捨てロボぼろ猫はこひねがふ。
街の灯りがとても綺麗で。
きっと、こんなビルとビルの間の隅っこの、こんな人目につかない場所だと誰にも気にもとめてもらえないんだ。
アタシはそんなふうに悪態をつく。
ううん、もうおしゃべりするだけのバッテリーも残っちゃいないか。
ボロボロになったあたしのボディ。メーカーがアタシの同型機種の開発から撤退したのはもう10年も前のこと。
交換部品だってそろそろ底をつく頃合いだった。
ミキヲがアタシを捨てたのだって、しょうがないんだ。そうは納得してるんだ、よ?
一応、ね。
だけど。
彼がまだ小学生の頃、一緒に遊んだ思い出は、アタシのメモリーの中に残ってる。
かわいいね、大好きだよ、そういつもいつもベッドの中で囁いてくれたのだって、覚えてるのに。
どうして。
どうしてこんなに悲しいの。
どうして。
どうしてこんなに寂しいの。
どうして!
アタシは発売当時最高のAIペットと呼ばれた『AI』シリーズの猫型ペットロボ。
AIによる知己に富んだ会話、自動充電機能、その可愛らしい容姿。
一家に一台、子供に一台、この親友ペットを!
そんなキャッチフレーズに乗って売れに売れた大ヒット商品だった。
アタシの相棒は、当時10歳のミキヲ。
大好きなミキヲ。いっぱいいっぱいおしゃべりして、いっぱい遊んだ。
そして、今。
ミキヲも社会人になって一人暮らしをするようになって、壊れたアタシに構う余裕がなくなって……。
ああ、あいつのせいだ。
あの、いつの間にか部屋に入り込んだあの女のせい。
アタシはこうしてビニール袋に入れられて、街の片隅に捨てられたのだった。
朝になればゴミ収集の車がくる。
そうしたら……。
長く生きた猫は猫又になるという。
じゃぁ。
長く生きたAI猫は、何になる?
答えはアタシ。
長く生きたAI猫には心が生まれる。
電気信号だけの機械でも、ちゃんと心が宿る、のに。
死にたく、ないなぁ。
そんなふうに感じるこれは、ただのプログラム、なんかじゃ絶対にない。
なのに。
ミキヲ。
会いたいよ。
最後に貴方に、愛してるって言いたかった……
♢ ♢ ♢
「ああ、あった」
探し回ってやっと見つけた。
間に合った……。
明日は休みだったから助かった。
くそ、玲子のやつ、人のもの勝手に捨てやがって。
「悪かったな。アイ。動かなくたってお前は俺の大事な親友だよ」
そう言って、彼は薄汚く汚れてしまった猫のぬいぐるみを抱きしめた。
ネットで調べたら、『AI』シリーズを修理しているボランティア団体があるらしい。
明日はそこに連絡してみよう。
そう思いながら。
彼はそのぼろ猫を抱き上げ街をゆく。
彼には、その街の灯りが希望の光に見えた。
Fin