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シンプルにうらやましい

「うそなんかつかなくて良いから。どうせネクタイとか袖でも引っぱられてミズキちゃんにキスされたんでしょう」

 放課後。他の生徒がいなくなり教室で二人きりになったタイミングで昼休みの幼なじみとの出来事を少し改変をして暴露したのだが、あっさりとバレてしまった。

「あのへたれのダイチくんがそんなことできるわけないし」

「せめて、チキンにしといてくれ。美味しく食べてもらえそうだしさ」

「なるほど。だからキスもされやすいのか」

「わざわざ、そこに絡めなくて良いのでは」

 というよりは墓穴か、普通は女の子のほうが食べられるはずなんだけどな。

「ビンタとかしないのか?」

「付き合っているわけじゃないし……ダイチが他の女の子となにをしていても文句は言えないからね」

「嫌いになったほうが楽では」

「おこちゃまか。完璧に清廉潔白な人間がいるわけないんだから、そんなことでいちいち嫌いになっていたらやってられないわ」

 こちらのほうが本来のミノルなんだと思うけど、やっぱりまだ違和感がある。

「けど、むかつかないわけじゃないのでそこだけは勘違いしないように」

「了解です」

「笑うところじゃないかと」

「つい、ミノルらしいと思ってな」

 とりあえず学校の七不思議デートコースを巡ろうかと思い。音楽室のほうに行こうか? とミノルにたずねたが首を横に振られた。

「他のところからか?」

「んーん。このまま話してたいだけ」

「いつものおしゃべりになるが」

「それが良い」

「そうか」

 ミノル本人がそれで良いと言っているんだしムリヤリに移動をさせる必要もないよな。

「ミノル。意地悪な質問をしても良いか?」

「成長して女の子をいじめたくなったダイチのためなら、いくらでも協力しますよ」

 なんて冗談っぽい台詞を口にしながらも真剣な話だと判断してくれたようで椅子に座っている。

 ミノルと向かい合わせになるように腰をおろす。

 顔が近い。両手で頬杖をついているミノルがにまにまとした表情でこちらを見つめる。

「ウミノさんのことなんだが」

「おっ。ダイチくんもやっとほれられていることに気づいたのか」

「話がはやくて助かるよ」

 ま、おれと違って同性でもあるミノルだから……なにかしら通ずるものがあったのだろう。

「簡単に楽になる方法を」

「却下」

「一応、女友達としてアドバイスしておいてあげるとウミノさんはあたしやミズキちゃんより数段タチが悪いから気をつけるように」

「タチが悪そうじゃなくてか」

 ミノルは返事をしてくれなかった……なんとなく目つきがデート中に他の女の子のことを口にしないでね、と言っているっぽい。

「悪かった」

「頭をなでさせてやる」

「そりゃどうも」

 あくまでもミノルさんの頭をなでさせてもらっているだけなので、と心の中で自分に言いわけをくり返す。

「こっちも意地悪な質問をしていい?」

「なんなりとお聞かせください」

「ダイチが大好きなミズキちゃんとキスをしたのに悩んでいるってことは、まだあたしにもチャンスがあるんだよね」

「おれが悪党なだけかと」

「悪い男のほうがあたしは好きだったり」

「変な男に引っかかるなよ」

「今のところは大丈夫じゃないかなー。相手があのダイチなんだからさ」

 どのダイチなのかは考えないことにするとして。ずいぶんと幸せそうな表情をしてくれるよな。

「ねえ、やっぱり七不思議巡りしたくなってきた」

「そうかい。じゃあ、行こうか」

「エスコート」

「肩車でもすればいいのか?」

「それも面白いかもしれないねえ。スカートの中をのぞきながら太ももに挟まれるなんて」

「おれが悪かった」

 バンザイをして、さっさと白旗をあげる。

 ミノルを肩車している場面をほんの少しだけ想像したおかげか簡単に彼女の左手を握れていた。

「この手の握りかた、プロだな」

 緊張しているのか? とか軽くからかいたかったが、ミノルの左手が小刻みに震えているのでやめておこう。

 それにしても、個人的には手を握るよりも身体を密着されるほうが心臓に悪いんだけど性別の違いのせいだったりするのかね。

「鞄は?」

「ぐるっと校舎を一周するだけなんだから、そんなに時間もかからないと思う」

「それもそうだな」

 ミノルの歩調に合わせつつ、教室を出ようとしたところで彼女がブレーキをかけてきた。

「今日は手をつながないでおきましょう」

「気をつかってもらって悪いな。女の子と手を握るの久しぶりだからさ」

 悪態の一つでもほしいところなんだけど……あからさますぎたか。ミノルににらまれた。

「男子的には強引にリードする場面では?」

「女の子に泣かれたくないので」

「先日、目の前のダイチくんにあたしは泣かされたんですが」

「ミノルが楽しそうに笑ってくれているほうが好きなんだよ」

「分かりやすすぎるおべっかはやめて」

 今日は手をつながないでおこうとか言っていた気がするのだが……にこにこしてくれているミノルがおれの右手を握る。

 今のミノルにつっこむのは野暮だと判断し学校の七不思議があった場所を巡っていく。

 途中で他の生徒たちとすれ違ったり遠巻きに眺められていたけれど。ミノルとの身長差のせいか幸せそうなカップルを見るような視線ではなかった、と個人的には思う。

 そもそもミノルが男女関係なく……距離のちかい生きものという認識が強いからかもしれない。

「そろそろ帰ろうか」

 音楽室で幽霊であろうモナカさんが筋トレをしてないことを確認し終わったところで、ミノルが手をはなした。

「違うからね」

