おばけトンネル
「ラジオネーム“赤い永遠の少年”さんから頂きました。僕の近所には、幽霊が出ると噂されるトンネルがあります。4丁目4番地4号にあるその場所は、あの世に繋がっているとされ、通称『おばけトンネル』と呼ばれています。昔、親子がトンネル内で事故に遭ったと言われており、子供や若者が、度々肝試しに訪れるそうです……」
「お疲れ様でした」
僕はラジオの仕事を終え、帰路を急いだ。
『おばけトンネル』、そう呼ばれているトンネルが、うちの近所にもあったような。
僕は、とくに霊感もないし、そういったものをあまり気にしたことがなかった。
人は、見えないもの、聞こえないものを信じようがないのだと思う。
僕は、わざわざ何処かに出向いて肝試しをしようとは思わない。
それは、彼らの聖域な気がして、侵してはいけない気がするからだ。
土足で勝手に部屋に入り込まれたら、誰だって怒るだろう。
僕はコンビニに立ち寄り、夜道を歩いていると、ランドセルを背負った少年が目の前を横切った。
こんな時間に? 夜も深くなるころだ。
子供が遊んでいていいわけがない。
駆けて行くランドセルを背負った少年を、僕はなんとなく追った。
角を曲がったところで僕は少年を見失った。
「あれ? 確かにこっちの方向に行った気が……!」
僕は息を呑んだ。
目の前には、トンネルがあった。
そうだ、ここは4丁目4番地4号にある『おばけトンネル』だ。
あのラジオで読み上げたメールのその場所に、今、僕はいる。
トンネルの中は、切れかけた電灯がチカチカしており、薄暗く、トンネルの向こうは闇に包まれている。
あの世に繋がっていると言われれば、そんな気もしてくる。
ふと、我に返ると、先ほどの少年が目に入った。
赤いTシャツに半ズボン、ランドセルを背負っている。
まさか、こんな時間にここで肝試しを?
「キミ、こんな時間にこんな場所で何してるんだい? 危ないじゃないか」
「なんだよ、おじさん。家に帰るところだよ」
「家に? でもここって……」
「僕の家は、このトンネルの向こうなんだ」
「えっ、キミはここを通って、おうちに……?」
「ここを通らなきゃ帰れないんだ」
僕はトンネルを見つめた。
あのメールを読んだからだろうか、この先には行ってはならない気がした。
「おじさん、ついて来てくれる?」
少年から、聞きたくなかった返答が戻って来た。
彼もきっと、ここを通るのがきっと嫌なのだろう。
「えっと……そのぉ、他の道はないのかな?」
「おじさん、ビビってんの?」
少年は笑った。
僕は意を決し、少年と共にトンネルの中へと向かった。
少年と僕の足音が反響し、進む度、妙なざわざわした声が聴こえてくる気がした。
恐怖が、僕の体をこわばらせる。
トンネルの真ん中あたりまで進んだところで、ふっと周囲の音が消え、僕の耳元で女性の声が聴こえた。
「おいで……」
「ば、ばけものだぁあ!!」
僕は一目散に来た道を引き返し、トンネルから飛び出した。
心臓がバクバクと音を立てている。
僕は、トンネルの方を、ゆっくり振り返った。
そこには、静かで薄暗いトンネルが、何もなかったかのように存在していた。
あれ、少年は?
少年がいない!!
まさか、つ、連れて行かれた!?
どうしよう!!
あの赤いTシャツの少年が!!!
ん? 赤いTシャツの少年……。
あのメールを、ラジオに送って来たのは……。
“赤い永遠の少年”
まさか!
ここは、親子がトンネル内で事故に遭った場所……。
幽霊やおばけと呼ばれるものは、白い服を着ていて、髪が長く、足がない……。
そんなテンプレートのような像が僕の脳内にはある。
手も足もある、会話もした、あの少年が……!?
じゃあ、あの声の女性は、母親?
いや、そんなバカな……!!
ラジオに送られて来たあのメールは、僕を呼んでいたのだろうか。
僕はそれ以来、その『おばけトンネル』には近づかないようにしている。