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ミステリ終了、ラブコメ開始

「なにしているの?」

「ダイチお兄ちゃんにもたれています」

 今のウミノさんの質問はどちらかというとおれに聞いていた気もするけど、リンちゃんが先に答えてしまった。

 まだ高校生だし大人げないという言葉は間違っているのかもしれないけど、小学生の女の子に向けていい目つきではないと思う。

「わたしは、そのダイチお兄ちゃんに聞いたつもりだったんだけど」

「リンちゃんがここに座りたかったようなのでそうさせております」

「へー、それならわたしも同じように頼べばそこに座らせてくれるんですか?」

「さすがにウミノさんは大きすぎるような」

「ウミノお姉ちゃんは重量オーバーなんですね」

 まだ小学生だし……悪気はないはずなのだが人を傷つけてしまう場合もあるな。それを分かっているウミノさんでも動揺をしているようだし。

「リンちゃん……ウミノさんは重量オーバーだからじゃなくてお兄ちゃんとの年齢が」

「わたしとダイチお兄ちゃんもそこまで年齢がはなれてないのでは?」

「心の年齢のほうかな」

「ウミノお姉ちゃんを意識している、と」

 さすがに本人の前で否定をするわけにもいかないので黙って首を縦に振っておいた。

「けどウミノお姉ちゃんのほうはダイチお兄ちゃんを意識してないんですよね。小学生のわたしみたいに座りたいと願っているので」

「そうだろうね」

 丸くした大きな目をリンちゃんがこちらに向け、胸板に右耳をあてがっていた。

「肯定なんですか」

「ウミノさんが本当はどう思っているのかは分からないけどさ、お兄ちゃんはそこまでうぬぼれてないからね」

「なるほど」

 なにか考えているのかリンちゃんが目を閉じた。もしかしたら、疲れてしまい眠ってしまったのかもしれない。

「わたしもメグミノくんをちゃんと意識しているんですが」

 黒の革靴を脱いでウミノさんもこたつに足をつっこんでいく。横から見ているからか普段よりも幼い顔立ちに見える。

「言い寄っている男を断るための方便かと」

「そっちのほうがメグミノくんと仲良くなるための嘘。という可能性もありませんか」

「それこそ、うぬぼれですよ」

 ウミノさんは笑ってくれなかった。多分、眠っているのであろうリンちゃんに視線を向ける。

 リンちゃんのやわらかそうな頬を人差し指でつついて、眠っていることをウミノさんが確認した。

「そっとしておいてあげたほうが」

 そんな注意をあっさりと無視して、ウミノさんがスマートフォンでおれとリンちゃんの写真をなん枚も撮っていく。

「なるほどなるほど。メグミノくんは年下の女の子にしか興味がないからこそ、二人も同級生をはべらせているんですね」

「言いかたに悪意がありすぎるような。リンちゃんに頼まれたからそうしただけなので」

「そんなメグミノくんだったら……もう一人ぐらい女の子をはべらせても平気なのでは」

 今度はこっちが笑えなかった。

「わたしもはべらせてほしい、と頼んだらメグミノくんなら叶えてくれそうですし」

「女の子に騙されすぎるのも悪いことだと」

「そのとおり」

 ウミノさんが言えたことでもないはずだが一応は正しいのであろう。すぐ近くに女の子を二人はべらせることになったやつもいるんだし。

 騙されていた自覚は全くないけどな。

「本当の恋愛ではなくて、疑似恋愛だったらウミノさんとしてみたいですかね」

「その設定まで大切にしてくれる必要はもうないのでは。疑似恋愛とはいえ、わたしと付き合うことになるんだから」

「同じ女の子だとしても。オオカミミズキとウミノスイは別人だと思っているので」

「面倒くさいな」

 そうウミノさんがいつも通りに、オオカミミズキの声音に戻していた。化粧でここまで変身できるのかと最初は驚いたりもしたが。

「バイト禁止でもないんだから化粧をする必要ないんじゃないのか?」

