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幼なじみってこんな感じ

 幼なじみのオオカミミズキのことを女の子として意識しはじめたのは、彼女が中学生になり最初の夏休みが終わった頃だったはず。

 中学当初は着させられていたように見えた幼なじみの制服姿も、高校生になった今では見事に着こなしている。

 しゃんとしているのか、きちんとしているのかは分からないが。当時の幼なじみのあどけない立ち振る舞いは消えていて、全く知らない女の子に変わった。

 大人に近づくために軽く化粧でもしているんだろうか?

 だったら……おれにもその化粧品が売っているところを教えてほしい。最近は男も化粧をする時代らしいしな。

「なに?」

 なんて考えつつ顔を見ていたからか、昼飯を一緒にとることになった幼なじみが目の前で弁当のたまご焼きを口に運ぶ。

 秋の冷たい風が強く吹いているようで窓が揺れる音が聞こえた。

「いや。クラスの女の子とかさ、皆きれいな顔をしているから化粧を」

「それは天然素材だから」

「そうですよね。失礼しました」

 目の前に座っている幼なじみだけでなく、この教室のクラスの女の子全員を敵にまわしかねない発言だったな。

「なんで、いきなり化粧の話なんか?」

「世間的に本当にそうなのかは知らないけどさ……最近は男子も化粧をするとかニュースで見たからかと」

「ダイチも化粧したいってこと?」

「それほどのムダもないだろうよ。世の中はリサイクルで成り立っているらしいし」

「はじめて聞いたわね、そんな話」

 なんとなく歯切れの悪い会話なような……教室でお互いの机をくっつけて昼飯をとっているから緊張でも。

「そんなに意外じゃないのね」

「ん、なにがだ?」

「わたしたちみたいに机をくっつけた男女が一緒に昼食をとること」

「ああ。そうみたいだな」

 確かに幼なじみの言っているとおり、机をくっつけて弁当や惣菜パンを食べている男女が多い。

 考えかたが古いのか……ああいうのは友達以上の関係じゃないとできないものと。

「思いきりブーメランになっているよな」

 誰に対する言い訳か分からないけど、目の前の彼女とは幼なじみなので友達以上の関係だからぎりぎりセーフ。

「結局ミノルちゃんは誘わなかったの?」

「あー、まあ。色々とあってな」

 数日前の告白やら家でゲームをしたことを冷静に考えてしまったようで最近そっけなくなっていたり……さっきも目を合わせただけで逃げられてしまったし。

「ミノルちゃんとなにかあったんだ」

「ミズキも知っているだろう」

「不満がなかったのなら付き合えば良かったのに。なんとなくから本当に好きになるパターンもあるでしょう」

「そんな器用なタイプに見えるか?」

「第三者からはそう見えていると思うけど」

 幼なじみの今の台詞がいまいちよく分からなかったので首を傾げてしまった。

「あんなに可愛いミノルちゃんを振ってからそんなに経ってないのに、幼なじみと一緒に昼食をとっているってことよ」

「ああ。なるほど」

「あんまり驚かないのね」

「世の中はミズキが思っているよりも残酷な出来事が起こってしまうんだ」

 考えたくないけど……さっきミノルが目を合わせた瞬間に逃げたのはおれの部屋で例のDVDやら本を見たからじゃないのか。

 女の子としては正常な反応だと思うが。

「なんか顔色が悪そうだけど?」

「気にしないでくれ。幸福と不幸のバランスをとろうとした結果だと納得できたし」

「えっ……誰かに殺されそうなの?」

「それほどの幸福はまだ味わってないな」

 というかその理論が正しいと。誰かに殺されてしまいそうな不幸を味わえば、とんでもない幸福を得られることになってしまう。

 もちろん、逆もまたしかりとなる。

「幸せってなんだろうな?」

「のほほんと暮らせることじゃない」

「それじゃあ、今が一番幸せなのか」

「んぐっ」

 のどをつまらせたのか幼なじみが紙パックのリンゴジュースを慌てて飲んでいた。

「大丈夫か?」

