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負けたのはあっちだし

「もう騙されてくれないんじゃなかったっけ?」

「ついさっきまでお姉さんだと勘違いをしていた、女の子にそう言われてもな」

「なんか、今日は甘えさせてくれているような」

「相手が病人なので」

 ベッドの上で横になっているミノルが、なにかを期待した視線をこちらに向ける。

「なんかあった? お姉ちゃんと」

「告白とかされた」

「そっか。ごめん」

 姉妹なので、ジュンさんがやりそうなことはなんとなく分かってしまうのだろう。

「ダイチも知っているとおり……お姉ちゃんはアレだからさ、気にしないで」

 寝返りを打ちつつミノルはそう言った。この状況でそういう表情はやめてほしい。

 ジュンさんがいることとか、色々と忘れてしまいそうになる。

「なんで遊園地に誘ってくれたの?」

「言わなかったか。小学生の女の子のためだって」

「やっぱり女の子なんだ」

「悪いか」

「んーん、悪くない。ダイチらしいや」

 悪びれもせずに開きなおっているのが面白かったのかミノルが軽く笑う。

「お姉ちゃんも女だけどさ、気にしないで。あたしがかわいすぎるのが原因なだけだし」

「あのさ」

「お幸せに」

「いやいや。まだ結婚するかは分からないような」

「でも、ミズキちゃんを」

「押し切られただけなので」

 ミノルがこちらに身体ごと顔を向けてきた。

「病人なのでリップサービス的な?」

「そこまで悪くなるつもりは今のところないな……本音を伝えただけだよ」

「そんなこと言われたら期待しちゃうけど」

 泣いているところが好きなのは、もう認めるが。今みたいに彼女が目を輝かせているのも、やっぱり男は基本的に頭が弱いのかもしれない。

「それでいい」

「病気になりそう」

「頼むからさっさと治ってくれ」

「うん。さっさと治す。今のは嘘でもうれしい」

 笑みを浮かべているが、まだミノルは病人のためのリップサービスだと思っているようだな。

「ダイチ?」

「まだ、おれにほれてくれているか」

「ミズキちゃんと別れるまでは邪魔しないで我慢をしておこうとは思っていたかな」

「そもそも疑似恋愛なので」

「ミズキちゃんに悪いと思わないの?」

 冷ややかな視線を向け、ミノルが聞いてきた。

「多少はそういう気持ちもある」

「だったら、やめておいたほうがいいんじゃない。あたしの知っているダイチは」

「ミズキとは、ただの幼なじみだからな」

「悪い男の子だね」

「なんとでも言え。おれが今ほしいのは、目の前のミノルだけなんだし」

 まばたきもせず、ミノルがかたまっている。動きだすと彼女は大きく呼吸をくり返していた。

「ごめん。聞こえ」

「かわいすぎるミノルがほしいって言ったんだ」

 頭の中にあったはずの恥ずかしがるためのなにかが壊れてしまったようで淡々と口にできてしまう。

 それでも頬は熱い。一種の興奮状態にでもなっているのか自分の心臓の音がよく聞こえる。

「あんまり病人をからかわ」

「これで信じてくれるか」

 ミノルの唇を奪った。二回ほど、彼女からキスをされていたおかげかスムーズにできていた。

 目が合うと、オスとしての本能なのか自然と舌をからめ……部屋の扉のほうから視線を感じる。

 少しだけ開けた扉の隙間からジュンさんがこちらを覗いていた。角度的に、ミノルとキスをしているところは見られてないはず。

「お姉さんが見ているっぽい」

 小声でそう伝えると、ミノルは布団の中にもぐりこんでくれた。

「メグミノ。妹の具合はどうだ?」

 今さら、開いた扉をノックしながらジュンさんがおれとミノルの関係を再確認するかのように言っている。

「良さそうかと」

「それは良かった。これ、そろそろ食べたくなる頃だと思ってな」

 わざわざ皿に盛りつけたプリンをテーブルの上に置き。ジュンさんは空になった鍋を持って、さっさと部屋を出ていった。

「いった?」

 掛け布団から顔を出しているミノル。

「おう。プリンを届けに来てくれたらしい」

「見られたかな?」

「多分、大丈夫じゃないか」

 お互いに黙ってしまう。プリンを食べる気分でもないようでミノルはそっちに視線も向けない。

「さっきの話、本当?」

「そこまでの悪い男になってないので」

「証拠とか」

「ミノルがねだってくれるのなら、いくらでも」

「以前のダイチのほうが良かったかも」

 なんて言いながらも証拠がほしいようで、耳もとでミノルがねだってくれた。遠慮なく……さっきの続きをさせてもらうことに。




 全てを見透かしたかのような目を幼なじみはしていた。辺りが暗くなっているせいもあってか、なんだか身体全体が寒い。

 まだ、かろうじて太陽は沈んでないのに。

「散歩しながら話そう」

 白い息をはき、幼なじみが提案をしている。

 軽くうなずいて、彼女の家の近くを歩いていく。

「どこまでいったの?」

「今日は遊園地とミノルの家とかだな」

「ミノルちゃんの家で、やったの?」

「あんまりそういうことは言わないほうが良いような気がするんですが」

「キスだけか。ヘタレだなー」

 どちらにしてもヘタレな男の強がりだと思われてしまいそうだし、とくに返事をする必要もないか。

「ミノルちゃん、喜んでいたでしょ」

「そんな単純なものでもない。ネガティブなことも色々と考えていたっぽいし」

「わたしに取られるかもしれないとか?」