「どちらかというと……メグミノくんにキスをしたちびっこやら先ほどのお客さんにからかわれるのが主な理由」

 あと、ウケが良いんですよ。守ってあげたくなるような女の子、冗談まじりで口にしているが同調はできない。

「メグミノくんも、ウミノさんだからこそ疑似恋愛してみようと思ったんでしょうし」

「やつあたりはやめてください。少なくともケーキバイキングの件についてはミノルの計画だったはずなので」

 普通の女の子がいだく感情かは微妙だが、あたしがつばをつけた男に手をだすな。的なミノルの牽制だったのかもしれない。

「実はミノルとは仲が悪いのか?」

「わたしはそうでもないけど。ミノルちゃんのほうは名前を覚えてくれてなさそうかな」

 これ以上は聞かないでおこう。

「そんなことよりも本当にわたしと疑似恋愛をするつもりはあるんですか?」

「あるよ」

 というよりは嘘をついたりすることに疲れてきていたが正しいのか。ミノルへの罪悪感とか女の子を傷つけるとか他にも色々と。

「ずっと、おれが好きなのはミズキだったからな」

「疑似恋愛するのはウミノさんのほうなんですけどね。メグミノくん」

 ウミノさんが笑うのをやめた。互いに顔を見つめ合っているせいか空気が重くなっていく気がする。

「ミノルちゃんはどうするの?」

「なんとか諦めさせるよ」

「だったら、わたしと疑似恋愛なんかをする必要もなくオオカミミズキさんと本当の恋愛をすれば」

「おれに騙されてくれ。ウミノさん」

 はにかんでいるのか困りながらもそれを楽しんでいるような表情をウミノさんがしていた。

「しょうがないですね。それが今のメグミノくんの精一杯の誠意なんでしょうし」

「悪い」

「ただし」

 やわらかなウミノさんの両手がおれの左右の頬にそれぞれ伸び、唇にキスをされた。

 リンちゃんがいるから動くことが。せめて今だけは絶対に目を覚まさないでくれよ。

「へへっ、契約成立です」

「リンちゃんがいない場所ででも良かったのでは」

「今したかったんですよ。それに嘘をつけるようになったメグミノくんがすなおにキスをさせてくれるとも限りません」

「そう思っているんだったら」

「今のメグミノくんのほうが好き、理由なんてそれだけで充分でしょう?」

 そんな返事をされた時点でやっとこさ嘘をつけるようになった男は降参するしかない。

 リンちゃんの幸せそうな寝顔を見たからか大きく息をはきだしていた。




「やだ」

 まだウミノさんの正体と疑似恋愛について話しただけなのに、ミノルにスマートフォン越しに否定をされた。

「なにが嫌なんだよ」

 自室のベッドであお向けになっているからか……まぶたが重い。けど、今じゃないとミノルにさっきの幼なじみとの話を伝えられない。

 色々な感覚が麻痺している今じゃないと。

「今の話をわざわざあたしにしたってことはダイチが嫌われようとしているからだし」

「ミノルにはアメミヤという偉大な男が」

「あれは論外」

「そうだとしてもアメミヤがミノルを求めているのは事実だろう」

「あたしの気持ちは無視するの?」

「ああ」

 悪いな……は必要ない。女友達のミノルに嫌われなければならないんだから。

「分かった」

「おう。話はそれだけだから」

「ダイチがそういうつもりだったら、こっちも無視する」

 まだ想定内。あのミノルがそうそう簡単に諦めてくれそうにないのはよく知っている。

「もう騙されてやれないぞ」

「かわいい。ダイチもイキがることがあるんだね」

「おれは本気で」

「本気だったらウミノさんと疑似恋愛しようなんて考えないでしょう。あたしの知っているダイチくんはそういう男の子だし」

 彼女と疑似恋愛したいってことはさ、まだあたしにもつけいるスキがあるわけだ……とミノルがけらけら笑う。

「ごめん。怒った?」

「怒ってないし。ミノルの言うとおりだし」

「好き?」

「騙されてやらないって言っただろう」

「じゃあ、嫌いだ。ってはっきり言ってよ」