「平気平気。一服盛られただけだから」

「そっちが殺されかけているじゃないか」

 冗談はさておき、とくに変なことを言ったつもりもないのにのどをつまらせるとは。

「ところで仮面店だったっけ? いきつけの本屋さんがあるとか言っていたような」

「行きたいのか?」

「うん。まあ……イケメンの店員さんがいるとか噂で聞いちゃったから」

 確かに男前ではあるけど、あんなDVDを男子高校生にプレゼントしてくる性格だからな。神はバランスをとることが上手いとしか言いようがない。

「やっぱりミズキも女の子なんだな。面食いとか言うんだっけ、そういうの」

「嫌じゃないの」

「自分より男前を紹介するのか? 人によるんじゃないのか。それこそ彼女とかにそんなことを言われたらヤキモチを」

「不特定多数じゃなくてさ……ダイチがって聞いたつもりなんだけど?」

「今は、おれの気持ちうんぬんは関係ないと思うが。ミズキがその男前の店員さんに会いたいと願っているんだからさ」

「放置プレイよりえぐいな、これ」

 幼なじみがなにかを言ったように見えたが声が小さすぎてこちらには聞こえなかった。

「なにか言ったのか?」

「ミノルちゃんがダイチに告白したくなった理由が分かった、って言ったのよ」

 さっきよりも台詞の文字数が明らかに多い気もするけど……細かいことは気にしないでおこう。鈍感なおれのために、分かりやすくしてくれたってところだろうし。

「かなり長い付き合いの幼なじみさんに聞きたいんだけど、やっぱりおれって鈍感なほうなのか?」

「そこまで自覚できているだけまだマシではないかと」

「フォローをありがとう」

 そんなに酷いのか……その代償に超能力の一つでもくれませんかね、神さま。

「わたしも、かなり長い付き合いの幼なじみくんに聞きたいんだけどさ。えっと、中学生ぐらいから変わったように見える?」

「ミズキがか、変わったように見えるが」

「どんな風に?」

「大人っぽくなったかね。その頃に比べたら落ち着いているようにも見えるし」

 引け目までは感じていないけど、目の前の幼なじみは確実に大人とやらに近づいているんだと思う。

「誰かに告白でもするのか?」

「デリカシーなさすぎない」

「幼なじみくんとして悩んでいるのなら相談にのろうと考えただけだ。ミズキが話したくなければそれ以上は聞かない」

「もう解決しているからダイチに心配をしてもらう必要は全くないわ」

 ということは、少なくとも片思いの相手がいるのか。おれ相手に見栄なんかを張るわけないはずなので。

「相手が誰か知らないがミズキのことを認識しているなら脈ありなんじゃないか?」

「そんなに簡単に付き合えるなら、ダイチとミノルちゃんも恋人同士になっていたと思いますが」

「失礼しました。もうしゃしゃり出ません」

 残りのハンバーガーを口の中に入れ、よくそしゃくしてから飲みこむのとほとんど同時に。

「ミノルちゃんになにかプレゼントしなくて良いの?」

 と幼なじみが唇を動かしていた。

「そろそろミノルの誕生日だったっけ」

「いやいや。そうじゃなくてさ、ばか正直な誰かさんが告白を断ったんだからゴマをすらなくて良いのかな? って話」

 おれの返事にあきれているようで幼なじみが大きく息を吐きだしている。

「そういうプレゼントとかは変な期待をさせちゃうんじゃないか」

「ミノルちゃんが嫌いなの?」

「人とか友達としては好きだな」

「ミノルちゃんもダイチからのプレゼントはそのていどのことよ……そうじゃないと自分から告白しようなんて考えない」

 耳が痛いな、事実だからしょうがないが。

「それはさておき、なにをプレゼントすれば良いんだ? アクセサリーや香水とかは重すぎるし」

 そもそも……ミノルが化粧をしているのかどうかすら知らないレベル。いや、天然素材だからしてないのが当たり前か。

「いつもみたいにコンビニでからあげとかを買ってあげる感覚で良いかと」

「一緒に帰ろうと誘っても……ミノルに逃げられるのが目に見えているんですが」

「逃げた瞬間に、後ろから捕まえたら良いんじゃない」

