3、アレン兄と食事
喉が詰まりそうだ、私だって貴族の娘だ、偉い方々と上品に食事したことはあるが、このプレッシャーはその比ではない。
「…………」
「そんなに緊張しなくても良いですよ、僕にも王族とは思わず発言してもらって構いません、不敬罪など言いませんから………」
(この状況でリラックスできるわけないだろ)
なんせ、今、一緒に食卓を囲んでいるのは王族、つい先日まで戦場でクソまずい食料しか食ってない身からするとこの料理達は物凄く美味い、しかし、慣れてない美味と王族と卓を囲んでいるという事実の精神的ストレスに、なんか吐きそうだ。
「弟が失礼しました、なにぶん好奇心が強いものでして………」
「いえ、気にしてませんので」
アレン兄の謝罪を適当に流す私。
「全く、弟に頼んだのがいけませんでしたね」
「頼んだ?」
「これは失礼、実は元々、貴女に用事がありまして」
「なるほど、それで、用事というのは?」
「勲章を授与したいのです」
「勲章?」
「はい」
ああ、なるほど、そういえば軍のお偉いさんも私をえらい褒めていたな、勲章くらい授与されるか、だけど……………。
「すみませんが、お断りしてもよろしいでしょうか?」
「理由を聞いても?」
食卓についてから観察しているが、さっきの王族と思わず発言して良いという発言は嘘ではないようなので、遠慮なく断る。
「私なんかに豪華な式を開くぐらいだったら、その分のお金を国民に回してあげてください、別に出世したいわけでもないので、今の少佐という立場で十分満足しています」
「なるほど」
……というのはもちろん建前だ、本音はこれ以上偉くなって責任重くなるのも嫌だし、そもそももう結婚相手もいないのだ、これ以上お金を貰っても虚しいだけ、私一人ぐらいだったら十分生きていける貯金はもうたまってるし。
「優しく気高い、素晴らしい女性ですね、貴女は………」
「そんなことないですよ」
「そういえば名乗り忘れていました、ロイです、以後お見知りおきを………」
「良い名前ですね」
アレン兄は少し感心した様子で私を褒めてくる、適当に受け流すもくすぐったさから頬をポリポリ掻く、アレン兄改めロイは名前を教えてくれる、たとえうんこという名前ですら対応可能な返答をする私、いや、流石にうんこは無理か。
「実は勲章授与だけでなく、貴女の結婚式を国を挙げて盛大に祝いたいのですが」
「……………」
「兵士たちに聞いたのですが戦争が終わったら結婚するらしいですね、人生でも指折りの幸せがスタートする式なのです、我が国を勝利へ導いた貴女の結婚式ぐらいは豪華に祝いたいのですが、それも嫌でしょうか?」
「いえ、いやとかそういうわけではなく、婚約者に婚約破棄をされてしまい、結婚式自体ががキャンセルになってしまいました」
「はい?」
私の無言を勘違いしたのか、断ると思ったらしいが、そもそも婚約破棄された私は結婚なんかできない、結婚できないんだから結婚式なんてできるはずもない、そう言うとロイはさっきまでの落ち着いた様子は消え、驚愕に目を見開き、間抜けな声を出す。