 それを本人に簡単に言えるのならここまで苦労をしていない。女友達を失いたくないと卑怯なことを考えているのが一番むかつく。

「嫌いになりたいわけじゃないからな……結果的にそうしなければならないだけで」

「どっち?」

「友達のままで良いのなら好きだよ」

「やさしー、ダイチくん」

「からかうなよ」

「でもさ、今はあたしだけを見てくれているよね。恋人になりたいと願うミズキちゃんじゃなくて嫌いになろうとしている女の子に」

 このまま話せば、いつものようにミノルのペースに巻きこまれて。

「切るぞ」

「うん、おやすみ。ダイチが電話かけてきてくれたから」

 電話を切った。

 言われたとおり、まだミノルに対して未練があるようで。こんな風に考えている時点ですでに彼女のことを……できるだけ頭の中を真っ白にしつつ目を閉じた。




「おはよう。友達のダイチくん」

 月曜日。普段と同じ時間帯に学校に行こうと玄関の扉を開けるとミノルが立っていた。

 記憶が正しければ先週の金曜日に友達として付き合うのも嫌になると思う電話を目の前の彼女としていたはず。

「お、おはよう」

「今日もいい天気だね」

「ムリがないか」

 小雨ていどだけど降っているしな。

「傘は?」

「忘れた」

 わざと傘を忘れてきたと考えるのは……さすがに勘ぐりすぎか。コンクリートの濡れぐあいを見るとついさっき降ってきたようだし。

「あいよ」

「相合傘じゃないんだね」

「悪ぶるなよ。さすがに今日の雨はぐうぜんだったんだろう」

 返事はなかった……傘が大きいせいか普段よりもミノルが小さい気がする。

「今日だけだから」

「そうか」

「だからさ、手とかつないでいい?」

「騙されてやれないって言ったよな」

 黙ってしまった。いや、これもミノルの作戦か。ウミノさんと疑似恋愛すると決めた時点でこうすることもきちんと頭では理解していたはずなのに。

 こちらが会話さえするつもりがないと判断をしたようでミノルが早足ではなれていく。

 いつもと同じ道なのに、ミノルと会話をしてないだけでずいぶんと学校が遠くなったような感覚。

「おはようございます……今日はかなり天気が悪いですね」

 ほんの一瞬、ミノルが戻ってきたのかと思ったがリンちゃんだった。どこにでもいる小学生らしく、なにかしらのキャラクターが印刷された傘をさしている。

「おはよう。リンちゃん」

「なにか考えごとでもしていたんですか?」

「ちょっとね」

「ほおう。ちょっとね、について考えていたんですね」

 わざわざ、ボケてくれたのではなく真面目な返事だったようでリンちゃんの表情が変わらない。

「てっきり……さっきまで一緒に並んで歩いていた女の子について考えていたのかと」

「見てたの?」

「目を開けて歩かないと危ないので」

「そうだよね」

「ウミノお姉ちゃんと疑似恋愛するんじゃ、ありませんでしたっけ」

 こちらを責めているというより単純な疑問なのかリンちゃんの声には抑揚がなかった。

「するよ。ウミノお姉ちゃんと疑似恋愛」

「さっきの女の子は友達なんですね」

「そうだよ」

「だったら仲なおりしたほうがいいのでは」

「ケンカなんかしてないけど」

 リンちゃんが不思議そうな顔をした。

「友達とケンカしてないなら、一緒に学校に行こうと。あっ……ごめんなさい」

 小学生に謝られて、さらに気をつかわせてしまうとは。

「そんなに気にしなくていいよ」

「いえ、一生の不覚です。こんな失礼なことをしてしまったのはアクロ山荘事件以来……本当にすみません」

 謝罪の言葉より気になるワードが聞こえた気が。いや、今はそっちじゃなくて。

「大丈夫。大丈夫。ほら、リンちゃんとお兄ちゃんは友達だから大抵のことは失礼にならないよ」

「落とし前をつけさせてください」

 話がぜんぜん聞こえてない。リンちゃんの気持ちが楽になると願いながら彼女なりの落とし前とやらをつけさせてもらうことにした。

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