地球は思ったより侵食されてるんだよ。
マユリ「地球よ、私は帰ってきた~!」
アリス「あんまり用事ないけど地球は地球で良い世界よね」
エマージェンシーコールが鳴り響く。
樹脂製のふちの赤いローテーブルの上にはお菓子の空き箱や袋が乱雑に積まれている。床にはゲームのケースや漫画本、下着、ゴミ類などが乱雑に散らばっている。汚部屋である。
真っ白なローブを着た少女はのたりと布団から這い出す。せめて室内着に着替えれば?
少女は銀髪碧眼でこの世のものとは思えないほど美しかったが頬にお菓子の食べかすがついているので台無しであった。
「うっさいわね~。監理局? めんどくさ。仕事か」
彼女の名前は遊浦木カリン、ただの異世界転生後の帰還者である。
「ハイハイ、またどっかのアホの邪神でも逃げてきたの?」
『ああ、よく聞け、過去最大級の神気持ちが来た。宇宙崩壊レベルだ』
「……お休み」
『寝るなあー!!』
「いや、さすがにさ、一聖女にどないせえって言うのよ。むりむりむりむり」
彼女は異世界転生者監理局の特級聖女ではある。異世界から来たいろいろな災いに世間が気づく前に対応する、もしくは記憶や記録を消し去るのが仕事だ。しかし最近は動画サイトや掲示板にポンポン異世界の動画が乗るようになった。一つの次元の一つの世界ならいいもののそうではない。あちこちの平行世界からの介入を受けて、もはや止めようが無くなってきた。
最近では異世界から気軽に転移を持ちかけてくる神などが現れてこちらの世界のものも気楽に遊びにいったりしている。収拾がつかなくなっているのだ。
なのでカリンは思うのだ。もう働かなくてよくね?と。
「よそから逃げてきた邪神程度なら滅ぼすけどそりゃ無理でしょ。消し去ってもなにもなかったみたいに生き返るやつじゃん」
『向こうも破壊活動を始めているとかダンジョンを作っているわけではないからお客さんと思って迎えに行ってくれ』
「異世界の神が迷い込んできたんじゃなくて遊びに来た感じね……。まあ私が出向くしかないか。勇者とかスキル持ちとかにも出動かけといてよ」
『そこまでする必要はないだろうな。そのつもりならすでに世界は終わっている』
「そんなに危ないやつじゃないのか……」
「うん。私はマユリ。安全な女神だよ。お姉さん、このポテチ湿気てるよぉ。直そ。うん、パリパリになった」
「……あー、神だ。こんにちは。おい碇屋司令、こっちに直で来たわ神」
『……なるべく無茶はしないように言ってくれ』
なんかここに行くといいと神さまに言われたからお邪魔してるんだよ。地球人のファッションにした。灰色のセーターに白いカーディガンに白いミニスカート。この部屋本やゲームのケースが足の踏み場もないほど散らかっていてすさまじいんだよ。創造スキルをよそさまのお宅の掃除に使う日が来るとは思わなかったんだよ。
「ぐえええ! 片付いた部屋あっ!?」
「苦しみだしたよ?!」
見た目が綺麗な聖女さまなのにゴミ部屋じゃないと呼吸ができなくなるの?! あ、落ち着いた。
「こう、さ、あるじゃん。乱雑に見えてもどこになにがあるか把握してるから動かしてほしくないとかさ……あるじゃん……」
「覚え直したらいいんだよ。散らかしてると転ぶよ?」
「くそう、神はこれだから……」
「聖女なのに神への敬愛もないんだね?! いいけどね?!」
それにしても日本には意外と聖女や魔女や勇者や神が帰ってきているらしい。それらをまとめているのが異世界転生者監理局だ。彼女はその中でも一番の実力者だという。神気をこれだけまとっていたら地球くらいは壊せるはずだ。創造神レベルだと星の一個や二個消えても困らないからね。直そうと思えば直っているから。
「お姉さんでもさ、さすがに下着その辺りに脱ぎ散らかしてるのはどうかと思うんだよ?」
「いいんだよ、誰か来るわけじゃなし」
「来たよ?」
「神はこれだから……」
「町を散歩したいんだよ。付き合ってよお姉さん」
「なにがあろうが乗り越えるでしょあんたなら」
「それはそれ」
なんでもどうでもなるけど案内人はほしいよね。一人で遊ぶのつまんない。
「動画配信していい?」
「最近の神は動画サイトに降りてるのか」
「神曲を何時間も聞いてたら通信制限が来るんだよ」
「神なのに」
神でも通信制限には勝てないんだよ。いや、なかったことにできるけどちゃんと商品にはお金を払わないと駄目だよね。それと同じだよ。まあ私お金いらないけどね。
「さあおでかけおでかけ」
「その小学生みたいなポシェットいる?」
「可愛いよ?」
「いや、長身の美人には似合わない」
むう、昔欲しかったポシェット作ってみたのに。今の体だと似合わないらしい。ちょっと大人な革のバッグに変えてみる。
「さあ行こう! 冒険の旅へ!」
「しないから冒険。今日は迷い込んだゴブリンとか始末するくらいだから」
「いいんだよ。現代を旅するんだよ。人生は旅なんだよ。神だけど。終わらない旅なんだよ」
「哲学っぽく言わなくていいから。神ジョークはやめなさい」
神なのに面白くないんだよ。神にもできないことがあるんだね! とにかくせっかく帰ってきたのでウインドウショッピングくらいするんだよ。動画配信スタート。マユポン動画だよ。世乙辺はこっちの神様がいるから配信やめたんだよ。すごく惜しまれたけど常連さんにはマユポン配ってあげた。世界の境界線がゆるゆるな気がするんだけど。
(カレー:うげえ、なんで日本に戻ってるんだ?!)
(ハツネ:うあ、カリンじゃん!? あんた行方不明だったんじゃないの? なんで銀髪になってんの?!)
「はい? ハツネぇ?!」
「知り合いなの? 奇縁だねぇ」
「神め、変なとこで縁を結びやがって……。異世界行って聖女やってたのよ!」
(ハツネ:すごい似合わないな!)
「分かっとるわ!」
ハツネお姉ちゃんを呼んだのは私だけど、やっぱり異世界との縁がある領域みたいなのはあるんだね。二人は腐れ縁の親友らしいよ。
「カリンお姉ちゃんも遊びに来ると良いよぉ」
「……まあ神なら良いのか。次元間移動なんてめちゃくちゃ神気食うでしょうに」
「ん? そんなにロスないよ? マユポンあげるね」
「くそ、私も創造神レベルの神気使って遊びたいわ……」
「お姉ちゃんの神気も地球人からしたら超チートだよ? お金いらないでしょ?」
「経済回したいからお金はいりまーす」
「妙に律儀なんだよ?」
お金を回さないと不況になるんだよ。貯金なんて無駄なことはやめるよ。貯金なかった。私も日本円稼がないと駄目かな? 宵越しの銭は持たねぇ!
「年齢的にはマユリは高校生か。バイトする?」
「話が早いんだよ。さすが聖女」
そういうわけでバイトをすることになったんだよ。
(仰ぐ:どういうわけだ)
(アリス:仰がないなぁ)
マユリ「地球も楽しいんだよ!」
カリン「いっぱい遊んでいけばいいやぁ」