 なにがだ? そうミノルに聞こうとする前に茶髪を軽くあそばせている男子生徒がこちらに近づいてきた。スーツを着ていれば、ホストに間違われてもおかしくなさそう。

 黙ったままでホストっぽいやつが顔を見てきたので、とりあえず頭を下げておいた。

「えっと」

「おっと……名前は言わなくていい。あんた、メグミノダイチだろう?」

「そうだが。話したことはないよな」

「ああ。けど、あんたとおれはライバルだ」

 少なくとも面白そうなやつではあるらしい。ライバルか……ミノルの表情がくもっていることも関係しているのなら。

「モノハさんと話したいことがあるみたいだから、おれはこのへんで」

「ちょっと待て」

「待てよ! ライバル」

 昼休みのことで疲れているしな、これ以上のややこしい話はやめてほしいんだが。

「空気を読んでよ」

「空気を読んだ結果が逃亡だったんだよ……それにアメミヤが用があるのはモノハさんのほうだし」

 ホストっぽいやつの名前は、アメミヤソラだったはず。あのアメミヤで間違いないと思う。

「どうして、おれの名前を?」

「知らないほうが少ないんじゃないか。あの事件の当事者なんだからさ」

「ふっ、青いタケヤマ事件のことか。懐かしいな」

「他にもあるのかよ」

「おっと、アクロ山荘事件のほうだったか」

 その事件でもないのだが、話がぜんぜん進まないのでうなずいておくことに……さっきからミノルが複雑な顔つきをしている理由が分かってしまった。

「アクロ山荘事件の当事者だということが分かっているなら、おれの偉大さも理解をしているはず」

「まあ……そうだな」

 良い悪いはともかく並外れてはいる。

「それなら話がはやい。おれの彼女から手をひいてくれ」

「手をひくもなにも」

「やだ」

 ミノルが右腕に抱きついている。ついさっきまでアメミヤと関わらないようにしてくれていただろうに心境の変化がはやすぎませんか。

「モノハさん、そういうくっつきかたは」

「もういいよ……いつもみたいにミノルって呼んでくれて。このアホにはそれくらいじゃないと伝わらないから」

「誤解されるような」

「あたしとは遊びだったんだ。へえー」

 もしかしたら、これはおれを殺すための計画なんじゃないかと思ったが、偉大なアメミヤさんの顔色が悪くなっていく。

 先ほどまでの自信ありげな彼の姿はもうどこにもなかった。

「今日のところはこれくらいにしておこう」

「大丈夫か」

「大丈夫だったらとどめを刺すの?」

「ミノル、黙っていてくれ。今はアメミヤと真剣な話を」

「オッケー。完璧に理解したよ。今の彼女への呼びかたが全ての答えだということだな」

 うそをつくのが苦手ってこういう時に本当に不便だよなー。楽しそうににやにやするのをやめてくれませんか、ミノルさん。

「ちょっと待て。誤解をするなよ……確かにミノルと呼んでいるし。仲も良いが」

「頭もなでてくれるぐらいの仲なんだぜ」

「あー、うん。それも事実なんだけどさ」

「キスもしたよね。しかも、可愛い女の子のあたしのほうから二回も」

 お手上げだった。そもそも、おしゃべりが上手なミノルさんがそばにいる時点でどうやっても勝ち目なんてなかったんだ。

 おれにも、アメミヤにも。

「その、今の話は全て事実なん」

「だから、おれの女のミノルに関わるな。とあたしの彼氏は言っております」

「変な通訳するな! アメミヤ、今のは」

「分かっているよ。だが……それでもおれは彼女にほれている。メグミノ、お前よりも」

 さすがにミノルも黙っている……今のはやりすぎだったとようやく反省をしたのか、おれを盾にするように隠れていた。

「恋愛はいつだって戦いだ。恋人だからって油断をしないことだな」

 アメミヤがこちらに背を向ける。

「待てよ」

「なんだ? ライバル」

「おれとミノルは付き合ってない。さっきの話は全て事実だけどな」

「彼女から」

「いんや……頭をなでたのもキスをしたのもおれのほうからだよ」

 こちらに真っすぐに目を合わせてきた。

 しばらくしてからアメミヤが軽く笑う。

「みくびられたものだな。ライバルよ、そのていどのうそも見抜けない男だと思っているのか? 付き合ってないことだけは本当のようだが」

「おれのライバルだったら、どうしてそんなことを言ったのか分かるだろう」

「ふっ、全く分からないな」

 そういえば、こいつはアホだった。説明するのも野暮なので色々と察してくれ、と答えるとアメミヤは高笑いをあげつつどこかに行ってしまった。

「で、ミノルはなんで付き合わないんだ? そんなに悪いやつじゃなさそうなのに」

「アホで、顔がタイプじゃないから」

 顔の良し悪しに関しては知らないが確かに相手をするのは疲れてしまいそうではある。

「けど、ちょっとだけ好きになったかも」

「良いやつそうだしな」

 ミノルが不思議そうに首を傾げた。

「珍しいこともあるね。ダイチが分かりにくいうそをつくなんて」

 なんとなくミノルが目をきらきらさせている理由は分かるがそれではないと思う。

 もっと単純にあのアメミヤの真っすぐさに憧れているんだろう。

「良いやつってのは他人の悪口を絶対に言わないんだな」

 思わず口にしてしまっていた。さっきの話を聞かされたらアメミヤでも怒りそうなものなのに。

「というよりアホだから悪口が思い浮かばなかっただけじゃない」

「おれのライバルにはきびしいのな」

「恋の?」

「人としての」

「そっか。良かった」

 アメミヤに少し同情していた。アホなだけで悪いやつではないのに、ここまで嫌われるとは。

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