだけど」なんて言いつつ、次の日にはしっかり穴を開けてきた結葉のどこが可愛くないっていうんだ。


「はー、振られちゃったかー」


 ポツリとため息が漏れる。結構自分には自信があった。女子から告白されたことだって何度もあったし、みんなカッコいいって言ってくれる。自分で言うのも変だが学校の中じゃトップレベルだと思う。


 振られたのは結構ショックだった。て言うか相当ショック。結葉だけが全てってわけじゃなかったけど、考えるのが嫌になるくらいには好きだったから。


 鈍感で不器用で、ちょっと抜けてて、そこが良かった。わざとらしく結葉に好意を見せても気づかなくて、でも多分どう思われるかは何となく分かってて。その上で突き放さない優しさと弱さが大好きだった。


 バレンタインデーの日、「これ本命だから」って結葉に突き出した。すると、「言われなくても食べないよ。てかあんたからあげるんだね。意外」なんて言われた。結葉にあげてんだよ。


 確かに渡すタイプじゃ無いし、そこらの男子よりかは貰ったけど、結葉からもらったチロルチョコが1番嬉しかった。まあ、結葉はそれに気づかないぐらい鈍感で、抜けてるんだけど。


 でもでも、結葉はどう思われてるかは知ってた気がする。結葉とお泊まり会した時、「一緒に風呂入る?」って冗談めかして言ってみた。そしたら「ばっ、バッカじゃないの?バカでしょ!あんた、もう……」と顔を真っ赤にしながら、すっごい照れてた。


 ただの友達ならあそこまで間に受けたりしないと思う。だから恐らく、好意を寄せられていたことには何となく察していたんじゃないかな。


 こんなこと考えたって、告白の返事も壊してしまった関係も変わらないんだけど、現実逃避してないと、ちょっと辛い。


 ダメだ。寝よう。落ち込んだ時は寝るに限る。でも寝入る前に考え事をしてしまうので睡眠薬に頼ってしまう。


 振られた理由は分かってる。でもそんな理由で振られたって認めたくない。どうしようもなかったけど、もしもって考えたら止まらない。結葉を好きになってからずっと悩んできた。


 また考え始めてるし。寝よう。ぐっすり寝て、明日には全部無かったことにしたらいい。結菜との思い出も、こんな……写真フォルダも。


 なんて考えながら結葉の写真を目に焼き付ける。焼き付けたせいか、目頭が熱い。ポタポタと画面に水滴が落ちる。何泣いてんだ。分かってたことだろ。友達じゃ嫌だから、一か八か告白したんだろ。


 口に睡眠薬を放り込み、水で流し込む。ぼやけた視界のまま、写真フォルダを右上の赤いゴミ箱に入れる。でも、写真を閉じても、ホーム画面は結葉のまま。


 スマホのロックだって結葉の誕生日。我ながら気持ち悪い。依存って言うんだっけ?重々しい頭で自嘲する。


 ああ、もういいや、スマホ初期化しちゃえ。予測変換欄に結菜って出てこないの、なんかやだな。


 ベッドに倒れ込むと、頬が枕を濡らす。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。瞼を閉じたら、嫌でも考えないようにしていたことがぽっかりと浮かんだ。


 もし、私が男なら、付き合えたのかな――?


 私はスマホを初期化する。さよなら、結葉。全部、全部……。


 ――――アンインストール。

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― 新着の感想 ―
結葉編から読みました。初めて文章を読むことの面白さがわかった。国語とか嫌いだったのに、今なら好きになれそう。もう手遅れだけど。できることならこの作品に早く出会いたかった。ありがとう、作者様…。 葵…
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