12、ロイの部屋
「それで、私を指名したのは何故なのでしょうか?」
「へ???」
ある程度雑談した後、さりげなくロイの部屋の扉を閉める、万が一にも人に聞かれたらまずい理由だったら面倒くさいからな、不可解だった疑問を彼に問う私。
「いや、答えたくなかったら答えなくても結構ですが、少し気になりまして」
「そ、それはその、貴方がす、す、」
「酢?」
「す、す、すごい気が合うからです!!!」
「なるほど」
なんか挙動不審な動きをするロイ、す、す、と口籠った後、すごい気があうからと答えてくる、最初は酢?、すっぱそうな女だからか?、とか邪推してしまったが、なるほど、おそらくだが、周りには基本的にはおべっかばっかりの人間が多い中、私のようにある程度対等に接してくれる人間は得難いから手元に置いておきたい、といった所だろう、王子様ってのも大変なんだな。
「ありがとうございます、色々案内してくれて、助かりました、では外で警備してるので何かあれば声をかけてください」
「ーーーあ、ま、待ってください!!!」
「はい?、どうされましたか?」
「そ、外ではなくて部屋の中にいて良いですよ」
「よ、宜しいのですか?」
「はい、寧ろいてくれると安心して仕事ができるのでお願いします」
とりあえず今日出来る仕事は護衛ぐらいだと思って部屋の外にでも待機してようとすると、ロイから待ったがかかる、どうやら部屋内に居て欲しいらしい、彼にそう言われてしまったら従うしかない。
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ロイ視点
(あ、危なかった、初日早々彼女に告白してしまう所だった)
なんで指名したのか理由を聞かれて馬鹿正直に答えようとしまった自分、なんとか誤魔化したが、気づかれてないよな。
「どうされました?、顔色が悪いですよ?」
「ーーーーッッッッッ??!!!、い、いやなんでもないよッッッ!!!」
「?」
物思いに耽っているとイヴさんが心配そうな顔で覗き込んでくる、いきなりの接近に上擦った声をあげてしまう、僕の様子にはてなマークを浮かべ、小首をかしげる彼女。
(か、可愛い)
「あ、折角なので紅茶淹れますね、ティーセットはどこにあるんだろ」
「ティーセットならそこに置いてあります」
「えと、ああ、これか、ありがとうございます」
不意に紅茶を淹れると言い出す彼女、ティーセットの場所を教えると、テキパキと準備を始める、軍服に白いエプロンをつけるというなんとも言えない組合わせも彼女が着てさえいれば最上級のコーディネートに思えた。
(恋が盲目とはよく言ったものだな)
自分のことながら呆れる。
「……………」
せっせと準備を進める彼女をぼんやり眺める、紅茶に四苦八苦してる様を見ていると、つい先日、暗殺者を返り討ちにした人と同一人物には思えない、もしかしたらあれは実際は無かった事じゃないかとさえ思えてくるが、だが僕がどう思おうが現実に起こった事だ、僕は間違いなくこの人に命を救われたのだ。
「出来ましたよ、ロイ様」
「あ、ありがとう、いただくよ」
そうやってノンビリ待っているといつの間にか淹れ終わる紅茶、差し出されたティーカップに口をつける。
「ーー!!、お、美味しいですね」
「お口に合って良かったです」
予想以上に美味しく、びっくりする、湯の温度も丁度良く、良い香りが鼻腔をくすぐる、彼女は微笑をしながら返答する。
「これはお菓子も一緒に食べないと」
「へ?、ろ、ロイ様、夕飯前ですからお菓子は控えた方がよろしいかと」
「しかし、これほど美味い紅茶を茶菓子なしというのは……」
あまりの美味しさに茶菓子が欲しくなってしまった僕、夕飯前だからとイヴさんは止めようとするも、こんなに美味しい紅茶を茶菓子なしで飲むというのは勿体無さすぎる。
「仕方ありませんね、少々お待ちを、お菓子を作ってきますので」
「え?、イヴさん、お菓子も作れるんですか?」
「はい、出来ますよ」
根負けしたように呟くと彼女は茶菓子を作ってくると言い出す。
「あ、すいません」
「な、なんですか?」
一瞬止まったかと思うと、不意に近づいてくる彼女にドギマギしてしまう。
「厨房に行きたのですが、護衛対象のロイ様から離れるわけにはいきません、一緒に来てくれますか?」
「ああ、そんな事か、もちろん良いですよ」
何事かと思ったが、確かに守る対象から離れてしまったら護衛とは言えない、ただ一緒に厨房へ来てくれというだけの話だった。
(いつか、兵と王族という関係ではなく、妻と夫という関係で並んで歩きたいな)
人知れずそんな事を考えてしまう僕、その願いはきっと叶うことはないだろう。