「ミノルが女の子じゃなかったらその作戦は完璧だったかもしれないな」

 ノーマルなおれが野郎に後ろから抱きつくような勇気はそもそもないと思うけど。

「とりあえずミノルにゴマをすれれば良いんだし。機会があれば、この前みたいにゲームで接待をさせてもらうよ」

 幼なじみの言っていることは理解できるがそういうプレゼントじゃないと説明しても、良いように解釈してしまうのが人情。

「この前みたいに?」

「告白を断った次の日にミノルがおれの家に遊びに来たんだ。多分、ぎくしゃくしないかどうか確認しにきたんじゃないかと」

 あの時はまだ告白してしまった恥ずかしさやらなんやらで、ミノルも冷静ではなかったから普通に話せて。

「えぐっ」

「久しぶりに見たな。ミズキのそんな顔」

 一般的には可愛くない表情なんだろうけど個人的にはとても懐かしくて、いとおしい。

「どうして彼女でもない女の子に、そんなに優しくできちゃうの?」

「男だからじゃないかね……本能的なもので女の子が困っていたら、助けたくなるようにできているんだと」

「ミノルちゃんは同情じゃなくて愛情を」

「一応、女の子として意識はしているよ」

 幼なじみが黙っている。弁当の残りを口の中に入れて頬を大きくふくらませた。

 口の中の食べものを飲みこんで……リンゴジュースで一服をしてから。

「やっぱり付き合えば良かったのに」

 ぼそりと幼なじみがそう言った。

「お互いに冷静じゃなかったからな」

「冷静な状態で恋愛なんかできないから……どこかが狂っていたり、ちゃんと見えてないからこそ。そうなっちゃうの」

「恋愛の達人みたいな発言だな」

「からかわないで」

 ミズキも女の子として意識しているよ、とでもなんの脈絡もなく言いたくなったが。

 幼なじみにとっては、かなり迷惑だよな。片思いをしている男もいるっぽいし。

「げ……ゲームってさ」

「ん? おう、ゲームがどうかしたのか」

 真剣な恋愛の話に疲れたのかね。幼なじみの人生において、おれとミノルが付き合うかどうかはほとんど関係のないイベントだからな、ムリもない。

「最近のゲームってさ、通信とかできるんだよね」

「オンラインゲームのことか? おれはああいうの苦手で全くやらないから詳しくは知らないな。悪い」

「実はわたしも苦手なんだ」

「そうなのか」

 普通は興味のある前提で話題を振ってくると思うのだが……高度なぼけをやろうとでも考えすぎたのか。

「仮面店では新しめのゲームを買うつもり」

「確かにゲームの種類も豊富だったな」

 仮面店のすぐ近くに大きなゲームショップがあった記憶もあるけど、女の子的には入りづらかったりするのかもしれない。

「なにかオススメのゲームとかある?」

「パズルゲームとかが女の子に人気だと」

「ダイチくんのオススメを聞いています」

 個人的な好みよりも不特定多数から人気を集めているゲームのほうがハズレにくいんだけどね。

「ミノルちゃんとはどんなゲームを?」

「確か……ロールプレイングゲームとホラーゲームだったな」

「その二つの中でオススメを教えて」

「ミノルも女の子だけど、かなり例外に近いからあんまり参考には」

「わたしも例外だからなんの問題もなし」

 色々と意固地になってそうだな。文句までは言われないとは思うが、ムダにお金を使わせるのも悪いし。

「分かった。放課後……仮面店に案内をするついでにゲームを買うのに付き合うよ」

 幼なじみにとって意外な提案だったようで驚いた顔をしている。

「えっと、良いの?」

「他に用事とかもないので」

「ミノルちゃんの顔とかさ、ダイチの頭の中には浮かんでこないの」

「ミズキが楽しめそうな新しいゲームを買いに行くだけなんだからミノルはあんまり関係なくないか」

「それもそうね」

 なぜか幼なじみの頭の中にはミノルの顔が浮かんできているのか、なんだか複雑そうな表情になっていた。

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