「自分で言うな。まあ、そのとおりなんだけど」

 だから……ミノルは証拠がほしかったんだろう。

相手がヘタレだから未遂になってしまったが。

「それで良かったの」

「今のところはミノルが一番、好きなので」

「悪い男の子だな。うそをつくなんて」

「おれが言えたことでもないが、うぬぼれすぎじゃないですかね」

「本当のことだし」

 幼なじみと目が合う。今の自分がどんな顔をしているのか全く分からないけれど、少なくとも彼女のような楽しそうな笑みは浮かべてないはず。

「決め手としては……わたしの泣いているところが見たかったとかじゃない?」

「ノーコメントで」

「わたし的にはわざとミノルちゃんを振って、また泣き顔を見るほうが面白かったと」

「そこまでの変態には、まだなれそうにないな」

「わたしにはできたのに?」

 いつの間にか、お互いに立ち止まっていた。もう幼なじみのことを全く気にしてないとは、さすがに言い切れない。

「意地悪すぎたね」

「ミズキを選ばなかったのは事実だし」

「んー? わたしだから振ったんでしょう。ダイチの唯一の幼なじみだからこそ……甘えてくれた」

「楽観的だな」

「事実なので」

 幼なじみは泣いてくれそうにない。

「おれが好きなのはミノルだ」

「うん。知ってる」

 にへらー、と幼なじみは笑ったままだった。

「でも、それがずっと続くわけじゃないでしょう。女の子に優しいダイチくんだったらなおさら」

「変な予約するのやめてくれません」

 うぬぼれすぎ、とつっこんでくるかと思ったが。

「ミノルちゃんのこと、本当に好きなの?」

「好きだよ。今のところは」

 キスをされた。ミノルが傷つかないように配慮をしてくれたようで頬に唇を押し当てている。

「ばいばい」

 無表情で、幼なじみにそう言われた。あらためて考えてみれば友達と遊び終わって別れる時の顔つきがよく思い出せない。

 また明日も遊べるんだったら、笑っていたっけ。

 返事をしないまま幼なじみと同じように手を振りかえす。

 なんとなく、幼なじみとまた疎遠になってしまいそうな予感がしていた。




「イメージチェンジってやつか?」

「なんの話」

 週明け。なぜか振ったはずの幼なじみと二人きりで学校の屋上で、いつものように惣菜パンやら菓子パンを食べていた。

「化粧を」

「天然素材だから」

「すみませんでした」

 とは謝ったものの……幼なじみが軽く化粧をしてきているのは事実。ファンデーションか、なにかは知らないが魅力的に見える。

 本人だけど、ウミノさんを連想してしまう。

「ところで、どうして一緒に昼食を」

「わたしが食べたいと思っていた場所に、たまたまメグミノくんがいただけでしょう」

「そうでしたか」

 呼びかたについて、つっこむ必要もないよな。

「ミノルちゃんは?」

「ん……ああ。風邪はもう治ったよ」

「気をつかわなくていいから。どうなの?」

「あれから顔を会わせてなかったりします」

「またか」

「まあ、未遂になったとはいえ。そっち方面の話をしてしまったからな」

 なんでメグミノくんのほうは平気なの……とでも言いたそうな冷ややかな目つきを幼なじみから向けられた。

「ミノルちゃんをフォローとかしてあげないの」

「なにをしたらいいのやら」

「頭とかをなでてあげるだけでいいんじゃない」

「犬や猫でもそこまで単純ではないような」

「じゃあ、ただの幼なじみとして助けてあげよう」

 スマートフォンを取りだし、幼なじみがなにやら操作をしている。おそらくLINNをしているようで細い指先がせわしなく動くたびに音がした。

「もうすぐミノルちゃんがここに来るって」

「なんで?」

「ダイチに会いたいからではないかと」

 にやりと幼なじみが笑っているので絶対にそんな理由でミノルがここに来るわけではないと思う。

「こじらせるようなことはしてないよな」

「してない。してない。そんなことしたらメグミノくんに嫌われちゃうじゃん」

「ただの幼なじみ」

「今のところはね」

 遠くから、階段をかけ上がってくる音が聞こえてきたからか幼なじみが屋上の扉のほうに移動をしていく。ゆっくりとこちらを振り返る。

 幼なじみにあっかんべーをされた。つい、その顔に笑ってしまう。

「いつでも甘えてくれていいからね」

 確かに……幼なじみはそう言ったと思うが聞こえなかったふりをしておいた。

 屋上をあとにした幼なじみと入れ替わるかのようにミノルが。走ってきた勢いそのままに抱きついてくる。

「甘えてくれていいよ」

 幼なじみからどんな内容のLINNが届いたのか知らないが言っていたとおり、こじらせるものではなかったらしい。

 恋人のミノルの頭を軽くなでさせてもらう。

 キスをしようと身体が勝手に動いたけれど、学校ということもあり理性が上回ったようだな。

「してくれないの?」

「それ、まじで反則だからな」

 好きだとか嫌いだとか、甘えられるとかどうとかはまだ分からないままだが。少なくとも今のおれはミノルがほしいと思っていることだけは事実で。

「ミノル。がまんできそうにないかもしれない」

「しなくていいよ」

 どこかから幼なじみが見ている可能性がある……なんて不安は一切なく。純粋に欲望のままにおれはミノルを力強く抱きしめていた。

 不安そうに身体を震わせているミノルも、ぎこちなくだが甘えさせてくれていた。

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