第一章 花の香り
桜が散り、緑が鮮やかに映え出した季節。君は何を想うのだろう。自然に恋い焦がれ、裸足で草原を駆け回ったあの頃が愛おしい。
私が作った木製のブランコに無邪気に乗る君の姿は光に照らされて、美しい羽模様をした可憐な蝶のように輝いている。そして、君は整った真っ白な歯を見せ、私の腕をとって森の中へと誘う。
森の小川は、私たちの水飲み場となり、木々に隠れた可愛い小鳥たちの歌声は、私たちを心地よい眠りへと誘う。
美しい夜空の星々を見上げ、私たちの美しい時の流れに共に心が高鳴った時、君の白くて美しい横顔に一筋の涙が流れた。
私は、一思いに君を抱きしめずにはいられなかった。
いつまでも――。
いつか君は言っただろう。
「今度は、もっと美しい所へ行きましょう。私たちだけの秘密の場所へ」と。
けれど終には君と私の間で交わされた、素晴らしい約束は果たされなかった。
私は、どれだけ心踊らされただろう。自然を愛する君と、君を愛する私とともに出掛けるその時を。
どれほど、待ち続けたろう――。
突風に吹かれ、天高く舞い上がった君の麦藁帽子を私が掴んだその時から――。